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私、合流する


 シャルローネとともに、丘を下りてゆく。もちろん、カラフルワンダーのメンバーたちも一緒だ。すれ違う高レベルプレイヤーたちに対し、「ちょっと後方へさがってますね」などと気楽に手を振っている。

 その間にも魔法弾が降り注いできたが、シャルローネとふざけた魔力の仲間たちは上空で撃ち落としたり刀で斬ったり、素手で弾き飛ばしたりと理不尽な防御をとっていた。

「………魔法って、刀で斬れるんだね」

「ん? ん~~陸奥屋のジャックさんは、斬ったこと無いのかしら?」

「いや、斬れること前提で質問しないで欲しいんですが」

「まあウチの伯士くらいの腕なら、斬れないものの方が少ないんじゃないかしら?」

 そうだ。イメージが大切と言っていたのは、この娘。シャルローネ自身であった。しかしいくら私がイメージしたところで、私のステッキで魔法をホームランにすることはできないだろう。あまりに理不尽すぎるからだ。

 だが理不尽の申し子、鬼将軍ならばどうか?

 ………やりかねない。そしてきっと、後でリンダに叱られるのだ。

 だがシャルローネはどうだろう? 理不尽の塊というのは可哀想だ。彼女に悪いところなど、ひとつも無い。魔法が好き。打ち込んでいる、のめり込んでいる。という入れ込み加減は人並みはずれてはいるが、理不尽などではない。

 ならば?

「………………………………」

 観察する。

 何か無いだろうかと。

「あ、わかっちゃいました? これ、魔法防御の指環なんです♪」

 シャルローネは、右手の指環を見せてくれた。

「ちょっとクラフトレベルが必要なんですけど、試しに作ってもらったら、これがなかなか………」

「見せていいのかい、そんな秘策を?」

「まあ、マミヤさんならね。どうせ隠しておいても、レシピを見つけちゃうだろうから」

 ということは、図書館にそのレシピがあるということになる。

「だがしかし、いくら私がそんな上等な指環を手にしても、魔法を弾くなんてできそうにもないな………」

「それこそ練習ですよ、マミヤさん。陸奥屋でいろんな練習をしてるんですよね?」

 私はうなずく。もっとも、魔法を叩き落とす練習は、していないが。

「だとしたら、魔法を叩き落とすばかりでなく、別な対処ができるようになるかもしれませんよ?」

「そんな簡単なものかね?」

「マミヤさん一人ができなくても、マヨウンジャーの誰かができるようになるかも。マヨウンジャーができなくても、陸奥屋の誰かができるようになるかも。誰か一人ができたら、それが伝えられて教えられて、みんなができるようになるかもしれません」

「可能性ってやつだね?」

 ものすごくポジティブな考え方だ。これが若さというものか? 中年には少し、眩しすぎるのですが。

「それにしても、鬼将軍さんですよね」

 シャルローネは、ふたたびプンスコと怒りはじめる。

「初心者同然のマヨウンジャーを連れて、いつまで最前線にいるんだか」

「いや、さすがにあの大将も転進したんだけどね」

 どのタイミングで? と訊かれたので正直に、戦力の大半を失ったところで、と答えた。

「遅すぎよ、それ」

 あっさり切り捨てられた。

「本来なら上位レベルが現れた時点で転進してもいいくらいなのに! そう、味方の上位プレイヤーが援軍に駆けつけたタイミングでもかまわないわ! 少しは退くってことを覚えて欲しいのよね!」

 我々に後退の文字は無い。

 何故なら我々は、陸奥屋だからだ。

 と言ったら、彼女は本気で怒るだろうな。

 もしかすると陸奥屋の在り方は、女性を怒らせるものなのかもしれない。漠然とだが、そんなことを思ってしまう。

 鬼将軍の姿が見えてきた。真っ白な軍服は、よく目立つ。どこで用意してきたのか、幟を立てていた。範囲魔法に倒された仲間たちも、どうやら復帰し合流しているようだ。

「これより陸奥屋は、傷つきながらも我々のために尽くしてくれた、同志マミヤの救助にむかう!」

 鬼将軍の声だ。嬉しいことを言ってくれる。

「幸いにして、同志マミヤ撤退の知らせは入っていない! 我々陸奥屋は同胞を、決して見捨てないのだ!」

 わかる。その在り方、その姿勢。男心をゆさぶるものばかりだ。

 しかしシャルローネは、深くため息をつく。

「また大勢率いて、最前線に乗り込む気なの、あの人?」

「それが陸奥屋であり、鬼将軍だからだろうね」

 どうしたことか、シャルローネはこめかみの辺りに指を当てて、渋い顔をしている。

 そしてカラフルワンダーの男衆は、感心していたり感動していたり、じいさんなどはヒゲを撫でながら、「まだまだじゃの」と呟いたり。とりあえず三者三様の反応である。いや、一人だけ。一人だけシャルローネと同じ反応をしている者もいる。

 しかし鬼将軍は、軍刀を降り下ろした。

「陸奥屋、出撃っ!」

「こらーーっ! 待ちなさーーいっ!」

 シャルローネの一言で、陸奥屋の進軍が止まった。殺気立っている。が、私の姿を見つけたようだ。

「総裁っ! 同志マミヤです!」

「本当だ!」

「マスターっ! こっちでーーすっ!」

「マミヤーーっ!」

 マヨウンジャーの仲間たちもいる。というか、駆けて来た。たちまちマヨウンジャー、陸奥屋を問わず、人々に取り囲まれた。

「同志マミヤ、よくぞ生還した」

「総裁、私の手柄ではありません。こちらのカラフルワンダー主、シャルローネさんに救出されたのです」

「そうか、よかった。シャルローネさん、陸奥屋本店主として礼を申し上げます。ありがとうございました」

「御丁寧にありがとうございます………じゃなくって! 鬼将軍さん!」

 小さな拳を振って、シャルローネは猛然と抗議する。

「ん? ………シャルローネさんは、翁のところのシャルローネさんかな?」

「いま気づいたのっ?」

「お久しぶりです、翁」

 鬼将軍は魔法を刀で斬ったじいさんに、頭をさげる。

「相変わらず血気にはやっておるのぉ、お若いの」

「お恥ずかしい限りです」

「しかし、それで良いのかな?」

 シャルローネが言っていたことを、そのまま繰り返す。つまり、引き際をわきまえよ。少しは参謀の話を聴けと。

「さすれば陸奥屋は、まだまだ闘えるのだがのぉ」

 鬼将軍は、お恥ずかしいと言って頭をさげた。

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