私、エントリーを決める
ジャックは大笑い。
私たちの失態とその原因を語ったとたんのことだ。
「そうだな、やはり基本基礎は大切だ。だけどマミヤさん、基本と基礎の違いを語れるかな?」
もちろん、語れる訳が無い。
「これはあくまで、俺個人の見解なんだけどね」
ジャックは前置きした。
基本は教えてもらう物。
基礎は自分でどうにかする物。
非常に簡単な答えだった。
「基本には基本技なんて言葉がある。技そのものは、誰かから教わらなくては身につかない。そして基礎だ。基礎体力という言葉がある。自分で走り込みをしたり、筋トレをしないとモノにならない。だから基礎は自分でどうにかしなければならないものだ」
ならば私たちは、どうだったか?
基本は教えてもらった。それを反復し、身につけようと努力していた。………はずだ。しかしいざ慢心すれば、身につけたと思っていた技術も、この有り様である。
「ズバリ答えて下さい、ジャックさん」
「ん?」
「私たちの基本基礎は、身についていたでしょうか?」
「結果がすべてですよ、マミヤさん。結果がともなっていない努力は、努力していないと見なされます」
その回答に、ガックリ肩を落としてしまう。
「やっぱり、そうでしたか………」
どれだけ努力したとか述べたところで、結果がどなわなければ、それは努力と認められない。私が現在公務員の席に座っているのは、公務員たるべき努力が足りていたからなのだ。それは結果が証明している。
ならば公務員試験を落ちた者たちは?
公務員たるを得なかった証拠だ。
話を戻そう。
私たちは基本基礎が成っていただろうか?
正直その自信は無い。
いや、基本基礎が成っていたか、という考え事態がおこがましいのではないだろうか? 何をもってして基本基礎が成ったというのか? まったく、自分が恥ずかしくなってしまう。それは若いメンバーたちも同じようで、みんなうつむいてしまっている。
「さあ、落ち込むだけ落ち込んだら、次は浮かび上がる話題だよ」
ジャックは話を切り替えた。
「厳冬期イベントに、陸奥屋総員で参加しようって話が出てるんだ」
「厳冬期イベント?」
簡単に言うと、大規模な東西戦が開催されるという。参加者のレベルは東西振り分けの目安にするだけで、どんな強豪と当たるかわからないというものらしい。
「我々は三〇人一組の集団として、エントリーを考えている。どうだい、やってみないかい?」
「どんなものなんですか、それ?」
「合戦だよ、もう大乱闘と言ってもいいかもね。高レベルのプレイヤーでも、油断をすれば囲まれてタコ殴りにされて撤退、なんてこともよくあるんだ」
そこに三〇人組として乗り込む、というのだ。
「どうする?」
みんなに問いかける。
「いや、意思確認なんて無粋なだけだね」
そう、マヨウンジャーメンバーは、全員瞳を輝かせていたのだ。
「期間は来週の金土日曜日。二〇時から二一時までの一時間ずつ。戦闘で勝利するたびに領地が増えていって、日曜日の終了時点でどちらの陣営が多くの領地を獲得したか、で勝敗が決まるんだ」
ここで、前回イベント時の動画を見せてくれる。
広い草原に飛び交う魔法。それもかなりの範囲魔法だ。その中のかいくぐるようにして、戦士たちが駆け抜ける。剣士に斬られ槍師に突かれる魔法使いたち。しかし戦士たちも無事では済まない。至近距離からの初級魔法で動きを封じられ、集中攻撃を浴びて撤退する。
ジャックの言うように、合戦であり大乱闘であった。
「これは………なんとも、こう………」
「血わき肉おどる、だろ?」
たまらない。
疑似体験の空間で、ケガや死亡の心配なく、こんな合戦が「楽しめる」なんて………。
「もういい年なはずなのに、少年心が呼び覚まされますね」
「大人は少年に還る。子供たちは集団行動から、大人になる術を学ぶ。というか、純粋に面白そうなだけなんだけどね」
私は公務員。
私は大人。
良識や常識を第一に考えてきた凡人なのだが、そんな私にも子供心が残っていたとは。
「参加させていただきます、ジャックさん」
「そう来なくっちゃね」
となると問題は、対魔法対策である。早急になんとかしなくてはならない。
御来場いただき、まことにありがとうございます。