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私、不正者に出会う


 厳冬期イベント最終日。まもなく開幕の銅鑼である。

 事前の打ち合わせでは、開幕即魔法攻撃、ということであった。これは丘の上に残る敵の一掃を目的としたもので、カラフルワンダーの魔法攻撃がメインとなる。

 しかし我々がボンヤリしていていい、ということにはならない。巨大魔法を撃ち込んでも、なお生き延びている敵は、私たちが始末をつけなければならないからだ。

 開幕の銅鑼が鳴る。

 私は火の玉改のために、呪文の詠唱をはじめる。

 が。

 カラフルワンダーは、すでに右側の区画に範囲魔法をブッ放していた。まずは昨日見た、巨大なファイヤーボールの連発である。その炎がおさまったと思ったら、今度は無数のつむじ風だ。

「マスター、あっちもだ」

 ベルキラは左側を指差す。そちらではまず津波が区画を襲い、強力な雷光が突き刺さった。

 シャルローネとドワーフの若者は、まだ魔法を撃っていない。おそらく魔力再充填の隙を埋めるため、控えにまわっているのだろう。若いとはいえ、なかなか遣り手のマスターである。

 とはいえ、私が呪文の詠唱している途中ですでに魔法を撃てるとは、どういった仕組みなのか?

「無詠唱だよ、マスター」

 ホロホロが教えてくれる。

「かなりの高等技術なんだけど、さすがカラフルワンダーってところだよね。あれをやられると、魔法の入力中にすべて持っていかれるの」

 なるほどたしかに、陸奥屋一乃組が対決したときも、呪文詠唱を妨害していたはずだ。

 これは対カラフルワンダー対策として、なにかヒントになるかもしれない。

 いや、いまはファイトに専念しよう。カラフルワンダーという強大な壁が、今は味方についているとはいえ、油断は禁物である。

「気をつけてくださいね、みなさん! これだけ魔法を食らっておきながら、生き延びて飛び出してくるのは、間違いなく不正者です!」

 シャルローネが言った。

 が、不正者? 確かに、カラフルワンダーの魔法を連発で浴びて生き延びるなど、不可能である。即座に不正者と断じることができるだろう。しかしそのような輩、本当にいるのか?

「マスター! 来ますっ!」

 アキラが尻尾を水平に伸ばしている。耳もピンと立っていた。敵の足音を捕らえた証拠である。

「数はどれくらい?」

 ホロホロが訊くと、アキラは二〇と答えた。

「マヨウンジャー、攻撃準備っ!」

 本当に居やがった、という気持ちの乱れは棚のうえに上げておいて、私自身ステッキを握り直す。先ほど準備した火の玉改は、いまだ健在。いつでも発射オーケイという状態だ。

 果たして、ハウスの陰から敵が現れた。アキラの言う人数だ。

「ホロホロ、やるぞ!」

 私は光弾となった火の玉改を発射。ホロホロも矢を放つ。それを機に、陸奥屋各隊の魔法使いたちも攻撃をはじめる。

 私の攻撃は命中。そして他の魔法使いたちも、攻撃を命中させて、私の攻撃がさらに命中する。

「面白いくらいに当るわね、マミヤ」

「いやはや、自分の腕が上がったように、錯覚してしまいそうだよ」

「ほら、そこで右よ」

「ほい来た♪」

「今度は左」

「どっこいしょ♪」

「………だけどマミヤ?」

「どうした、コリン?」

「さっきから魔法が当たってんのに、どうしてコイツら撤退しないのよ!」

「というか、攻撃されたらバイブレーションが走って、動きが止まるはずだろ! なんでこいつら、普通に走って来るんだ!」

 そうだ、攻撃されたらプレイヤーは、わずかであっても動きが止まるのだ。必殺技のコンビネーションであろうと、魔法の呪文詠唱だろうと、一度リセットされてやり直しになるのに!

「何故に貴様ら、動きを止めんかーーっ!」

 誰かが私の肩を、ポンと叩いた。

 振り向くとそこに、忍者がいた。

「マミヤさん、これが不正の効果です」

「それはわかるが、こんな不死身プレイをしていて、何か面白いことがあるのかい?」

「面白いことですか………それなら少し、観察してみましょう」

 いや待て忍者。敵はもう、目の前に迫ってるから! おのれ化け物め、ステッキで殴るしかないか!

 と腹を決めたときだ。

「ギャ~~ッ! や、やられた~~っ!」

 私目掛けて走ってきた敵が、突然断末魔。バッタリ倒れて撤退。

 私は何もしていない。誰も何もしていない。それなのに今まで無敵状態だった敵が、突然死したのだ。

「ね、マミヤさん。面白いでしょ?」

「面白いことって、私が見て面白いことという意味ではなく、不正プレイをして何が面白いのか?という意味であってですね………というか、なんでこんなことが出来るんだ?」

「不正ツールというのがネット上に転がっていて、それを入れるとこのようなことが可能になるとかなんとか」

「君もよく知らないんだね、忍者くん?」

「興味がありませんからね、マミヤさん。私も、陸奥屋も、マヨウンジャーも。そして、カラフルワンダーの面々も」

 うん、確かに興味は湧かない。ゲームというのは有利不利こそあれ、基本的には同じ条件で競い合うものだ。そうでなくては、面白味が無い。それなのに、何故このようなことをするのか?

「マミヤさん、こんな経験はありませんか? 試合中だっていうのに、ファイトそっちのけで罵りあう味方たち」

 お? 確かそのような経験も、していたような………。

「自分は罵られたくない、だけど腕は無い。不正に走る者の共通項は、そんな程度です」

 忍者がまともなことを言っている。

 なにか良くないことを口走らなければいいのだが。

「で、マミヤさん。不正者相手の必勝法、知りたくないですか?」

 とてもイヤな予感しかしなかった。しかし………。

「一応、聞いておくかな?」

「敵の攻撃はすべてかわし、自分の攻撃はすべて当てる! それを続けるのさ! 相手が突然死するまでな!」

「バカ忍者だろ、君っ! すっごいバカ忍者だろっ! 忍者ならもっと役に立つ情報、持って来いっ!」

「ついて来るんだ、マヨウンジャー! ここは一発、バカ騒ぎするぞ!」

『おーーっ!』

 私以外の全員が乗り気であった。不正者退治という大義名分が、彼女たちを酔わせてしまったのだろう。それほどまでに不正を嫌い不正を憎むのは、理解できる。

 しかし彼女たちは間違いなく、イベントという特別な空気に酔っているに違いない。

 何故なら私も、こういった手合いに一泡吹かせてやりたい気分になっていたからだ。

 やったやられたを楽しむゲーム世界。その根本を揺るがす輩を、私も許すことができなかったのだ。

 そしてイベントという空気が、私に囁きかけたのだ。もっと輝いてみろと………。

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