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私たち、挑む


「そして大まかな陸奥屋全体の方針ですが」

 参謀の紐飾りを光らせながら、若者が言う。

「我々の主力たる第一小隊………つまり陸奥屋一乃組を、いかに無傷で敵陣地に送り込むか? ここを肝とさせていただきます」

 そうだ、カラフルワンダーが魔法をもって特化ギルドというのなら、我らが陸奥屋一乃組は物理攻撃の特化ギルド。おそらくという推測付きではあるが、イメージにより魔法の攻撃力があがる世界なので、物理攻撃も信念とか気合いとか根性で破壊力が増大する見込みがある。

 そうなれば自分を信じて疑うことを知らないジャックや鬼将軍といった人種は、どれだけの火力となるか想像すらできないくらいだ。

 これを主力と見るのは正しいし、敵陣地へ無傷で放り込むのも、また正しい。

「その目的を達成するためにも、二乃組新メンバーは御剣かなめさんから送られるマップを頼りに、魔法攻撃を遂行。三乃組新メンバーのドワーフ………力士隊は人の壁となり、護衛を完遂してください」

 二乃組三乃組は、ジャックたちとともに敵陣地へ突撃。敵陣地内での一乃組護衛、ならびに戦果の拡大を図る。

「もちろん状況は流動的、現時点においてはどのようなステージになるかすら、わかっておりません。いざというときには、同盟ギルド迷走戦隊マヨウンジャーにも、一肌脱いでもらうこともあるかもしれません」

 そしてここが重要な点であるがと、若い参謀が付け加える。

「大層に作戦や方針をぶちまけているものの、これはあくまで勝利を目指す指針に過ぎない。どこまで突き詰めてもゲームはゲームでしかないので、各員充分にイベントを楽しむようにというのが、総裁の方針です」

 質問はありますか、というので手を挙げた。

「いざというときにはとおっしゃられたが、我々マヨウンジャーはどのような方向性で、場に臨めばよろしいのか?」

 返答しようとした参謀を、鬼将軍が制した。

 そして私の目を見ながら言う。

「………迷走戦隊マヨウンジャー諸君。君たちは今、うちの参謀の話を聞いていたね?」

「はい」

「ならばすでに君たちの軍師が、どのように働くべきかを検討していると思わないかね?」

 背後に目をやる。

 さきほどまでヘナヘナだったはずのホロホロが、今では凛々しい顔をしていた。腕あぐらをかくようにして、右手でアゴを撫でている。

「………同志マミヤ、頼もしい軍師ではないか」

「総裁、私からも!」

 そのホロホロが挙手。鬼将軍から直々に、意見することを許される。

「試運転もまだですが、私たちはさきほど風のスニーカーという、駿足アイテムを開発しました。その試運転といってはなんですが、演習をしていただければ性能を披露できますし、参謀の参考にもなるかと」

 ふむ、と鬼将軍は唸った。こちらもアゴをひと撫で。

「それでは魔法隊からの三名、力士隊からの三名でお相手しよう。レベルは彼らの方が高いが、何をしてくるかはわかっているので、ハンディキャップにはならないだろう」

 ということで、早速参謀は選手を指名。私たちはスニーカーを装備。木製の稽古用武器を手にした。ホロホロの弓矢にはタンポがつけられており、それが稽古用の証明らしい。

 道場といっても、かなりの広さがある。それこそ白州の庭のように、一〇〇人くらい楽に収容できそうな広さだ。

 神棚の下には、鬼将軍を始めとした、本店メンバーにジャックが座っている。

 総裁とジャックの会話が聞こえてくる。

「ジャック先生、いかがでしょう? どちらが勝ちますかな?」

「まず、勝負は水物。決めつけはできません」

 そう前置きして。

「まずレベルとスペックの高い選抜チームが、六分間という短時間では有利でしょう」

「その先は『しかし!』と続くのかね?」

 ジャックは首を横に振る。

「やはりマヨウンジャー不利に、変わりはありません。問題はやはり、あの駿足のスニーカーでしょう」

「試運転だからかね?」

「それをより具体的に言うならば、工夫の足りなさでしょう。彼らの持ち味は、いま持っているものでどのように戦うか? いま持っているものをどのように活かすか? その工夫こそが、彼らの持ち味です」

「勝てないかね?」

 落胆した声だ。

「勝負は水物です」

 もしもマヨウンジャーに賭けるなら、とジャックは言う。

「彼女らの若さと柔軟性に、期待するのみです」

「それでもマヨウンジャー不利だろうに」

「総裁」

 落ち着いた声だ。

「勝負は勝つか負けるか。五分と五分です。例えスペックにどれだけ差があろうとも、です」

 リアルでも剣士とウワサされる、ジャックらしい勝負観だ。そしてその言葉は若者たちにとって、励みとなる。

「聞いたね、みんな」

 私は少女たちに確認する。

「演習相手はスペック上、私たちよりも有利。しかし私たちはすでに、そんな状況を闘技場で、何度も経験している」

 少女たちはシリアスな表情でうなずいた。

「心配なのは、このスニーカーの性能を把握していないことだが、問題はあるかな?」

「アタシは性能を小出しにしていくわ。開幕、即転倒なんて格好悪いからね」

「ボクは最初から、ある程度まで回していきますよ。ボクの持ち味は神速の踏み込みですから」

「私はここぞという時だけ、使わせてもらう。ドーワフに風のスニーカーは、そうした関係が望ましい」

「私は加速度を試したいな。どんな加速を見せてくれるか、楽しみじゃない?」

「私はぁ、ベルキラさんと同じようにぃ、ここ一番でダッシュしますねぇ」

 ジャックさん、聞いたかい? ウチのメンバーはこの場にいたっても、それぞれ課題を抱いて新たなアイテムに使われぬよう、アレコレ考えているんだぜ。

 この試運転、一発ブチかまさせていただきますよ。

「じゃあホロホロ、どんな手で行く?」

「おそらく敵は、タンクのドワーフを突っ込ませて来ると思うの。そこのパートはいつものように、各個撃破の体勢を作りましょ? ………問題は、魔法使いかな?」

「ボクが行くよ。この中で一番速度を出せるのは、きっとボクだからね」

「ドワーフは相手にしないのか?」

 ベルキラが問いかける。

「もちろん手の届く範囲にいたら、容赦はしないですよ? 会敵即斬るの精神で戦うんだから。でも最終目標は、魔法使いです」

 私たちの方針は決まった。あとは開幕の銅鑼を待つだけだ。

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