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私、陸奥屋を体感する


「陸奥屋出撃っ! 私に続けーーっ!」

 鬼将軍が軍刀を振るう。私たちは駆け出した。そして左右を見れば、陸奥屋に指揮されるがごとく、西軍全体が丘を目指している。

 勇壮なるかな、戦さの宴。

 頼もしからん、我が同胞。

 おそらく男というものがいくつになっても戦さから離れられないのは、この光景にあるからなのだろうと勝手に思ってしまう。

 ここで全体通信が入った。今回の総大将をつとめるという、プレイヤーの某氏から自己紹介があった。

 この某氏、戦況を全体に知らせはするが、指揮はとらないと宣言する。

 良い判断だと、私は思う。ゲームの世界でまで「オラが大将」以外の者に指図などされたくないし、彼自身もプレイヤーの一人に過ぎない。せっかくのお楽しみイベントで、余計な負担をかけるのは心苦しいし、敗戦の後「やつの指揮が悪かった」などと言いたくない。故に、「存分に楽しんで下さいね」という、締めの一言がなんとも心地よい。

「かなめ君、観測カラス上げっ! 長距離魔法部隊は砲撃準備っ! 同志マミヤ、一隊を率いて先行し、先んじて丘を占拠するのだっ!」

 てきぱきとした号令。

 陸奥屋は鬼将軍の意思を忠実に実行する。もちろん私たちもだ。

 しかし………。

 鬼将軍とかなめ女史の会話が、オープンで聞こえてくる。状況を確認すると、全体通信を使っているようだ。

 何故に?

「………かなめ君、これが観測カラスのマップかね?」

「はい、総裁。『総裁お気に入り』の魔法、観測カラスからのマップです」

 なにか不都合でも生じたか? チラリとマップに目をやる。

 丘を挟んで東西、敵も味方も同じような形で、兵が展開している。

「………かなめ君、何故このようなことに?」

「両軍ともに、敵の砦を目指していますから。もっと言うのでしたら、敵も味方も丘の上を先に占拠したいのですから、当然のように似たような形になるかと。有り体に言うならば、自軍を見れば敵軍の様子が知れるという状態ですね………」

「するとこの観測カラス、利点というのは?」

「まったくありません。味方の最前線が丘に到達する時、範囲魔法を丘の上にバラ撒いた方が、よほど効果的と思われます」

「………………………………」

「………………………………」

「………参謀っ!」

「はいっ!」

「誰かね、こんな役立たずな魔法を仕入れて来たのはっ!」

「はっ! 総裁御自身ですっ!」

「………………………………」

「それも比較的、嬉々とした表情で!」

 私にも経験がある。

 責任者や監督官の肩書きをブラ下げた輩が現場に口を挟むと、大抵はロクな結果にならないというやつである。

 なるほど、道理で参謀は作戦説明の時、苦い顔をしていた訳だ。

「総裁、西軍各部隊からメールが届いています」

「読みたまえ、かなめ君!」

「はい………ちょっ、いきなりネタプレイかよ!」

「………………………………」

「笑かすな、芝生える。陸奥屋総裁鬼将軍、なんて恐ろしい子。お前のセンスエッジ効き過ぎ。………もっとありますが、お読みしましょうか?」

 いま総裁は、どんな顔をしているやら。

 こっそり振り向くと、奴は足を止めマントをひるがえした。

「恐れ入ったか、西軍諸君! 私こそが鬼将軍っ! 陸奥屋一党の総裁だっ!」

 歓声、拍手、祝砲のような魔法。ブラボーハラショーの声が上がった。

 そうだ、それでこそ我らが総裁。鬼将軍なのだ。

「しかし、かなめ君。同志マミヤたちは秘策のスニーカーを履いているはずだが、あまり先行できていないな」

 おぉ、大胆に話題を変えた! まるで大人や上司が、自分の失態をごまかすかのように!

「その件につきましては、総裁。お気付きになっていなかったのですか?」

「なにかね、かなめ君?」

「同志ベルキラが作製した、風のスニーカーというアイテム。あれは………失敗作です」

「?」

 そうだったのか?

 まったく気づいてなかったぞ、私。

「まず風のスニーカー、本来の性能は………」

 私たちよりも後方に配置していた連中が、私たちを追い越して駆けてゆく。

「あの通り、かなり高速です。あれに追い越されている時点で、失敗作です。そして同志マミヤたちは、その性能をセーブしなければ、使いこなせません。本当なら、使用者のレベルに見合った性能を発揮するのですが、調整を出せていません。故に失敗作です。そして同志ベルキラのクラフトレベルで作製するとなると、便利な機能をはぶいて省略してという廉価版にならざるを得ません。廉価版としては完成品ですが、風のスニーカーとしては失敗作です。その辺りのことを、風のスニーカー御披露目会で、お気付きになっていなかったと?」

「………………………………」

 ちょと待て。

 いや、待ってあげてください、かなめさん。

 観測カラスで散々叩かれた鬼将軍。一度は蘇生したものの、彼のライフはもうゼロなんですよ!

 しかし、血も涙もない参謀は、メールが届いていると全体通信で教えてくれる。

 そのメールの内容とは。


 お前、どれだけ仕込んでんのよ?

 やべぇ、オレ、鬼将軍に抱かれてぇ。

 おい、みんな。このままじゃ今回のイベント、鬼将軍が全部かっさらっていくぞ。

 鬼将軍は大変なものをかっさらって行きやがりました。

 それは貴方の、心です。

 それは貴方の、心です。

 それは貴方の、心です。

 はい、かっさらわれました。

 同じくかっさらわれました。

 もう、鬼将軍一人いればいいんじゃね?

 こんなのが二人も三人もいたら、たまらんわい!

 母ちゃん、ボク決めた! 将来鬼将軍になる!

 馬鹿言ってんじゃないよ、この子はもう!

 実は私が鬼将軍です。

 実は私も鬼将軍なのです。

 知らなかったのか? みんな心に鬼将軍がひそんでんだぜ?

 俺、今日で人間廃業するわ。

 お前いままで自分が人間だと思ってたのか?

 奴に比べりゃ人間らしいさ。

 鬼将軍を人間じゃないみたいに言わないで!

 人間なんかとは比較にならないさ。何故なら奴は鬼将軍だからな。


 さすが総裁。

 イベント開始数分で、すでにレジェンドになっている!

 それでこそ我らが総裁だ!

 そして奴は、よみがえるようにマントをひるがえした。

「畏れおののけっ! 私こそが鬼将軍! 陸奥屋一党の総裁だっ!」

 ハーーッハッハッハッ!

 悪魔よりも魔性を秘め、鬼以上に鬼らしい男は、戦場で高らかに笑い声をあげた。

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