私、アイテムくじを引く
ギルドメンバー募集の親文は、受付嬢のセンスに頼ることにした。
そして、「迷走戦隊マヨウンジャー」への、ホロホロとベルキラの入団手続きも。
「これで募集の手続きは終了。希望者がいたら、すぐにメールで知らせるわね」
「お願いします」
「それじゃあこの後は、どうしよっか? またバトルに行く?」
ホロホロの言葉に、ベルキラは「私は斧を鍛え直したい」と、申し出た。
ベルキラの種族はドワーフ。鍛治仕事は得意である。が、しかし。詰まらない疑問が生じてしまった。
「ベルキラ、君の斧は君が自分で鍛えたものなのかい?」
「そうです、マスター」
「マスター?」
「はい、私たち迷走戦隊マヨウンジャーの、ギルドマスターですから」
「なんとも、お尻がムズ痒くなるような肩書きだねぇ」
「ちなみにマスター、ホロホロのナイフも、私が鍛えたものです」
ベルキラは、ちんちくりんのホロホロとは違い、長身だ。
そのベルキラが小柄なホロホロの、小さなナイフを鍛えているとは。
悪いがちょっと吹き出しそうになる。
「ベルキラが工房にこもるなら、私はマグラの森に行こうかなぁ………」
「マグラの森?」
「そ、マグラの森。このゲームはバトルばかりでなく、森でクエストもできるの。私は職業が盗賊だから、結構良いアイテムを拾ってくるのよ♪」
そう言えば、このゲームにはそんな職業もあった気がする。
「………マスターは、どうされますか?」
「そうだねぇ、とりあえず街中をブラブラしてみようかな?」
「で、道ゆく女性に鼻の下を伸ばすのですな?」
「うわ、マスターのエッチ」
待て待て待て、私は女性が苦手………ただし美人は例外………と言っただろ?
「そうじゃない。私は今、魔法の草を育てているから、より良い買い手や栽培方法を、吟味検討したいのだ」
「信じてあげますね、マミヤさん」
「その聖者ぶった微笑みが気に食わないが、信じてもらえるならばそれに越したことは無い」
「私も信じていますよ、マスター」
ホロホロが胡散臭い微笑みならば、ベルキラは真っ直ぐすぎる馬鹿信者だ。曇りも汚れも無い微笑みを、私にむけていた。
うんうんベルキラ、君は絶体にホロホロのそばを離れるな。離れたら最期、嘘しか言わない男どもがダース単位で押し寄せてくるからな。
ということで、三人は別行動。また明日の午後七時に、闘技場西口で集合ということで。なぜ午後七時かというと、私がインするのが午後七時だからだ。
私はまず、チユちゃんの手引き書を取り出し、折り畳まれたマップを開いた。
闘技場のそばには城があるということを思い出した。もしかしたら、商店街が並んでいるかもしれない。
ということで、そちらに足を向ける。
しかしその方角というのが、人の流れそのもので、私の足も自然とそちらに向けられてしまった。
人の流れは闘技場前の広場を、門に向かって外へと続いている。そしてその両サイドは、武具魔法具の屋台が並んでいた。
ここで面白いことに気がつく。屋台の中には、食べ物を扱った店もあるのだ。
「どういうことかね?」
焼き鳥屋台のオヤジに話を訊いてみる。
「こいつぁな、NPC専用の屋台さ。一般プレイヤーは実体の健康に影響が出るから………」
一本渡された。
食べてみろ、ということらしい。
素直にかぶりつく。
と、焼き鳥が消えた。味もしなければ、満腹感も無い。
「買ったところで、なんにもならないように出来てるのさ」
「何故こんなものが?」
「あんた、クエストはまだかい?」
まだだと答えた。
「クエストで獲得するアイテムには、動物やモンスターの肉、魚類、果物や野菜なんかもあるんだ。そいつらを買い取るには、消費者がいないとならないだろ? 健康に影響が出ないような、消費者がよ。そういうことだ」
つまり、クエストに参加して食べ物を獲得してもらうために、NPCという消費者を準備している、ということだ。
消費者がいるから商売が成り立つという、実社会の構造とは順番が正反対である。
さすがゲームと、頬を緩めてしまう。
「さ、プレイヤーさん。こんな店で引っかかってないで、もっと実のある屋台を冷やかしてやりな」
「あぁ、そうさせていただこう。貴重な情報、感謝します」
ということで、あちこちの屋台をのぞきながら、ゆっくりと歩を進める。
アイテムくじ、という店が出ていた。
巨大なとんがり帽子にエプロンドレス。前髪で目が隠れた女の子が、黒猫と店番をしている。
「魔族さん魔族さん! ひとつ試していきませんか! 豪華アイテムにレアアイテムが当たりますよ!」
「くじ引きか………。私は運の良い方ではないよ?」
「そうは言ってもお客さん、これをよく見てくださいな!」
アイテムくじの文字が書かれた垂れ幕。いや、「魔法使いきららのアイテムくじ」という垂れ幕だが………。
よく見ると小さく、「運営直轄」の文字が。
「運営直轄ということは?」
「はい! 基本的にスカがありません! プレイヤーさんのレベルと同等か、それ以上のアイテムが必ず当たるんです!」
「そんな大盤振る舞いでは、ゲームが成立しないだろう?」
魔法使いきららさん、人差し指を立てて、「チッチッチッチッ」と。ホロホロが見たら、喜びそうなアクションだ。
それから二本の指で帽子のツバを押し上げると、ニヒルに片方の口角だけを吊り上げてみせた。
「お客さん、私の屋台はリアルタイムで、ひと月に三時間しか現れないんです」
クールな眼差しなのだろうが、前髪に隠れて目が見えない。
「まあ、騙されたと思って、一度遊んでみてはいかがですか?」
それもそうだ。
普段の私ならば、ギャンブルや宝くじといった不確定要素満載なものには目もくれないのだが、ここはゲームの中。遊んでみるのも一興かもしれない。
くじを引く、を選択すると所持金がわずかに減る。
きららさんが差し出す抽選箱に手を入れて、ガサゴソガサゴソ………。
箱の中には、折り畳んだ紙だろう。手首が埋まるほど詰まっている。
「む!」
なにか手応えが。
「これだっ!」
ズバリと手を引き抜いた。
私は折り畳まれたくじ紙を掴み出した。
はずだった。
しかし私は、女の子の襟首を掴んでいた。
何故だ?
思考が停止する。
何故か女の子は、抽選箱から上半身を出している。
栗色の短い髪。
ハイネックでノースリーブなニット。
まだ十一歳………いや、十二歳くらいか? とにかく中学生にはなっていないだろう。ホロホロくらいの年頃に見える。
そしてスカイブルーの瞳が私をとらえ、栗色の頭の上で耳がピコピコ動いた。
「はぁい、御主人様♪」
「はぁい♪ ………って、君は何者かね?」
突然、カランカランという手鐘の音が鳴り響く。
きららさんが叫び出した。
「おめでとうございます! きららのアイテムくじから、激レアアイテムが出ました! おめでとうございます!」
激レアアイテム?
はて? 私はそんなもの、引き当てた記憶は無いのだが………。
小さな手のひらに、頬を挟まれた。
強引に顏の向きを変えられる。
スカイブルーの瞳と、視線が交わった。
「つれない素振りはしないで下さい! 私が貴方の激レアアイテム、たぬきです! どうぞ末長く可愛がってくださいね、御主人様♪」
ぱちこ~んという擬音つきで、レアアイテムはウィンクしてきた。
私の予感が叫んでいる。
これはハズレだ、と。
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