私、足元をすくわれる
バンザイ三唱。
私たちは闘技場ロビーであるにも関わらず、思わずはしゃいでしまった。なにしろ我々レベル3のギルドが、レベル6のギルドに勝ってしまったのだ。
運営からも、金星の勲章が与えられた。大物食いに与えられる勲章だが、普通はもっと上のレベルで発生するものらしい。レベル3では、あまり無い話だそうだ。
「おめでとうございます、マミヤさん」
「やあ、リンダ。ありがとう」
受付の有能な美人、リンダも祝福してくれた。
「でもね、マミヤさん?」
「なんだろう?」
「レベル3で魔法の圧縮技なんて、使わないでくださいっ!」
え? なんでなんで?
「普通のプレイヤーは火の玉なら火の玉、礫は礫としてしか使えないんだからっ! あんまり無敵魔法を作り出さないのっ!」
「いや、私たちも稽古と研鑽の日々において開発したものだから………」
「まあ、今回は上位グループが相手だったから見逃すけど、あまり強く無さそうな対戦相手には使わないで欲しいのよ」
そう、あまりに圧勝してしまうと、対戦相手が萎えてしまいゲームが過疎化してしまうというのだ。
「大体にしてあんな魔法の使い方、どこで覚えたんですか!」
腕を組んでぷんすこしているリンダに、カラフルワンダーというギルドのマスター、シャルローネから教わったと答える。
「チッ」
ん? いまチッとか言った?
「またあの娘たち? 今度は増殖しようとか企んでるのかしら?」
小声でブツブツ。
いや、リンダ。カラフルワンダーというのは、増殖する生き物なのかね?
「まあいいわ。マミヤさん、カラフルワンダーの言うことをあまり真に受けてはダメよ? あの娘たちは魔法が好きすぎて、ロクでもない研究をすることを厭わない娘たちなんだから」
だとすると、図書館の知識の大半は、ロクでもない研究の成果ということになる。シャルローネも魔法知識に関しては、図書館に依存しているはずだからだ。
「御忠告、ありがたく頂戴する」
頂戴するが、実行に移すとは、一言も言ってない。何だかんだで圧縮技は、シャルローネからもらった知識で生まれたのだ。彼女と疎遠になることはできない。むしろ先生とか師匠とか呼ばなければならない存在なのだ。
カラフルワンダーに対する義理と、リンダへの人情。
やはり義理が重たいのだ。それが男たちの世界である。ウチのメンバーは女の子ばかりだが。
「本当にもう………マミヤさんは大人なんだから、友達は選んでくださいね?」
うむ、これで「私は陸奥屋とも繋がりがあるのだ」と告白したら、彼女は卒倒しているだろう。もちろんそんな子供心は出さないが………。
しかし、金星は金星。
嬉しいことに違いはない。
「ねねね、マスター? リンダさんはああ言ったけど、この勢いでもう一戦、いかない?」
ホロホロの提案だ。
メンバーの顔を見渡す。
みな戦意旺盛、気力充実という顔だ。
「よし、行くか!」
「もちろん強そうな敵だったら、ね?」
圧縮技だな? もちろんそんな敵には使わせていただく。
「ただし、相手が萎えない程度にね」
ということで、いざ連戦だ!
ブリーフィングルームで入ってくる、敵情報は………と。
「お? これはまた」
「レベル2って、珍しいね?」
「どうやらレベル1を卒業したて、らしいわね」
「ここは大人気のない真似はせず、余裕を見せつけてやとの、神の思し召しかな?」
「メンバー構成もさっきのギルドと同じ、初期のボクたちそっくりですね」
やはりバランスが重要と、みんな考えているのか? そのことに異論をはさむことはしないが、しかしシャルローネとカラフルワンダーを見ていると、特化突出型のおそろしさもまた捨てがたくなる。
何を選び、何を捨てるか? そのチョイスは重要だと、私は思う。
そんなことを考えていたら、銅鑼である。戦闘開始の時間だ。
両陣営ともに接近。
まずは名刺交換の魔法攻撃だが………。
「キャッ!」
コリンが被弾?
「どうした! 調子が悪いのか!」
「ちょっと油断しただけよ………あっ! アンッ!」
またもや被弾、コリンが戦列から遅れをとらされる。
チラリと見た感じでは、何ということもない普通の魔法攻撃。だが、コリンの対処が良くない。集中力を欠いているというか、防御がいささか雑になっている。
逆に長距離砲台であるべきホロホロが、アキラと並んで前線を駆けていた。
「ホロホロ、弓矢だ! 長距離攻撃に徹するんだ!」
ホロホロも気がついたようだが、もう遅い。両陣営の前線同士が衝突。敵のアタッカーたちは、ホロホロに攻撃を集中。これを撤退させた。
アキラが猛然と拳を振るうが、敵は複数でラン&ショット。決して無理をしない。
「あっあっアンッ!」
可愛らしい悲鳴をあげて、コリンも魔法攻撃に沈んだ。
「もう2キルもとられたのか!」
なんとかアキラがカウンターを決めて、こちらが1キルを奪う。しかし今度はモモに魔法攻撃が集まった。アタッカーたちまで足を止めて、魔法を撃ってくる。こちらもチラリと見たのだが、攻撃方法が丁寧である。撃つべき射手が撃って、翻弄する役が駆け回る。役割分担が、実によく出来ていた。
私とベルキラも前線に到着。必死にポイントの奪還をねらうが、良い攻撃を当てても魔法攻撃により邪魔をされて、追撃がままならない。
そしてコリンが前線に復帰すると、ふたたびこれを狙ってくるということで、我々は主導権を取ることなく6対3で敗れてしまった………。
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