私、みんなと動画を改める
動画はまさに乱戦であった。
決戦前のある日、私たちは拠点「下宿館」で、あらためて過去イベントの動画をチェックしていた。もちろんネタプレイではない。プレイヤー御自身がアップした、いわゆる「俺、強ぇえ動画」である。
そんな動画であるから件のプレイヤー氏が、どのようなシュチュエーションで撤退の憂き目に逢ったか? そこは割愛されている。
しかしそれでも、イベントの雰囲気や流れは、なんとなく掴むことができる。
戦場は以前ジャックが語っていたように、関ヶ原のような広い草原であった。スタート時点では、敵の姿すら見えない。ただプレイヤー氏の視線が動くことにより、味方が横一列。かなりの人数が集まっていると知れた。
「………ここの数字が、参加者の人数らしいね。大体一二〇〇人同士の対決みたい」
ホロホロが呟いた。
開幕までのブリーフィングタイム、プレイヤー氏は一人である。個人参加のようだ。
彼は、東軍陣地の真ん中付近に配置されることを確認。そして自分の正面、はるか彼方の敵の情報を整理。少々手強い相手のようだ。そして自分を囲む味方の情報を確認。………比較的不利な状況と判断。自分よりも上位レベルのギルドを探し、そのギルドの後についていくことを決定していた。
銅鑼が鳴り、決戦開幕。周囲の味方が駆け出すが、プレイヤー氏は横移動。上位ギルドとの合流を謀る。
「マスター、もしもこの動画を観た初心者がボクたちの近くに布陣していたら、ボクたちの後について来るのかな?」
ん~~、と私は考える。
「プレイヤー氏は有利なポジションを選択したのだから、それは無いと思うね。私たちよりもレベルが高く、見たこともないような武装をしたギルドは、いくらでもいるだろうさ」
と、なると。
「むしろアキラ、アタシたちの周りから初心者が逃げ出すんじゃない?」
コリンの言葉を拾うように、ベルキラが呟く。
「………総裁が喜びそうな、そんなシュチュエーションだな」
去りゆく味方。
孤立する陸奥屋。
吹きすさぶ戦場の風に、マントはなびく。
戦雲の下、奴は嬉々として言うだろう。
「この戦場、陸奥屋が実力で借りきった!」
………………………………。
あり得る。
というか、奴ならきっと喜ぶだろう。というか、ベルキラのたった一言でビジュアルまで浮かぶ。そんな鬼将軍のインパクトって、どうさ?
動画は続く。
両軍接近の最中、岩や樹木。それに付随するように掘られた、塹壕やタコ壺のようなものが目に入った。プレイヤー氏の解説によると、戦場における避難場所。ちょっとした魔法よけのようなポイントらしい
そして敵陣営が迫ってくるのが見えて、長距離魔法が単発的に飛来する。
「意外と少ないですねぇ………長距離魔法………」
モモが言う。
陸奥屋では長距離魔法使いを、十二人も抱えている。しかし画面の中で飛来する魔法は、それに毛が生えた程度である。
プレイヤー氏はこれを難なくかわし、なおも直進する。だが前方に、人の群れが。肉弾戦である。その群れの中へ飛び込む魔法も、比較的ショボいものでしかない。
プレイヤー氏、突入。
魔法弾から槍の突き込みを繋げて、ワン・キル。すぐさま戦場を離脱。彼のいた場所に、範囲魔法が落下する。結果、被弾ゼロ。そこから弱魔法をバラ撒いてポイントを獲得。さらに戦場へ入ったり出たりを繰り返し、当たらず障らずを繰り返す。
「………ねぇ、マスター?」
アキラの言葉には、怒気が込められていた。
「………この人の戦い方、ボクは好きになれないなぁ」
不快感を示している。
「確かにね、もちろん私もそうだ」
私は同意する。
「だがしかし、彼は野良。私たちのように後ろ楯がある訳ではない。個人参戦の人間には、これくらいのことは仕方ないのさ」
「でもこの人、東軍の勝利よりも自分の利益が優先みたいで、ボクにはちょっと………」
「参戦の理由と目的は、人それぞれさ。私たちだって陸奥屋として恥ずかしくない戦いをと考えているが、それが自己満足の辺り構わずと見る人だっているだろ? 陣営の勝利に貢献しているとは、考えにくい」
プレイヤー氏、上位プレイヤーに狙撃され、撤退。
復帰するやまたも有利な戦場を目指し、それなりの戦果をあげて撤退。キルは下位レベルプレイヤーから奪ったものなので、誇れるようなポイントなど稼げていない。
しかしマイペースなプレイは続く。キルを取ったり取られたり、取られたり取られたり。
おかしな話だが、プレイヤー氏はあまり敵陣に近づくことなく、一定のエリアをウロウロするばかりだった。
「マスター? 私の聞いた説明では、敵陣の砦を落とさないと勝利ではないということだったのだが?」
ベルキラもまた、言葉に怒気をふくめている。
「これ以上、彼は進めないのだろう。責めてはいけない。野良なのだし、そういった方々がいらっしゃるのも、事実なのだから」
そのようにフォローしてみたが、それにしても………だらしなさすぎる。突撃こそ至高などとは言わないが、攻撃精神が乏し過ぎる。素人の私にも、それは明確であった。
そして何の盛り上がりも無く、イベントは終了した。
「………………………………」
「………こ、このプレイは………」
「どう評価しようかなぁ?」
ベルキラは困っていた。
ホロホロなどは、苦笑を浮かべている。
「感謝したらいいんじゃない?」
提案したのはコリンだ。
「こんな恥ずかしい戦いを公開してまで、私たち後進にイベントの雰囲気を伝えてくれてるんだから、素直に感謝すればいいのよ」
「まーー雰囲気だけは掴めましたからねぇ~~。………まともに戦わなければ、それなりに戦えると分かりましたからねぇ………」
「モモさん、それを言っちゃ………」
微妙な空気が漂ってしまった。
ここは年長者として、一言かけてやらねばなるまい。
「人数こそ多いものの、普段のファイトとそう代わり映えしないようだから、いつも通りに稽古通りに行こうじゃないか」
若者たちは、やる気を取り戻したように見えた。
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