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私、レベル5初陣におもむく


 たぬきが鍛える。

 アキラも鍛える。

 もちろん私たちも陸奥屋一乃組で稽古に励み、レベル5初陣である。

 ブリーフィングルームで私たちは、まず対戦相手の確認。今年度の厳冬期イベントに参加したチームだと知る。レベル6のメンバーが中心。魔法使いが三人もいるのが特徴だ。

「戦士剣士と回復役の、合計六人ね。魔法を撃ってくるかしら?」

「来るだろうね………。むしろこの、戦士剣士の二人。格闘戦より魔法戦の方が得意かもしれないよ?」

「だとしたら、序盤は散開。的を絞らせずに外してかわして、かな?」

 私が訊くと、ホロホロは渋い顔。

「範囲魔法なんかは使われたくないよね」

「範囲魔法でねらってくるなら、まずは火力の高い私か………」

 ベルキラが言う。

「あるいは回復役のモモ」

「魔法使いを先に潰すという戦法も、定石らしいですよぉ?」

「そうなるとベルキラ、モモちゃん、マスターはバラけて行動。それぞれのサポートには………」

「私は、防御の薄いホロホロの盾になる」

 ドワーフで頑丈なベルキラが、申し出た。

「アタシはモモを守るわ」

 コリンがひと肌脱いでくれる。

「じゃあボクは、マスターと一緒だね」

「このタッグにはたぬきもいる。敵にひと泡吹いてもらおうじゃないか」

 ということで、今度はたぬきの投入時期についてだ。先日我らが軍師ホロホロと、陸奥屋一乃組の忍者とで紛糾した問題だが、結局結論には至らなかった。両者ともに小学生レベルの低俗な罵り合いになってしまい、軍議どころでなくなってしまったのである。

「たぬきの投入時期に関しては、あまりにもデータが少ないと思うの。だから今回は忍者さんの穴だらけ策を採用して、ヘビが出るか(じゃ)が出るか………」

 どっちも蛇になってるぞ、とベルキラがツッコミを入れる。

「………鬼が出るか蛇が出るか。確認したいと思うのね」

 ということで、たぬき投入の機会は私に一任された。

「マスターならたぬきを、どこで投入しますか?」

 アキラが訊いてくる。

「私はホロホロほど視野が広くない。各個戦闘にしか目がいかないから、アキラのサポートのため、という使い方がメインになると思う」

 まずは基本だ。

 きちっと敵の攻撃を妨害する。

 きちっとダメージを与える。

 きちっとキルを獲得する。

 ポイントが確実に入る。

 敵にポイントを与えない。

 勝利はその上に成立するものだ。面白くない、詰まらないと言うなかれ。必殺技の逆転勝利ばかりが勝ちではないのだ。いや、我々マヨウンジャーなら、そのような勝利を「サーカス」とか「アクロバット」と呼んで笑うだろう。

 私たちの持ち味は、ハラハラドキドキのスリリングな戦いではない。勝てる戦さを勝つべくして勝利する。勝てない戦さならばどのように揺さぶり、崩して勝ちを得るか。その工夫こそがマヨウンジャーの戦いなのだ。

「さて、そうなると配置(シフト)だね」

 センターの奥深いポジション。これはコリンとモモのタッグ。今回のポイントマンとなりそうなベルキラ・ホロホロのタッグをライトに。私とアキラはレフトに布陣。

 ブリーフィングタイム、終了。

「さあ、ヘビが出るか(じゃ)が出るか!」

「ホロホロ、さっきもツッコんだが、どっちも蛇になってるぞ」

「開幕だよ! 開幕っ!」

 ベルキラのツッコミをよそに、開幕の銅鑼が鳴る。

「前進ーーっ!」

 ホロホロの号令で、私たちは駆け出した。

「マスター、敵から魔法の匂いが!」

 アキラが鼻を効かせる。そして鋭い視力が、魔法の発射を捕らえたらしい。

「範囲魔法、三発! 着弾予想地点、十五歩前方っ!」

 ホロホロから、散開の号令。私たちは散らばることで魔法を回避した。敵の攻撃は、開幕いきなりの範囲魔法だった。

「初弾回避でノーダメージなんて、敵も焦るかしら?」

「そうあってもらいたいものですねぇ、コリンさん」

「ホロホロ、どこからねらう?」

 私が訊いてみる。

 敵の布陣は、戦士剣士が前面に。魔法使いと回復役が後方というものだ。

「私とマスターで魔法使いの妨害。ベルキラとアキラに前衛を攻撃してもらう、ってどう?」

「アキラの調子が悪いようなら、アタシたちが飛び込むわ!」

「おまかせください、アキラ君♪」

 ということで、方針としては敵の前衛からキルをいただく。魔法使いは嫌がらせ程度に相手をする、という方向に決定。

 私とホロホロで長距離攻撃を開始。ねらうは三人いる魔法使いの中で、たった一人。これは一度魔法使いの中に、不公平感を出すためだ。そうすることで敵のリズムが狂えば、それだけで御の字である。

 まずはホロホロの矢が命中。さらに私の火の玉改が当たる。滑り出しは上々だ。

 しかし残る二人の魔法使いは、すでに弱魔法の準備をしていた。

 これを浴びるのは、いただけない。アキラとベルキラの突入は、ホロホロの指示で見合わされる。すると今度は戦士剣士の二人から、魔法攻撃が。ブリーフィングでの予想通り、あちらのチームは魔法を得意としているようだ。

 戦士剣士の攻撃魔法。魔法使いたちの攻撃魔法。波状攻撃で、うかつに近づくことができない。私たちは散開しては集まり、また散開していた。

「ここは我慢くらべかしらね?」

「そうだね、コリン。均衡を破るのは、まだ早いよ」

 ホロホロの指揮で、まだ回避を繰り返す。ただ、私とホロホロだけは長距離攻撃で、わずかずつポイントを重ねていた。

「なかなか突破口を見出だせないな」

 細かく被弾しているベルキラが、少し苛立ってきたようだ。

「そうだね………。マスター、たぬきを投入してそれを機に突入しよっか?」

「そうするか」

 正直なところ、私も回避に飽きていたところだ。

「それじゃあマスターがたぬきを投入。ベルキラとアキラが突撃して、私とマスターで魔法使いに嫌がらせ。コリンは突撃組の補佐として、合流してちょうだい。モモちゃんはコリンの控えね」

 これだけの指示を淀みなく出せるのは、策を練りに練り抜いた成果と言える。そして私たちも、回避運動を続けながらそれを聞き取っているのだから、稽古の成果と打ち合わせの賜物である。やはり事前の準備というものは、大切なのである。

「それじゃあ行くぞ! たぬきーーっ! カムヒヤっっ!」

 指環を放る。

 戦士剣士の背後で、ぼわんと煙が立った。その中から、安物の革防具にお鍋をかぶったたぬきが現れる。当然、八角棒を装備していた。

「呼ばれて飛び出てたぬきですっ! さぁ、可憐な私にボテくりこかされたい奴ぁ、そこへ直りやがれですっ!」

 割りと厚かましいことをホザいているが、私は魔法の準備でいそがしい。ここはスルーさせていただくとする。

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