イベント最終日・私、たぬきと出掛ける
三日目、イベント最終日である。
今回のイベントは、金土日曜日の三日間開催されているのだが、最終日ということで本日は日曜日。昨日土曜日は家のことをアレコレしなければならなかったが、そのおかげで今日は朝からゲームにインすることができた。
が、おそらくリアルでは学生であろうマヨウンジャーメンバー。日曜日の朝からインしている者はいない。寝坊や他の趣味に打ち込んだりしているのだろう。
ということで、たぬきと二人。ちょっと街の中心部へと出掛けてみる。目的地は武器屋。少し考えるところがあったのだ。
「で、御主人様。その考えるところとは?」
「うん、昨日のイベントのことなんだが、私は棒手裏剣を食らってしまっただろ?」
あの手の飛び道具を、装備できないかと考えているのだ。
「御主人様はすでに、ステッキを装備してますよね?」
「ホロホロも弓矢の他に、ダガーを装備している。不可能ではないはずだ」
「それで? 棒手裏剣を装備して、どうするんですか?」
「今回のイベントで、私たちは主力ではなく撹乱役だ。嫌がらせ攻撃の足しにならないかと思ってね」
「なるほど、決して忍者さんの手裏剣が格好よかったから、とかいう動機ではないんですね」
いらないことを言うたぬきだ。
しかも的外れではない辺りが、また人をイラつかせてくれる。
正直に言うと、忍者の手裏剣に格好よさを感じていない訳ではない。むしろ格好いいと感じている。
だがしかし、今回の買い物は話が別である。我がギルド、マヨウンジャーにおいて長距離攻撃ができるのは、私とホロホロしかいない。みんな魔法攻撃は、長得物の延長程度にすぎないのだ。
そうなると、嫌がらせ攻撃にも危険がともなう。接近してからの攻撃になってしまうからだ。今回の手裏剣は、彼女たちに少しでも距離を稼がせてやりたいという、私の親心と考えてもらいたい。
「それに、手裏剣は毒を塗っておけば、それなりの効果が期待できる」
「そこまではいいとして、御主人様。手裏剣には練習が必要なのでは?」
「それを武器屋で相談するのさ」
私自身、そんな都合のよい武器が存在するとは思っていない。しかし何も始めなければ、何も始まらないのだ。
「なんとも心もとない話ですねぇ」
「歩かない犬は、棒にすらあたらないさ」
ダメで元々。
今日の買い物はそれでいいのだ。
ということで、武器屋をいくつか回ってみる。最初の二軒は、大型店で品揃えを見るだけ。手裏剣は売っていない。次の個人商店は、剣の専門店。だがそこで、投擲武器を専門に扱っている店を紹介された。
足を運んでみると、あまり流行ってはいなさそうな店舗である。とはいえショーウィンドウには、様々な投擲武器が並べられている。その中には棒手裏剣があり、十字手裏剣八方手裏剣と、ここは本当に西洋ファンタジーの世界かと思わせるほどであった。
「なるほど、このお店はアタリのようですね、御主人様」
「あぁ、早速入ってみよう」
ドアを押すと鈴が鳴り、カウンターから「いらっしゃい」という声がした。
店主だろうか、それにしては年若い。しかも女性………というか、女の子である。ポニーテイルに腕まくりしたシャツとデニムのパンツ。そして、職人らしい汚れたエプロン。指先の荒れ具合を見れば、彼女が武器職人であり店主だと判断できる。
「投擲武器をお探しですか?」
気さくに声をかけてくる。
「あぁ、初心者が練習も無しに当てられるのが欲しいんだけど」
「練習も無しか………今夜のイベントにでも、出るのかな?」
「そうそう、しかも低レベルギルドなんだよ」
ん~~と言いながら、店主はこめかみを掻いた。
「それなら、これはどうかな?」
背後の棚をガサゴソと探り、黒いクナイをカウンターに置いた。
「………クナイ、ですか?」
「クナイです」
「私は初心者向けの投擲武器が欲しいと言ったのだけど」
「初心者向け♪ 初心者向け♪」
店主はクナイをつまみ上げた。が、見慣れないリボンが尻尾のように結ばれている。
「この尻尾が、初心者向けの証拠ですよ。試しに投げて見てくださいな♪」
店内の壁に、的紙が張られていた。
「取り方は、こうね………」
手の平に乗せられたクナイは、ズッシリと重たい。その芯を中指から運命線、掌底に合わせて、親指で押さえる。
「これで空手チョップを打つように………」
言われたまま、クナイを投げる。が、まったくの的外れ。クナイは壁に刺さった。
そう、刺さったのだ。
「………うむ」
「うむ、じゃありません。御主人様、これぞ的外れの見本じゃないですか」
「いや、そんな的外れでも、クナイは刺さったのだ。これはスゴイことだぞ?」
そうなんですかと、たぬきはいぶかしむ。
「そうそう、獣人の娘さん。娘さんが投げても、クナイは刺さるんだよ?」
たぬきにクナイを取らせる。たぬきは無造作に投げた。そしてクナイは、当たり前のように的に刺さった。
「………………………………」
目を丸くするたぬき。
「店長さん、これは………?」
「さっき言った通り、このリボンが的中の秘訣なんですよ。この尻尾が抵抗になって、切っ先が前向きになるんです!」
そんな簡単な理屈で、難しい手裏剣が相手に刺さるのか? いや、確かに刺さった。
「ちなみにお客さん、さっきの手は棒手裏剣の取り方ね。このクナイなら親指と中指で挟んで、ヒョイっと投げても刺さるのね」
なるほど、それは簡単だ。
「これなら毒を塗れば、我々のような未熟者でも戦力足り得るぞ」
「おや、毒ですか? それでしたら毒ではありませんが、このようなものはいかがでしょう?」
店主が取り出したのは、またもやリボンつきクナイ。だが、柄をねじるとポンと抜けた。柄の中は空洞になっている。
「この中に塩や唐辛子の粉末を仕込むと、刺さると同時にポンと弾けて目潰しになるんですよね」
ほう、それはまた面白い。
ベルキラ、アキラ、コリンにモモ。それからたぬき。長距離攻撃のできない彼女らに、こうした武器を持たせるのがいい。私やホロホロは除外だ。長距離攻撃ができるし、より有効な武器が他にあるかもしれない。
「では毒用クナイと、空洞クナイを………二五本包んで欲しい。唐辛子と毒は、こちらに置いてあるかな?」
私たちはホクホクとして、店を出た。