私、忍者の案に乗る
もちろん私たちがたぬきに期待していたのは、さまざまな術と八角棒による戦闘能力。それも、得点王となり得るだけの、戦闘能力である。決して微乳キャラの爆乳化や、おっぱい祭の開催などではない。
断じて無い。
そも乳の大小というものには貴賤なく、身分の上下など存在するものではないというのが、私の信念である。小は小なりに価値があり可憐であり、我々男子の『守ってあげたくなる精神』をビッシビシと刺激してくれる、大変に魅力的な存在である。そして大なるは大なる者で、豊穣なる大地への感謝と謙虚たれとい教えの詰まった、まさに母なる存在。
大なる乳が人として謙虚たれという信仰の象徴ならば、小なる乳は男子として大いに奮うべしという現実社会の象徴。つまり両者は両輪のごとき存在であって、どちらが貴くどちらが賤しいというものではないのだ。
長ったらしい演説となってしまったので、一言でまとめさせてもらう。
おっぱいバンザイ!
もう一言。
ビバ!! おっぱい!
すべてのおっぱいに光あれと、願うや切に。
ということで、我がメンバーの小柄メイツ。ホロホロとアキラ、コリンに対して不自然なまでの盛りつけは望ましいものではない。この場合、三人がより女性らしい丸みを帯びた体型ならば、私も否定はしないだろう。だがしかし、彼女らはまだ発育はじめのごとき、針金のような体型なのだ。骨盤の広がり、臀部の発育も見られないのに、メロンのような飾り付けをされても興醒めなだけである。
そしてベルキラやモモといった、比較的大柄さんチームだが。だからといって盛ればいい、盛ってなくっちゃイヤだ! などという声はお門違い。女性らしい曲線を身につけていながら、唯一その部分だけは発育が遅れている。それもまた素晴らしいものではないか。慎ましやか、控え目といった、平成日本女性が忘れてしまった精神。まさしく大和撫子というものが、そこに顕現されるのだから。
長くなってしまった。
この演説も短くまとめさせていただこう。
ブラボーおっぱい!
ハラショーおっぱい!
女性のバストに貴賤無きことを、御理解いただけたことと思う。
たぬきはまだ、巨乳アキラの姿で踊っていた。それも分身と一緒にだ。
「たぬき、ややこしいから分身と変化を解け」
本物のアキラはジャック先生たちとともに、真剣にレイピア練習に励んでいるのだ。ちょっと失礼でもある。………おっぱいについて演説した私も、たぬきのことは言えないが。
「とりあえず私たちがお前に期待しているのは、アキラの穴埋めとしてである。八角棒の稽古は進んでいるか?」
「御主人様、私は可愛らしいたぬきの女の子に過ぎません。ボテくり合いは、決して本業ではありません」
ちょっと図々しいセリフも混ざっていたが、たぬきの言うことにいちいちツッコミを入れていたら、話が進まなくなる。あえてスルーだ。
「とはいえアキラは、マヨウンジャーの得点王。なんとか穴埋めをしたいのだが………」
「フッフッフッ、お悩みのようだね、マミヤさん」
声がした。「誰だっ!」と誰何しても、姿は無い。私だけではなく、コリンやモモ、ベルキラホロホロたぬきまで、辺りに目を配った。
コリンが一点に目を凝らす。小さな唇の前に人差し指を立てて、槍を握り直した。
そっと構えをつくり、抜き足、差し足、忍び足。ピタリと足を止めると、おもむろに壁板へ突きを入れる。
「そこよっ!」
乾いた音。突かれた壁板が外れ道場に転がり、また乾いた音。
………………………………しかし、何も起こらない。
「外れだ、デコちゃん。私はこっちだ」
天井の板を外して、陸奥屋一乃組の忍者が顔をのぞかせた。音もなく道場に舞い降りる。そして外れた壁板を直してくれた。なかなか律儀な忍者である。
「さて、話は聞かせてもらったよ。たぬきを戦力として強化したいんだってね?」
本来ならば、「それは盗み聞きだ」とツッコまなければならないところだが、事態が事態だ。あえて口にはしない。
「マミヤさん、私に考えがある」
そしてこういった場合の提案というのは、決まって役に立たないものである。しかし、それも言わないことにする。
「マミヤさんの所持する激レアアイテム、たぬき。しかし今ひとつ、戦意に乏しいところがある。そこが悩みの種ってところだね?」
そのクセ、事の要点だけは適格に突いてくる。遣り手なのか天然の嫌がらせ上手なのか、実体を掴ませてくれない辺りが忍者らしい。
「だったらたぬきに、ライバルを当ててみたらどうかな?」
「ライバル?」
「私の所持する激レアアイテム、天狗をぶつけてみるのさ」
天狗。
見たことがある。
あれは年末のイベント、陸奥屋一乃組がカラフルワンダーにチャレンジした一戦だ。
ほんの短い時間だけ、天狗の少女が姿を現した。
「………彼女を、かい?」
「あぁ、あの天狗を、ね」
私の印象では、かなり真面目に見えたのだが。あの真面目な天狗を、ウチのたぬきに当てるというのか?
「………忍者さん、それはお薦めできないよ」
「何故?」
「そちらの天狗は、かなり真面目なようだ。ウチのたぬきに当てたら、頭の病気が感染するかもしれない」
忍者は意外そうな顔をした。そして腰に拳をあてて大笑い。
「心配いらないさ、マミヤさん。ウチの天狗も、かなりアレな生き物だ。真面目に見えたのは、戦果を挙げたら団子をおごる約束をしてたからさ」
「………団子?」
それで激レアアイテムを手なずけることができるのか? それでいいのか、激レアアイテム? というかそれで釣れるなら、何故その手を使わなかったのだ、今までの私!
「そう、団子。ゲーム内通貨は消費するけど、些細なものさ。それで釣ってたぬきが戦力になるなら、万々歳だろ?」
フム、と私は考え込む。
「いい案じゃない、マミヤ?」
コリンが賛成する。
「私も同意見です」
「たぬきさんの戦力アップ、間違いなしですねぇ~~♪」
ベルキラにモモ。こちらも賛成のようだ。
そしてホロホロは?
「忍者さん、天狗は白兵戦ができるの?」
「剣術が得意だ」
「飛び道具は?」
「手裏剣を打てる」
「魔法はどうかな?」
「天狗なだけに、風魔法を得手にしている」
ホロホロは私を見た。
決意の眼差しである。
「マスター、やりましょう!」
たぬき強化計画、発動である。