私、初キルを獲得する
私にとっての四戦目は、決して難しい闘いではなかった。
ベルキラが主砲、私がサポート。ホロホロが引っかき回し役と、役割分担ができていた。………と、自分では評価したい。
敵チームからすれば、キルをとってもベルキラに追いつかれ、進軍しようにも私やホロホロに阻まれと、ストレスがたまる一戦ではなかったかと思う。
「今ごろ敵チームは、罵り合いをしてるかもね」
鼻歌でも歌うように、ホロホロは言う。
「それにしても、みんな闘い方を工夫したりはしないのかね?」
「初心者だらけだし、お互い知らない者同士だからねぇ」
二人でベルキラに群がる敵を、ぺちぺちと牽制する。
「それに、ゲームは自分が楽しむもの、なんだから仕方ないよ」
「自分が楽しむもの? それは確かにそうだが………」
「言い方が悪かったかな? ゲームではプレイヤー個人個人が主役。主役の俺が活躍できないのは、おかしい! って考えなのよ」
私とはまったく別の考え方である。
そう述べるとホロホロは、「だからマミヤさんに、ギルドを立ててもらいたかったのよ」と笑った。
「そういえばホロホロ、君は戦術を建てるのが上手いが、どうしてだね?」
ぺちぺち叩いて、サッと逃げる。
「別に私が戦術を考えた訳じゃないのよ?」
ぺちぺち叩いたホロホロも、サッと身をかわした。
「動画サイトで各プレイヤーさんの作戦をチェックして、初心者に使いやすいように考えただけだよ?」
それだけでも充分すごい、と私は思う
初心者に使いやすいようになどと簡単に言っているが、既存のものを別な形に編集するという行為は、非常に難しいことだ。ましてそれで結果を出すなど、至難の技としか言い様がない。
しかしホロホロは笑う。
「結果をキチンと出せてるなら、五戦して一勝しか挙げてない、なんてありえないよ」
喋りながら矢を放つ。
その隙を討たれないように、私がフォローする。
「それよりマミヤさん。まだ三戦しかこなしてなかったの?」
「あぁ、リプレイで自分の動きや味方の動きを、チェックしていたのでね」
私も魔法を放つ。それが命中。ジリジリと各個撃破の形が出来上がる。
「えらい!」
ホロホロが声にした。
彼女の説明によると、せっかくのリプレイを、何故誰も見ようとしないのか。
そうでないと、自分の良いところ悪いところがわからないじゃない!
いやホロホロ、分かる。分かるんだ。だがまあまあ、今はバトルの場面。まずは戦闘に集中しようじゃないか。
「ところでマミヤさん。マミヤさんは火の玉以外に、何か魔法は使えるんですか?」
だから戦闘に集中しようってばさ。
「障壁と飛翔が使えるが」
って、答えてる私も私だが。
「おぉ! 飛翔っ!」
ぺちぺちぺちぺち。サッと逃げる。
「でしたらマミヤさん、そろそろキルを取ってみてはどうですか?」
どうやって?
「飛翔の時間や距離にもよりますけど、あそこ………」
ホロホロが指差す先には、無防備なヒーラーがいた。
「あの神官職を空からボッコリと………」
「飛翔の最中は他の魔法が使えないんだ………って、レベルが上がるとそんな真似もできるのかね?」
「もちろんですよ、というかまだそこまでのレベルに達してないんですね。………では、急降下攻撃などはいかがですか?」
なんだその心踊るような攻撃は?
まあ、ホロホロの説明によると、急降下しながらタイミングよく強攻撃を叩き込む。威力は絶大だ、という攻撃らしい。
タイミングよく、という不確定要素はあるが、何事にも「初めて」はあるし、百の理屈より一の実践とも言う。
幸いなことにポイント差は大きく開いている。
試すならば今だろう。
ということで、出撃。
空を飛ぶという独特の爽快感を味わいながら、というかヒーラーの場所まで、たどり着けるのかな、これは?
魔法の制限時間が切れて、ほぼ墜落状態。
しかしなんとか攻撃を加えることはできた。
私などの攻撃ではあったが、ヒーラーの体力をゴッソリと奪う。
ここは追撃だ。相手がバイブレーションから立ち直るより先に、得意の弱攻撃を………えいっ! ぺちり!
敵は言わばフラフラの状態なのだが、私の連打は弱攻撃がメイン。中攻撃や強攻撃に移行して、コンビネーションの隙を突かれるのが怖いのだ。
しかし、相手も弱攻撃を返してくる。
マズイ!
できるだけ避けて、よけて、こちらも弱攻撃。
ぺちぺちぺちぺち!
ぺちぺちぺちぺち!
お互いにショッパイ攻撃を交換したが、遂にヒーラーが力尽きた。
やった、撤退だ! 初めてのキル、ゲットだぜ!
しかし私は復活してきたドワーフ、槍士に挟まれ、あっという間に撤退。
しかし初キルの手応えに、気分はすこぶるよろしいものだった。
と、これが私の第四戦概要。我々の勝利で試合を終えることができたのだが。
控え室の光景に戻る。
今回のチームメイトと挨拶を交わし、空中に現れる試合を続けますか? の質問。
「一度バトルから外れましょ?」
ホロホロの提案に従う。そうしないとギルド設立の手続きができない、というのだ。
視界が暗転して、お馴染み、ロード中の文字。
視界が回復すると、六人制のドアの前に立っていた。そこへベルキラが現れ、ホロホロが現れる。
「私の記憶に間違いが無ければ、ギルド設立は受付で手続きすると思ったのだが?」
あの美人で有能な受付嬢に、ふたたび逢える。
そう思うと不思議、自然とオールバックに整えた髪に手が伸びる。手櫛を入れてしまう。
「………あの、マミヤさん?」
「なにかな?」
「………もしかして、浮かれてます?」
あら、オジサンどっきり。
「そんなことはないよ、何を言ってるのかね、君は」
「あ、受付の女の人!」
「え? なになにどこどこどこ?」
視線を巡らせども、そこにかの美女の姿は無く。
やはりじっと手を見る。
そう、かたわらから送りつけられる、ジットリとした視線を無視しながら………。
「………マミヤさん?」
「あぁ、私の金運線は、何故にかくも短いか………」
「頭脳線も短くない?」
手加減が無いねぇ、この娘は。
「マミヤさん? 女の子の前で他の女性に心奪われるのは、とてもとても失礼なことなんだよ?」
「ときめきを忘れた人生なんて、こちらから願い下げだね」
「男の人の言い訳だよね?」
「すまない、女性に打ち込める人間じゃないんだ、私は」
「打ち込んでたじゃない、今………」
「女の子よりも好きなことがありすぎるんだ、私には………」
「それは具体的にどんなもので、どれだけ打ち込んでるのかな? っていうか、それって女の子に失礼を働いていい理由に、なってないよ?」
「飲んでくる! 話はまたにしてくれ!」
「かまわないけど、酔っ払った頭にこの話題は、かなりキツイんじゃないかなぁ?」
すみません、私は飲めません。ただの詰まらない下戸なんです。もう許してください。
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