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私、二日目を終える


 翁に見せ場をさらわれた形のシャルローネだが、それでも意見が通ったのだ。機嫌はなおっている。

「それじゃ参謀さん。陸奥屋という戦力を、どのように用いますか?」

 そうですねぇと、参謀は遠くを見た。

「我々陸奥屋の特徴は、レベルの割りに強者揃いです。おまけに連携が取れている。友軍到着までの戦線の維持、あるいは大軍突撃前の撹乱。さらには敵に対するいやがらせ、というのが有効でしょう」

 シャルローネは、ウンウンとうなずく。

「では参謀さん、お近くに参謀さんが頼みにするような強いギルドって、いませんかねぇ?」

 ニタニタと、下心見え見えな笑みを、参謀に向けている。

 参謀も答える。

「いますとも。魔法に関しては、上級プレイヤーも裸足で逃げ出すような、スゴ腕ギルドが」

「ということで、鬼将軍さん? ここは共同作戦と行きませんか?」

「………私たちに、女子供の後ろにつけと?」

「そんな………私たちのようなか弱い女性を守ってくださる、頼もしい殿方を求めていたのに………」

 少し顔を伏せたと思うと、今度は上目使い。つい今しがた、スゴ腕ギルドとか言っていたのに、すさまじい変わり身の早さだ。

「鬼将軍さん? 非力な私たちを、守ってくださいませんか?」

 鬼将軍は、マントをひるがえした。

「そのように言われれば仕方がない! 陸奥屋はこれより、シャルローネとその仲間たちを護衛して前進する!」

 本当は陸奥屋がカラフルワンダーに守られているのだが、いつの間にかそのような体裁になっていた。

「やりましたね、マミヤさん♪ 一緒に戦えますよ♪」

「いや、なんかこう………ウチの大将が面倒くさい男で、スミマセン」

 頭をさげるとシャルローネは、気持ちよく笑った。

「いいじゃないですか、昔かたぎの男の人みたいで。私はそういうの、大好きですよ♪」

 イマドキの女の子。シャルローネだってそのはずである。しかし男を立てるのがうまかったり、絶対に女の子浮けしなさそうな連中が好きだったり。

 この娘の感覚は、もしかするとイマドキではないのかもしれない。というか、彼女も友達が少ない人種なのではないかと、いらぬ危惧をしてしまう。

「それではこれより、陸奥屋・カラフルワンダー合同で、丘の上へ進軍する!」

 鬼将軍は軍刀を掲げ、降り下ろす。

「部隊、前進っ!」

 こうした号令は、やはり様になる。いや、彼にはこういった仕事が向いているのだ。逆に言うならば、作戦を立てさせたり細かいことをやらせるには、まったく向いていない。

 本当に、面倒くさい男なのである。

 そしてついに、丘の上の前線が破られた。

 敵軍が丘を駆けおりてくる。

「それでは鬼将軍さん、露払いをさせていただきますね」

 シャルローネは嬉しそうに、鬼将軍に言った。

 鬼将軍も、「うむ、ひとつ頼む」とうなずいた。

「それじゃ爆炎、あとに続いてね♪」

「おうっ、まかせときな!」

 爆炎の貴公子が、ファイヤー・ボールを準備するのだが………なんだ、このサイズは? 私のファイヤー・ボールがソフトボールなら、彼のはバスケットボール。いや、それ以上に大きくなってゆく。

「へへっ、驚いたかい? 謎の魔法使いさん」

 驚いた、なんだそのファイヤー・ボールは? というか、なぜ私は君の中で、謎の魔法使いになっているんだ?

 かなり距離があるのだが、シャルローネの魔法が飛んだ。着弾地点一面が、鏡のように凍結している。

 当然のように敵軍は足をすべらせ転倒して、斜面を滑り落ちてくる。凍結斜面から普通の地面に着くと、当たり前のようにスピードが落ちて人の塊ができて。

 そこに巨大な火球が命中する。

 一角を破って浸入してきた敵が、一瞬で壊滅した。消えていなくなったのだ。

 これがカラフルワンダーの実力か………。

 私の唇はわなないた。

 いや、カラフルワンダーだけではない。

 味方の初心者と思われる集団が、丘の上に到着した時だ。こちらは突然の津波に流される。一人撤退し、二人撤退して、ついに集団は誰もいなくなってしまった。

 敵軍が、またおりてくる。今度は中堅クラスであろう。装備でわかる。しかし翁の竜巻の魔法に、次々と飲み込まれた。しかも御丁寧に、竜巻の中には大量の礫が仕込まれているという、念の入りようだ。

 なんだこれは? これが魔法というものなのか? 魔法の力というものなのか?

 というか私たちは、こんな強大なものに立ち向かわなければならないのか?

 今度は背中に戦慄が走る。こんなものに私たちは、どのように挑めば良いというのか………。

 ポンと肩叩かれた。ジャック先生だ。

「固くなりすぎだよ、マミヤさん。今回はイベント、魔法使いもたくさんいる。だから活躍が派手に見えるのさ」

 魔法対策の基本は、当たらないこと。

「そして第二段階として、魔法は食らっても我慢する。これに尽きる!」

「そんなことができるんですか?」

 ジャックはカラカラと爽やかに笑う。

「マミヤさん、魔法を食らってバイブレーションが走っていても、仲間たちがいるでしょ? 魔力空っぽの魔法使いは、仲間たちが討ち取ってくれるよ。そしてマミヤさんは、撤退しないように我慢するだけさ」

 んな無茶な。

 前進を続けながら、先生のジャックは言う。

「以前こんなことがあってね。魔法に恐れをなした味方を励ますために、ウチの大将が単身乗り込んだんだ。マントをひるがえしてね」

「滅多打ちにあったでしょ?」

「あったあった! 魔法使い二人から、ボッコボコにされてね」

 それで撤退した、という話ではないはずだ。

「だけど大将は帰って来たのさ、あの高笑いでね。マントをひるがえしながら、衣服をボロボロにされてパンツ一丁だったけどね」

 いや、ジャック先生。アレは参考にならないと思います。

「そういえば、こんなこともあったな………と、そろそろ丘の上に到着だ」

 こんなことも、という話が気になるが、すでに戦場だ。私もステッキを握り直す。

 しかしここまで私たちは、まったくの無傷であった。これはカラフルワンダーのおかげであって、私たちの手柄ではない。ここは謙虚に考えなければならない。

 しかも、である。

 乗り込んで来た敵のことごとくを蹴散らし、逆に我々が先鋒で丘の上までたどり着いたのだ。それもこれも、やはりカラフルワンダーあってのこと。

 歯を食いしばって、屈辱に耐える。そして「貴女たちに挑戦する」と宣言した、過去の自分の思い上がりを恥じた。

 が!

 その言葉を撤回するなど、私にはできない! 彼女が見ている。カラフルワンダー筆頭、シャルローネが私を見ているのだ! 恥ずかしい振る舞いなど、絶対にできない!

 ならば今は何をするべきか?

 高嶺の花、カラフルワンダーを倒すために第一歩。このイベントをキッチリと、正しくこなすことだ! それが明日の実力につながる。そのことは日々の稽古で、理屈ではなく実感として感じ取ってきた。

「陸奥屋ならびにカラフルワンダー、この場で待機っ!」

 なんだと? せっかくヤル気になっているのに、なぜ水を差すのか、参謀っ!

「落ち着きなさいよ、マミヤ」

 コリンが私の肩を叩いた。そしてマップを見せてくれる。

 私たちは丘の手前で待機中。そして丘の上には、味方が展開していた。無理に押してゆくのは愚策である。

 なるほど、どうにも私は余裕を失っていたようだ。強大な魔法の威力、手の届かぬ高嶺の花。どれも私を打ちのめすには、充分なものばかり。

 しかし、いま焦ってこのイベントという、成長の機械を失ってどうする。

「ありがとう、コリン。少し自分を見失っていたようだよ」

「それだけじゃないわ、マミヤ。これを見て」

 残り試合時間だ。

「………残り一分? というか、一分を切ったな」

「ということで、次の号令は?」

 カラフルワンダーをふくむ、すべての魔法使いに魔法準備の号令がかかる。それも魔力が空になるまで、というものだ。

「試合終了で魔力が空っぽになっても、三日目開始の時点で回復してるでしょ?」

 残り時間三〇秒で、発射の号令がかかった。着弾を確認すると、敵に多数の撤退者が出たようだ。丘の上の味方が突撃を開始、ハウスを占拠してゆく。

「それではみなさん、明日は試合開始と同時に前進。敵側斜面に魔法を撃ち込みましょう」

 ということで、タイムアップ。

 二日目の終了となった。

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