私、鎖鎌を練習する
他の武器も練習して、自分の武器の精髄を探ろう!
という企画はいいのだが、そのチョイスがイカレている。戦斧のベルキラと槍のコリンが、日本刀の練習。モーニングスターのモモが鞭、ステッキの私が鎖鎌。弓矢と短剣を使っているホロホロが、メリケンサックという塩梅。このセンスには、さすがの私も首をかしげる。
で、今回はジャック先生による、武器チョイスの理由である。
「まずはクラフトスキル所持者のベルキラ。日本刀の特徴は何だろうね?」
ジャック先生の問いかけに、ベルキラは迷わず答えた。
「はい! 格好いいところです!」
いきなりボケるな。
「そう、日本刀は斬ってよし、突いてよしの万能兵器なんだ」
ジャック先生、ベルキラのボケをスルーせんでやって下さい。
「つまり日本刀は振り上げて斬りおろす上下運動と、突いて引く前後運動の稽古になる。斧に前後運動、槍に上下運動を取り入れるも良し。既存の動きに磨きをかけるも良し。自分の好みの稽古ができるんだ」
「槍に上下運動?」
コリンが頭をひねった。当然の疑問である。槍は突くものであって、斬るものではない。
「と、思うじゃん?」
ジャック先生は悪そうな笑みを浮かべた。
「確かに槍で斬ることは無いだろう。長物で斬りたいなら、薙刀を使うべきだ。槍の上下運動っていうのは、叩くっていう攻撃さ」
例えば槍対槍。
お互い敵に一番近い部位は、前手である。しかしこれを突くには、的が小さすぎる。
「ということで、槍で敵の拳を叩くのさ」
「手甲で守られてるのに、効果があるのかな?」
ホロホロの質問に、ジャック先生はまたまた「我が意を得たり」という笑み。
「まず、槍って武器は本当はすごく重たい。しかも長いから、作用点でのエネルギーは莫大なものになる」
さらに。
「実は和槍という武器、しなるんだ」
柄と槍先の間に割り竹のような柔らかな素材を嵌め込み、先端がしなるようになっているということだ。
「このしなりを活かして打ち込めば、古戦場では骨まで砕けたそうだよ」
「………あ! 長物の戦斧も、先端が尖ってますね!」
「そう! 戦斧は槍としても使えるから、突き技の稽古はしておくべきだ」
ということで、日本刀問題は解決。
次はモーニングスター、片手柄から鎖が伸びて、先端にトゲトゲ鉄球がついた武器を使うモモ。そこに鞭とは、これ如何に?
「モモさんのモーニングスター術は、まだまだ開発の余地がある。試しにそこの藁人形を叩いてみてくれるかな?」
はいと言って、モモは藁人形の前に立つ。鉄球を振り回し、藁人形の肩口に一撃。さらには水平に振って、側頭部へ一撃。
「じゃあ、俺がモーニングスターを使うと、どうなるか?」
備え付けの得物を手に、ジャック先生は藁人形の前へ。
ドン!
藁人形の顔面が、ふっ飛んだ。
ドン!
今度は胴体に風穴があいた。
モモの攻撃が振り回してゴン! ならば、ジャック先生の攻撃は一直線。藁人形の体を貫くような一撃だ。
「これをモモさんが覚えると、攻撃の幅が広がる。そしてこの打ち方、威力も高いんだ」
「ほえ………」
モモはポカンと口を開けていた。
正直言って、私も何が威力を倍化させたのか? その根拠は解らない。まるで魔法のような技術である。果たしてモモはこの謎技術。手に入れることができるのか………。
「渋い顔をしている場合じゃないよ、マミヤさん」
ジャック先生は左手に鎌、右手に鎖である。だが右手で鎖をしごきながら、一輪、二輪、三輪を作る。鎖鎌ならば分銅を振り回すものだろうに、そのリーチの有利を捨てるような真似を、ジャック先生はしている。
ユキさんを呼ぶ。
呼ばれたユキさんは、黙って木刀を正眼………中段の高さで地面と水平に構えた。
ジャック先生はそれに対し、左肩を出したまったくの半身。
「マミヤさんにしてもらいたい稽古は、これだよ」
正面を向くと同時、ジャック先生は分銅を上から下へと降りおろす。
ジャック先生に対し真っ直ぐに構えられた木刀。ジャック先生の分銅は、その木刀に絡みついたのだ。
木刀が横向きならば、分銅が絡みつくのは分かる。だがしかし、木刀はジャック先生に切っ先を向けていたのだ。絡みつく訳がない。いやしかし、現に分銅は木刀に絡みついている。
「………なにを、どうして?」
こうなった?
解らない。というか、絡みつく訳がない。
「簡単だよ、マミヤさん。ステッキで撃ち抜くように、分銅を降りおろすんだ」
ただ、それだけだ。としかジャック先生は言わない。
すぐにホロホロのメリケンサックへと移る。
「弓矢で鍛えられた背中を使って、簡単なボクシングテクニックをなぞろうか。その拳に、ダガーが握られてると想定して」
………………………………。
ベルキラとコリンの剣は、ユキさんが見る。モモの鞭はジャック先生が。そしてホロホロのメリケンサックは魔法使いのシャドウが担当。そして私の鎖鎌だが………。
「………………………………」
「そんなに不満そうな顔、しないで下さい」
「いや、忍者と鎖鎌の相性が抜群すぎて、言葉を失っただけです」
忍者は鎖をしごいて輪を三つこしらえると、余った分銅と鎖をダラリと垂らした。
「意外じゃありませんでしたか、ステッキに鎖鎌なんて」
「開いた口がふさがらなかった」
「そりゃそうだ。ステッキで叩く技術を、鎖鎌で上達だなんて考えないさ、普通は」
藁人形には木刀がくくりつけられている。忍者は真横を向いて構えた。
ブンッと空気が唸りジャラッと鎖が鳴る。
忍者の鎖分銅もまた、正確に木刀へと巻きついた。
「マミヤさんはジャック先生から、手の内を習いましたか?」
「手の内?」
「斬る手、とか………」
「あぁ、斬る手ね。習ったけど、習っただけで。チェックとか修正とかは、してもらってない」
「ステッキ術には必用な技だから、手の内は覚えておいて下さい」
忍者にうながされて、藁人形の前へ。私も鎖鎌アタックだ。
鎖分銅を叩き込む。
しかし木刀に巻きつくことなく、ただただ床板を叩いただけだった。