私たち、作製に入る
拠点に戻るとベルキラに、作製方法のメモと材料を渡す。
「思ったよりも簡単そうですね」
ベルキラは風のスニーカー制作を、快く引き受けてくれた。
「ホロホロ、このアイテムの制作には、ホロホロの力も必要だ。手伝ってくれ」
「え、私?」
「あぁ、風魔法を使わないと完成しない仕組みらしい」
「うん、わかったよ」
ということで、二人はクラフトルームに消える。
「そうなると、私たちは途端に暇になる訳だが」
「それじゃあマスター、ガールズトークに参加してみます? ボクたちの普段の会話、気になりません?」
「ま、待ちたまえアキラ。なんだね、その発想の飛躍は?」
先程まで私は自分の発想の貧困さに打ちのめされていたのに、君は自分の才能をひけらかすのかい、アキラ?
「ダメですか、マスター?」
「うむ、ガールズトークというのは男子禁制の花園だからね。ここは遠慮させてもらうよ」
「それじゃあマミヤ、みんなのスニーカーはどんな色がいいか、考えるってどう?」
みんな同じ色じゃないのか? と言いかけて止めた。それは私のインスピレーションの足りなさを、告白するような行為だからだ。
「なるほど、それは面白そうだね。………では最初に、アキラのスニーカーをイメージしてみようか?」
「マスタぁー? 何故アキラ君なんですかぁ?」
「良い質問だね、モモ。スニーカーと言えば運動靴、運動と言えばアキラ。どこにも不自然は無いだろう?」
「なるほど、御主人様がアキラさんの若鮎のように瑞々しい肢体にゾッコン、という理由ではないんですね?」
たぬきだ。
いつの間にか指環から姿を現し、シレッとそこにいる。
とりあえず挨拶代わりに、ムエタイの膝。
「げふっ………効きましたよ御主人様、いまの一撃………」
「正しいことは言っているが、表現がスケベったらしい。だから効くヤツをお見舞いしたまでだ」
「だけどアキラなら、なんとなく赤かしら?」
「そうですねぇ、青い髪のアキラ君にはぁ、赤いスニーカーが似合うと思いますぅ」
コリンとモモは女の子カラーとされる、赤を推してきた。
もちろん私も、アキラには赤いスニーカーが似合うと思う。事実、そのように意見を述べた。
しかし実は、二人とは違う理由も胸に秘めていた。
赤はチャンピオン・カラーなのだ。
ボクシングのコーナーは、赤と青に別れている。赤はチャンピオンのコーナーで、青はチャレンジャーのコーナーなのだ。これは学生時代、級友がしつこいくらいに教えてくれた、無駄な知識のひとつである。ちなみに赤コーナーがチャンピオン陣営で青コーナーがチャレンジャー側というのは、アメリカの話だそうで。イギリスに渡るとこの風習は逆転することになる。赤コーナーはチャレンジャーのもので、青コーナーがチャンピオン陣営になるそうだ。
これは人生において、まったく役に立たない無駄知識である。
「しかもぉ、アキラ君には丈の高い、半長靴のようなタイプが似合うと思いますぅ!」
おいおいモモ、それじゃ本当にリングシューズになってしまうぞ?
「………何故かしら? スニーカーの上の部分から、ハイソックスが覗いてるイメージが湧いてくるわ」
だからコリン、もう勘弁してやってくれ!
「これで踵無しの靴底ペラペラなら、リングシューズですね!」
「コラたぬき、アキラだってオシャレしたい女の子なんだぞ? リングシューズは失礼だろ!」
だがアキラは、私の袖をクイクイと引いてきた。
「………あの、マスター? ボクには特別にオプションで、チャンピオンベルトを付けて欲しいんですけど………」
「何に使うのかね、そんなもの?」
「何にって、ベルトは腰に巻くものでしょ?」
確かにそうだ。だがしかしそうじゃねぇ。
「肩に担ぐのも、格好いいですよねぇ」
いや待て、アキラ。
君はそれでいいのかね?
「マスターもジャックさんに鍛えてもらっていれば、三年でベルトのねらえるレスラーになれますよ?」
「ボクサーの話じゃないのかね?」
アホな話をしていたら、クラフトルームの扉がガチャリと開いた。
よろめくようにして、ホロホロが姿を現す。
「どうした、ホロホロ!」
小さな弓使いは、ゲッソリとやつれていた。
幸いなことに彼女は、心配ないとばかり、私たちを片手で制した。
「あ~~吸い取られたわぁ、ベルキラに………」
何を? どうやって?
とりあえずフィー先生特製のドリンク剤を与える。
一息ついたところで、彼女は口を開いた。
「ところでみんな、厳冬期のイベントのルールは把握してる?」
「大勢で魔法のブッ放し合いをしたり、ど突き合いをするんだろ?」
「チュー………ズルズルズル………だから、その印象が本当かどうか。それが知りたかったんだけど。もしかしたら私たちが持っているイメージと、違う内容かもしれないよ?」
なるほど確かに、あのジャックが教えてくれた話だ。彼の主観と希望的観測が、多分に含まれている可能性がある。これは確認の必要がある。
「それじゃ私は、また絞り取られて来るね」
ホロホロがヨロヨロと立ち上がった。かなり頼りない姿である。
思わず心の中で両手を合わせる。そうしたくなるような、後ろ姿であった。
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