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私たち、陸奥屋本店へ出向く


 陸奥屋一乃組とともに、本店へと向かう。目的は当然、厳冬期イベントに対する作戦説明会である。

「もしかしたら向こうで、演習のひとつもあるかもしれないぞ?」

 ジャックはそう言って笑う。

「ぜひともその、風のスニーカーの効果を拝見したいな」

「実は試着試運転もまだなので、どれだけの力を発揮できるか、私たちにもわかりません」

 ホロホロだ。

 フィー先生の回復魔法で、どうにかよみがえっていた。

「そうか、未知の効果を秘めた、まさに秘密兵器だな」

 ジャックはどこまでも陽気な考え方の持ち主である。

 そして陸奥屋本店。

 この屋敷もまた、西洋ファンタジーという世界観をぶっちぎった、日本家屋平屋建てである。

 平屋建てという部分にガッカリされる方もいようが、そんな心配は無用。陸奥屋本店は、屋敷である。門を構えている。敷地内に庭園がある。縁側などはえらく長く、その前の砂州などは兵が一〇〇人も集まれそうな規模である。

 もう一度言おう。

 陸奥屋本店は、屋敷なのだ。

 道場に通される。磨かれた床板の、大道場だ。そこにはすでに、四〇人ほど正座していた。

「なんですか、この人数は?」

「陸奥屋二乃組三乃組だよ。先日増員してね、まだ分隊していないんだ」

 分隊とは、この人数から四乃組五乃組、六乃組七乃組にわけることだそうだ。

 それにしても………。

 ゴツいドワーフが十二人。魔法使いの魔族が、十二人。攻撃一辺倒にもほどがある。ヒーラーはどうした? 回復はどうするんだ?

 疑問を感じながらも、私たちは一乃組の後ろに座る。

 待つことしばし。

 スーツ姿の黒髪美人が現れた。総裁秘書の御剣かなめだ。

「これより、陸奥屋総裁鬼将軍が入室します」

 みな一斉に面を伏して座礼した。私たちもそれに習う。

 しかし疑問に思うのは、何故二乃組以降の連中は和装なのかという部分だ。しかも二本差しで………。

 足音がする。複数だ。

 その足音が止まり、座するような衣擦れの音。

 それから………。

「面をあげよ」

 静かな声がした。顔をあげる気配に、私たちも習う。

 鬼将軍がいる。紋付き袴である。年末は軍服姿だったくせに。

 むかって左手には、若者が立っていた。こちらは海軍の真っ白な詰め襟の軍服だ。ただし、トンチキなマントもブーツも無い。正当な海軍少尉、という感じだ。

 鬼将軍のかたわらには、恰幅のよい年寄りが控えている。裃をつけていた。家老か専務か、いずれであろうとも「ジイ」の呼び名が似合いそうだ。

 そして入り口には美人秘書と可愛らしい秘書、さらにはメイド服の小柄な娘である。

 トンチキなのか、そうでもないのか。今回の集まりがどちらなのか、私ごときに判断はつかなかった。

「本日は大義であった」

 鬼将軍が口を開く。

「厳冬期の合戦前に、一度みなの顔を見ておきたくてな」

 薄く微笑む辺り、なんとも心憎い演出である。

「みな、壮健のようでなによりだ。総勢何名集まった?」

「一乃組六名、揃っております」

 ジャックが申告した。

「二乃組十八名、ぬかりなく」

「三乃組十八名、間違いありません」

 そして鬼将軍は、私を見た。

「迷走戦隊マヨウンジャー六名、揃っております」

 私は頭を下げた。

 いや、正しくは顔をあげていたくなかったのだ。奴が見ている。鬼将軍に見られている。それだけで、プレッシャーがのしかかってきたからだ。

「すると陸奥屋は、総勢五〇名の大所帯というところか。もはや一大勢力だな、かなめ君」

 美人秘書は、かるくお辞儀した。

「さて、みなを呼び出したのは、顔合わせだけではない。此度の合戦における作戦などを、軽く説明するためだ」

 鬼将軍は海軍の若者を見た。

「参謀の大矢健治郎です。これから簡単に、陸奥屋の方針を説明させていただきます」

 まず合戦開幕と同時に、物理攻撃隊は前進。敵陣地の強奪と確保を目的とする。

 それを援護するのが、長距離魔法隊である。

 が、しかし。

「ここで問題が生じます。陸奥屋の長距離魔法は、肉眼で目視できない距離を攻撃するのです」

 どうやって?

 これは素人の私でさえ、疑問に思ってしまう。

「そこでこの度、秘書御剣かなめが観測カラスという魔法を取得しました。実際に試してみましょう」

 美人秘書御剣かなめ、前へ。

 雰囲気を出すためか、巨大なトンガリ帽子にローブ。さらにステッキを手にして、呪文詠唱。

 私などよりも、はるかに魔法使いらしい空気を醸している。

 そして彼女の頭上に、カラスがポンと現れた。カァと一鳴きして、屋外へと飛んでゆく。

 御剣かなめは言う。

「これよりデータを送りますので、回線を開いてください」

 言われた通りにした。

 するとマップ画面が現れる。陸奥屋周辺のマップで、行き交う人々が円や三角、四角形で表記されていた。

 美人秘書が言う。「………総裁、ここに魔法使い七人の反応が出てますが?」

「カラフルワンダーかね?」

「ゲル状物質を爆撃してやりましょうか?」

「やめておこう、かなめ君。ここは戦場ではない」

 カラフルワンダーを見たら、即座に攻撃かよ?

 ってかゲル状物質って、なにさっ?

 場を取りなしたのは、やはり参謀である。

「このように観測カラスを使えば、誰がどこにいるか、目視できずとも確認できます」

 参謀は疲れているようだった。


 そして我々の具体的な作戦は、次回持ち越しとなった。

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