私、扱いにくいものを扱わされる
本を返却すると、新たに検索をかける。機動力を上げる、という検索ワードだ。
一冊の本が選ばれた。
精霊と仲良くなる本、だそうだ。
「ねぇ、マミヤ?」
「どうした、コリン?」
「マミヤはツキを持ってる方?」
「特別なものは感じないな」
「おかしいわね、このコリンちゃんに出会えたんだから、ツイてる人間だと思ったのに………」
「して、そのココロは?」
「いきなりハズレ臭いタイトルよね、この本」
「ハズレとか言ってはダメだぞ、司書さんが選んでくれたんだから」
とりあえず席に戻り、一緒に本を開く
この本では、ニンフと呼ばれる妖精種が讃えられていた。ウチのメンバーで言えば、ホロホロやモモの種族である。
そのニンフたちは精霊と仲良くなることにより、魔法能力が格段に上がるそうだ。
しかし、ホロホロやモモが精霊と仲良くしているという話は、まるで聞いていない。
「こっそり仲良くなっている可能性は無いかな?」
「だとしたら、闘技場でのファイトで成果で出てるはずよね?」
「やはり無いか………」
下手くそな絵本のようなページをめくる。
風の精霊について書かれたページだ。
すぐにホロホロを思い浮かべる。風系魔法を使うからだろう。
「なによ、これ? 風の精霊は自由な旅人だから、移動に優れたスニーカーを履くんだよ?」
「移動と言っても。長距離移動じゃないのか?」
「ちょっと待って………このスニーカーを闘技場で履くと、すごい速さで走れるんだよ………ですって」
なに? ならば私はツキを持っている人間ということになるぞ? それは計らずも、コリンちゃんに出会えた幸運な男とやらになってしまう。
それは正しいことなのか? いや、間違っているだろう? というかコリンと出会えたから幸運という定義が、まずもって私には納得いかないのだ。
いや、本当にそうか?
コリンに出会えたことは、私にとって不幸であっただろうか?
その解答を導き出す前に、もみあげ辺りに激痛を感じる。
「ちょっと、聞いてんの、マミヤ?」
「痛い痛い! とりあえず手を離しなさい!」
ということで、激痛から開放される。
「まずはそのスニーカー、本当にファイトで使用できるものなのか?」
「ここに書いてあるからわ間違いないわ」
ならばその入手方法は?
「風の精霊さんと仲良くなれば、プレゼントしてくれるらしいわ」
「………………………………」
「………なによ、なんか言いなさいよ?」
「なんじゃそりゃ?」
「なんじゃそりゃって、仕方ないじゃない。そう書いてあるんだから」
「それもそうだ。ならば購入したり………いや、できれば作製したいのだが、何か書いてないか?」
コリンがページをめくる。
「あったわ。販売はしてないけど、風魔法の使い手とドワーフで、どうにかなるみたいね」
「で、このスニーカーのアイテム名は?」
「風のスニーカーね」
まんまな名前だ。
しかしその本には、それ以上の情報は書かれていなかった。つまり、アイテム図鑑で作製方法を探せということだ。
………………………………。
ということで、比較的簡単に『風のスニーカー』を作ることができるようだ。
私は散らばったメンバーたちにメールを送る。
魔法対策のひとつとして、機動力を上げるアイテム『風のスニーカー』の作製方法を入手。早速試してみよう!
とメール送信。
「コリン、このスニーカーを手に入れたら、どんな戦い方をしたい?」
もちろん、魔法回避は当然としてだ。
「そうねぇ、まずは囮ができるかしら?」
「それから、ヒット&ランも可能だな」
「ピンチの仲間を助けにも行けるし、好きなポジションも確保しやすいわね」
普段このような会話はホロホロとしかしないが、なかなかどうしてコリンもこうした作戦立案の会話ができる。頭の切れる子なのである。ただ、短気と思われる性格と気性の激しさで、そのような役割が回ってこないだけなのだ。
みんなからメールが帰ってくる。早速拠点で作ってみよう、ということになった。
「気が早いわね、みんな」
「これで完璧とはいかないものの、魔法コンプレックスを解消する手がかりなんだ。気も急くさ」
と、ここでコリンにもメールが。
「アキラからだわ」
開いてみると、コリンは顔を真っ赤にした。
「ななななに言ってんのよ、アキラ! バッカじゃないのっ?」
「なにが書いてあったんだ?」
「知らないわよ、馬鹿エッチ!」
あわててメールを閉じてしまった。
訳もわからず馬鹿エッチ扱いされた私としては、いたたまれない気分である。
「とりあえずコリン、人数分の材料を買って拠点に帰ろう」
「ほえ?」
「ほえ? じゃなくてさ。風のスニーカーを作る材料は、私たちしか知らないんだぞ? 私たちが買わないでどうする?」
「あ、そうよね。………まだ二人きりが、続くんだ」
「何か言ったかな?」
「なんでもないわ。さ、行きましょ♪」
なにやら唐突に機嫌が直ったようだ。
年頃の娘というやつは、どうしてこう扱いにくいものなのか。
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