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私、たぬきの新技を見る


 さて、マスター?

 と、声をかけてきたのは、ホロホロだった。

「アキラがポイントマンとしてはボロボロな現状、どうにかして戦術の変更と戦力の補強をしなきゃならないんだけど」

 それはもっともだ。

 ホロホロが分析するに、イベント限定と考えていた手裏剣。あれは闘技場でも必要だと踏んでいるという。

「私とマスターの長距離兵器。それと他の娘たちの得物には、距離の差がありすぎるのね」

「確かに、私とホロホロを除くと、マヨウンジャーの戦闘は白兵戦に限定されてしまうな」

「特に片手が空く武器のモモちゃん、アキラの二人は、魔法と併用でどんどん手裏剣を打ってもらいたいのね」

 手裏剣は当たればめっけもの。そんな言葉を、以前ジャック先生が言っていた。それくらい命中率が悪い武器だ。しかし、だからと言って捨てるのは無策、とも言った。手裏剣は、当たらずとも有効な武器である。それがジャック先生の見解なのだ。

 相手の出鼻を挫く。それだけでも手裏剣は有効だ、と言うのだ。

「少しでも距離を稼ぐ。それは結成以来、一貫して我々の課題だからね」

 ところでレベル5になり、ホロホロはどのようなスキルを手に入れたのか?

「私は二矢一矢(ふたやひとや)っていう技を使えるようになったよ」

 なんでも一矢を射れば二矢にわかれ、倍のダメージが入る技だとか。

「ベルキラやモモちゃん、コリンも魔法の威力が上がって、新技も増えたんだけど。………私が注目してるのは、たぬきなんだよね」

「たぬき?」

「そ、たぬき♪ 今度はどんな理不尽な技を使えるようになったのか、期待半分、怨み半分だね」

 たぬきの八畳敷………すなわちキ〇タマ袋の毛皮に包まれ、屁を浴びて爆発炎上させられたこと、まだ怨んでらっしゃるので?

「そのたぬきは、どこへ行ったやら?」

「さっきモモちゃんに連れて行かれたけど、どこに連れて行かれたんだろ?」

 疑問に思っていたら、隣部屋のドアが軋む音を立てて開いた。

 隣部屋なんてあったのか? その点も疑問だったが、とりあえずドアが開いた。

 籐で編んだ椅子に脚を組んで、たぬきが腰かけている。ブラウス一枚、セクシーな姿だ。

 たぬきはスケベったらしい響きの、フランス語風に甘くささやく。

「えまにゅえ~~る」

「お前がエマニュエル夫人を気取るには、一〇年早い。修業して出直して来い」

 とりあえず脇腹をステッキでひと突き。うずくまった後頭部を、ステッキの握りで一撃。一見残酷シーンのように見えるかもしれないが、まずこのたぬきは、激レアアイテムを自称している。物が相手なら残酷行為にはならない。

 それでも………と仰るあなた。基本的にこいつはたぬき。動物であるというのならば、飼い主は私。動物の躾は飼い主の責任である。他人さまを不快にしたなら、叱らなければならない。言語が通じるのならば言葉で躾するべきだと仰るなら、このたぬきは言語を解するものの態度の改善はみられない。よって、体罰で解らせるしか無い。

 現にたぬきは脚を痙攣させるほどの深手を負ったが、すぐに復活して着替えを始めた。いつもの服である。そして頭にたんこぶを乗せたまま、私の前で片ひざ着いて首を垂れた。

「お呼びでしょうか、御主人様」

 みたまえ、この頭の悪いたぬきでも、躾次第ではこれだけのことが出来るようになるのである。

 私は「うむ」と、可能な限り主の威厳をかもしてうなずいた。

「我らが軍師ホロホロが、たぬきのレベルアップによる新しいスキルに期待をしている。どんなスキルを手に入れたか、披露してもらえるか?」

「はい、それでは」

 たぬきは首を垂れたまま、頭に葉っぱを乗せた。しかし、何も起こらない。

「………なにも起こらないな」

「いえ、すでに」

 どういうことか?

 いぶかしんでいると、ベルキラが目を丸くしていた。モモは口を両手でおさえていた。そしてコリンは、私の袖をクイクイと引っ張る。

「………マミヤ、マミヤ!」

 振り向くと、そこにたぬきがいた。

 正面を向く。

 やはりそこにも、たぬきがいる。

「どういうことだ?」

 問いかけると、正面のたぬきは言った。

「分身の術です」

 ふむ。

 しかし分身の術と言っても、現物のたぬきと同じ動きしかできないのでは、あまり意味が無い

 私は振り向いた。

 たぬきの分身は踊っていた。

 とりあえず分身の頭を叩く。すると本体が頭を押さえた。

「いった~~い! 何をするんですか! 御主人様っ!」

「おや? 分身への攻撃は、お前に通るのか?」

「それは御主人様だからです! 敵の攻撃なんか、分身が浴びても屁のカッパです!」

「それは」

 私は問うた。

「八畳敷をかぶって、ステルスを使ってもか?」

 たぬきはニヤリと笑う。

「他人の攻撃を分身がいくら浴びても、私には害はありません。………ただ」

「ただ?」

「八畳敷をかぶっていては、分身に細かい動きはさせられません」

 充分であった。八畳敷をかぶっている間、分身を囮にして私は敵陣へ乗り込む。もちろんステルスを使っているので、敵に存在を知られることは無い。

「だけどね、たぬき?」

 ホロホロが語りかける。

「私たちはアキラを欠いているも同然で、できればたぬきにもポイントを稼いでもらいたいの」

「私は御主人様のお願いしか、聞き入れませんよ? すみません、ホロホロさん」

「だったらマスター、たぬきにお願いして。アキラと同等の活躍を期待するよ、って」

 ホロホロの願いは私たちの願い。そして私にとっても切実な願いである。

「たぬき、お前の奮戦奮闘を期待しているぞ」

「御意」

 たぬきは葉っぱを乗せたまま頭を垂れた。

 そして片手で印を結ぶ。

 ドロン♪

 たぬきを包むように立ち上る煙。その煙が晴れると、葉っぱを乗せたアキラが現れた。

「このような感じでよろしいでしょうか?」

 声はたぬきのままである。

「………たぬき、それは?」

変化(へんげ)の術に御座います」

 また役に立たなそうなスキルを………。

 心の中ではそう思ったが、口にはしなかった。

 が、そこは自称デキるたぬき。私の気持ちを察したかのような顔をする。

「お気に召しませんでしたか? では、このような感じでいかがでしょう?」

 ドロン♪

 たぬきはまたも変化。

 今度はアキラ巨乳バージョンで現れた。

 ………本当に使えないたぬきである。

「いかがでしょう、御主人様? アキラさんの巨乳バージョンですよ、巨乳バージョン♪ ほ~ら、おっぱいおっぱい♪」

 繰り返し言おう。本当に使えないたぬきである。

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