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私たち、表彰される


 表彰式は進み、団体での殊勲賞、MVPがそれぞれ発表される。この辺りは私たちのあずかり知らない団体が授賞を果たしていた。あずかり知らないとは言ったが、やがて闘技場で一戦交える相手となるかもしれない。ホロホロなどはその顔を覚えておくつもりか、食い入るような眼差しを向けている。

 そして個人の表彰へと式典は移る。

「かなめ君、マントに皺は入っていないかね?」

「下ろし立てのようにまっさらです」

「制服ズボンのプレスは効いているかな?」

「ヒゲが剃れそうなくらい効いています」

「革長靴に曇りはないかな?」

「顔が映るくらいにピカピカです」

 鬼将軍が身だしなみに気を配っていた。表彰台に上がるつもりらしい。というか、自分のMVPをまったく疑っていない様子だ。

 たいした戦果も挙げていなかったはずだが、この自信はどこから来るのだろうか? 不思議である。

 個人授賞の敢闘賞、殊勲賞が発表され、いよいよセレモニーはMVP発表を残すのみとなった。

「御主人様、私の髪、整ってますよね?」

「何しに出て来た、たぬき」

「リップの色も、おかしくありませんか?」

「まさかとは思うが、お前MVPをとるつもりじゃないだろうな?」

「尻尾の毛並みも、ツヤが出てます?」

「とりあえず、すっ込んでろ。お前の出番じゃねぇ」

 ドラムロール。

 MCの女性が、封筒にハサミを入れる。中からおごそかに、かつ恭しく、折り畳まれた紙を取り出した。

「おまたせいたしました。今年の厳冬期イベント、東西戦。MVPは………チッ」

 ん? いまチッとか言わなかったか? チッって。

「初日は大した活躍もしなかったクセに、二日目以降大暴れ。老若男女の区別なく大量虐殺を実行したのみならず、三日間に渡ってただのワンポイントすら敵に与えなかった外道繚乱の極み。ギルド、非道繚乱カラフルワンダー筆頭、シャルローネさんです! さあさあみなさま。ブーイング、ブーイングをお願いいたします! ブーイングの数が多ければ多いほど、悪役(ヒール)は光り輝くものでございます! 張り切ってまいりましょーーっ!」

 うん、確かに。

 ここでブーイングを浴びるのは、仕方ないよな、シャルローネさん。

 だけど君、今すごく光ってるよ。まぶしいくらいにさ。そして君の打撃武器、メイスも鈍く光ってるね。血を求めるようにさ。

「いや、いくつになっても表彰されるというのは、気恥ずかしいものだな」

「あ、鬼将軍さん。貴方じゃありません。とっとと席に戻ってください」

 表彰式、割りと台無しである。


 セレモニーが幕をおろし、私たちは陸奥屋本店で解散式。総裁からは、今期の成績におごることなく練磨を続けるようにと訓示があり、それから拠点「下宿館」へと帰ってきた。

「興奮醒めやらず、ですねぇ~~………」

 興奮とは縁の無さそうなモモが、ポツリともらす。

「そうだな、今夜は解散するには惜しい夜だ」

 ベルキラが同意する。

「とはいえ、明日からまた日常に戻らなければならないのも事実。いやでもなんでも、ここは解散しよう」

 私は提案した。

 腰は重たいが、みんなも同意してくれる。一人、また一人とアウトしていった。

「それじゃあマミヤ、また明日」

「あぁ、また明日だ」

 最後のコリンを見送って、たぬきと二人きり。誰もいなくなった拠点で、お互い黙りこくっていた。

 たぬきは八畳敷に油を差し、ブラシを入れている。なれているのか。なかなかの手際である。そして、先祖代々から受け継がれるもののためか、大切に丁寧に扱っていた。

 八畳敷を椅子の背もたれにかけて、ようやく手入れが終わったらしい。ふぅ、と一息ついている。

「あ、すみません御主人様。ほったらかしにしちゃいましたね」

「いや、構わんよ。毛皮の手入れをするところを眺めていたから、退屈はしなかったさ」

「御主人様はログアウトされないんですか?」

 たぬきは普段と違い、よく出来た従者のように振る舞う。

「あぁ、みんなにはあんなことを言ったが、やはり今夜は去り難い夜だよ」

「そんな夜もありますよ」

「どうした? 今夜は随分とおとなしいな」

「そんな夜も、ありますよ」

 ゲームの中の時間は、まだ昼である。しかし、鎧戸を閉じた拠点は、ほの暗く音も無い。

 揺り椅子に腰かけて、今回のイベントを思い返す。やはり思い出されるのは、カラフルワンダーの猛威であった。

 まるで大自然の猛威。

 まるで天変地異のごとく吹き荒れた、魔法の力。あれに対抗するには、どうすれば良いのか? 絶望的な力量の差に、胸はふさがれるばかりである。

「他の女性のことを考えてましたか、御主人様?」

 図星だ。

 カラフルワンダーのことを考える振りをして、氷結の魔女シャルローネのことばかり考えていた。

「そんなことはないさ」

 自然と嘘が口を突いて出る。これは不安や悩みを子供たちに見せないようにしている、私のクセのようなものだ。

「嘘はつかないでください」

 たぬきは正面から、私をとらえていた。

「メンバーさんにとってはマスターでも、私にとっては御主人様なんですから。二人きりのときには、嘘をつかないでください」

「………言うね、たぬき」

「カラフルワンダーのシャルローネさん。あの人のことを、考えていたんでしょ?」

 なかなか鋭いな。

 とはいえ、この場で彼女のことを考えないのなら、私の方がどうかしている。

「あぁ、その通りだよ。あの強豪、二〇〇〇人を越えるプレイヤーの頂点に立った、シャルローネのことを考えていた」

「………………………………」

「どうすれば彼女に、カラフルワンダーに勝つことができるのか? あの天変地異のような魔法をかわすことができるのか? そのことばかりを考えていた」

「大丈夫です、御主人様。カラフルワンダーにはたぬきがいません。御主人様には、マヨウンジャーにはたぬきがいます。このアドバンテージを活かしてみてください」

 たしかに。私には、マヨウンジャーにはたぬきという秘密兵器がある。

「しかし陸奥屋一乃組の忍者にも、天狗という秘密兵器がいるが、カラフルワンダーを倒していないだろ?」

「陸奥屋一乃組は、本気でカラフルワンダーを倒そうとはしていませんから。温存に温存を重ねているんでしょう」

 たぬきはウィンドウを開いて、陸奥屋一乃組の成績を開示した。白星六割黒星四割、といったところ。割りと凡庸な成績で、むしろ我々の方が勝率は良い。

「陸奥屋は基本的に、勝ち負けよりもゲームを楽しむことや、試合内容を重視しているようで。年末の一戦を御覧になったとおり、実力的にはカラフルワンダーと互角なんです」

「レベルを見ると、かなりの差があるようだが………そうなのか?」

 たぬきは言う。

 陸奥屋一乃組にはレベル差を埋めるだけの、知恵や工夫があるのだと。

「つまり魔法特化ギルドというものは、案外穴だらけということなんです」

 たぬきは断言する。

 むしろあらゆる角度に対応できる、マヨウンジャーの方が穴は少ないと。闘うのは武器や魔法ではなく、人間と人間なのだと。

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