私、モンスター退治にゆく1
陸奥屋一乃組へ出稽古に来ていると、失念してしまうことがある。
私の職種はについてだ。自分が魔法使いだということを、よく忘れてしまうのである。
そう、私の職種は魔法使い。戦士でなければ剣士でもない。あくまでも離れた場所から、個人あるいは広範囲に魔法を放ち、キルや敵のダメージを稼ぐのだ。近接戦闘に参加しない訳ではないのだが、それにしても陸奥屋一乃組での稽古は、白兵戦に特化しすぎている。これでは自分の職種を忘れても、仕方ないと言える。
そんな訳で、本日は探索。
お忘れの方もいらっしゃるだろうが、フィールドに出てアイテムを探したり、モンスター相手に経験値を稼いだりするのが目的のコンテンツである。
「で、探索に出て来たのはいいのだが。ホロホロ、なにか欲しいアイテムでもあるのかな?」
現在位置はマグラの森の一〇層。すでに私たちマヨウンジャーにとっては、取るに足らない階層と成り下がった場所である。
「よくぞ訊いてくださいました、マスター! 本日はちょっとした特訓企画を用意してきました!」
ん? ホロホロのテンションが、やけに高い。これはどういうことか? ホロホロの相方とも言える、ドワーフのベルキラに目をやる。ベルキラは私から目を逸らした。罰のわるそうな、微妙な苦笑いもふくんでいる。
「迷走戦隊マヨウンジャー特訓企画っ! 本日のお題は~~………こちらっ! ちゃらん♪」
ホロホロのちゃらん♪ に応じて、コリンが企画タイトルを書いた画用紙を掲げる。
それをホロホロが読み上げた。
「特訓っ! 個人個人のスキルを鍛えてみよーーっ!」
………ホロホロにはネーミングセンスが無いようだ。いや、そんなセンスは欠落して生まれて来たか、あるいは最初から期待してはいけないレベルなのかもしれない。
「………うん、なんとなくわかったよ、ホロホロ。これから出くわすモンスターを倒すのに、メインになる者とサブに回る者とを分けて、鍛えていこうっていうんだね?」
「おしいっ! マスター、ニアピン賞!」
ノリノリだな、ホロホロ。本当に今回の企画、お前ひとりで練り上げたようだな。そうでなきゃここまで入れ込む理由が無いし、ここまでスムーズに話が進行する訳が無い。
「例えばこの場に、動きの素早い森トカゲが現れたとしましょう!」
ホロホロが例え話をすると、ベルキラがおずおずと手を挙げた。
「ホロホロ、私は素早い敵の対処を練習したいな」
「はい! パワー重視な体質のためスピードを強化したいベルキラが、手を挙げてくれました! すると仲間想いな私たちは、ベルキラ一人で森トカゲと対決させてあげたくなります!」
いや待て、ホロホロ。君はいきなり何を言い出すのかな? つーか断定かよ。
「え? ホロホロ! もしかするとブルファイターのオークが現れたりしたら、パワー不足に悩んでいるアタシが手を挙げても良いって話なのかしらっ!」
コリン、お前はセリフが棒読み過ぎ………。
「まあ、コリン! あなたパワー不足に悩んでたのねっ? 気づいてあげられなくてゴメンなさい、悪いお姉ちゃんを許してね!」
私は一体いつまで、このダイコン芝居に付き合わなければならないのか………?
「ホロホロさん、ホロホロさん。実は私たぬきもまた、新しい杖技を試したくってですね………」
「もちろんだよ、たぬき! 剣士のモンスターが現れたら、優先的にチャレンジさせてあげるね!」
まあ、たぬきがしゃしゃり出て来るのは、いつもの事………。
「もちろんチャレンジャーがピンチに陥ったら、残りのメンバーがフォローするってことで。どうかなマスター、この企画?」
「うん、悪くはないね。悪くはない………。だけどホロホロ、この特訓企画はいつひらめいて、今日の実行に至ったのかな?」
「昨日の夜にひらめいて、今日の夕方、マスターがインする前に打ち合わせしたんだよ?」
「付け焼き刃企画かよ!」
拳骨食らわしてやろうかな、ウチの娘っ子ときたら………。
「ですがぁ、マスター? それぞれの得意不得意を細かく強化していくのは、なかなかグーなアイデアだと思うんですが~~♪」
「いやまぁ、確かにそれはそうなんだが………」
本当に大丈夫なのだろうか、この企画は。
「大丈夫大丈夫! このお姉ちゃんに、まかせなさい!」
いや、ホロホロ。お前は本当に今、テンパり過ぎてパンクしたような目をしてるからな? 今の私には、不安要素しか見えて来ないからな?
しかし私の心配をよそに、マヨウンジャーは快進撃を続けた。
「ベルキラ、ハーピーだよ!」
「上空からの攻撃にも、慌てるんじゃないわよ!」
人面鳥三羽を相手に、ベルキラは慌てず騒がず。まずは敵の動きを見る。それから砂魔法を地上から撃って目潰し。戦斧を握り直し、動きの鈍った敵を貫く。それをたったの二回繰り返しただけで、魔鳥は撤退した。
鎌首を持ち上げた大蛇が現れた時は、アキラとホロホロの魔法合戦になる。どちらが大量のリードを獲得するか、競い合うことになった。しかし充分に接近したところで、アキラはあっさりと同じボクシングスタイルに立ち戻る。
ホロホロの弓矢で動きを止めて、アキラが拳を振るう。ホロホロが魔法を放つと、アキラも魔法を使い戦果を広げた。二人の呼吸は合っていると判定できる。
モモやコリンも問題無し。モモは魔法系モンスターに接近戦を挑み、コリンはパワー系モンスターをキリキリ舞いさせ、いずれも快勝していた。
問題は私である。