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斬岩ダイン視点・終わらない世界


 そしてこの危機的状況に、もっとも口を開いてはならない奴が、口を開いてくれやがりました。

「まあ、ホロホロさん。そのカラフルワンダーの斬岩という方は、そんなに外道な方ですの?」

 こら、出雲鏡花。純心なホロホロさんを煽るんじゃねーよ。

「あ、鏡花さんは知りませんか。殺しの斬岩、千人斬りの外道。殺人機械の斬岩を」

 乗ったーーっ! ホロホロさん、見事に乗ってくださいました! おめでとうございます! ありがとうございます!

 ってか千人斬りとか殺人機械とか、それって何さ? どこの世界軸の斬岩さ?

「あら、そんなに鬼畜外道、ゲスの極みですの? その斬岩という輩は?」

 おう、デコ助。増えてっぞ。斬岩を貶める呼び名が、シレッと増えてっぞコラ。

「それはもう、鏡花さん。聞いてくださいますか?」

「えぇ、どのようなお話でも」

「なんでもカラフルワンダーの斬岩という悪魔は、血も涙もないような冷血動物だそうで。魔法を使って相手を痛めつけるのは、ゲームだから当然のこととしても、遣り口がかなり酷いらしいんです!」

 ここでホロホロさん、鼻息をフンス!

「足元に石ころを発生させて、つまずき転んだところに鋭利な岩が待っているのは当たり前」

 うんうん、確かにそういうことはよくやるよ。

「だけどダメージに耐えて立ち上がろうしたところ、岩を槍が足を串刺し。動けないところへ左右から巨岩が迫ってきて、ゆっくりと時間をかけてすり潰すそうですよ?」

 あの、ホロホロさん。時間をかけてって、ものすごく無駄だと思いませんか?

「なんと恐ろしい。おそらくその斬岩、すり潰されるプレイヤーを眺めながら、嫌らしく笑っているのではありませんこと?」

 ヘイ、デコ助! 貴様斬岩をどんなキャラに育てたいのさ!

「それが鏡花さん、斬岩は作業でもするみたいに、冷たい目で眺めてるらしいですよ………」

 育ってた? もうすでに斬岩キャラ、育ってたの?

「まるで人体実験みたいですわね、おぞましい………」

「人体実験と言えば、鏡花さん。斬岩の非道は闘技場だけじゃないらしいですよ?」

 ちょっと! なにもしてないから! 斬岩君はなにも悪いことしてないからね?

「街ゆく美女、美少女に言葉巧みに近づき、騙すようにして悪魔の工房へ誘い込み、蝋人形にしてしまうとか………」

 いや、違うから! それはクラフトスキルのイベントで、シャルローネさんにモデルを頼んでフィギュア造っただけだから!

「身の毛もよだつ悪魔のコレクションですわね」

 デコ助! お前わかってて言ってんだろ! 状況のすべてを把握した上で、話に乗っかってんだろ!

 待て待て、斬岩ダイン。ここまで僕は打たれっ放しのツッコミオンリー。少しは火消しに回ろうじゃないか。

「あの、ホロホロさん? さきほどからうかがっていると、すべて伝聞みたいなんだけど。人の噂など、面白半分と申しますし………」

「そうですね、ダインさん。斬岩の実態は、もっと酷いかもしれません!」

 なんでそうなるのっ!

「その通りですわ、ホロホロさん。いまだ露見していない、悪事の数々。これを正すのは迷走戦隊マヨウンジャーと、ホロホロさんしかいらっしゃいませんわ!」

 デコっ! 手前ぇはすっ込んでろよ、デコっ!

「今はまだ手が届かないですけど、泣かされたプレイヤーたちの涙を背負って、いつか江戸の黒豹ホロホロが悪漢ギルドを懲らしめてやるんだから!」

「その意気ですわ、ホロホロさん!」

 すみません、もうツッコミ疲れました。だけどこれだけは確認させてください。

「………そこまで意気込むからには、ホロホロさん。斬岩に対する秘策も万全と思われますが」

「あ、わかりますか、ダインさん! 一応対魔法革防具と、身代わりペンダントを準備したんですよ!」

 うん、あの役に立たない革防具ね。それと身代わりペンダントか………。確かこちらも、マヨウンジャーレベルの作製するものは、紙防御程度だと思ったけど………。

 するとホロホロさん、ポリポリ髪を掻きながら。

「だけどマジックマッシュルームごときを相手に、ほぼ一発で突発されちゃって。まだまだ研究が必要ですよね?」

 いや、だがしかし。

 対魔法革防具を作製したということは、いずれリングやマントを作り出す可能性がある、ということで………。

 シャルローネさん、もしかしたら貴女の『引き』って最高かもしれません。この迷走戦隊マヨウンジャー、僕の予想以上に成長株かもしれません。

『歩みを止めなければ、君も天に届くくらい、成長できるんだよ』

 いつか貴女は、どんくさい僕に、そう言ってくれましたよね?

 シャルローネさん、貴女は人の可能性を信じる人。今はその眼差しを、ドン亀のように泥沼の中でノタ打つ、マヨウンジャーに注いでいるんですね。

「ホロホロさん?」

「はい?」

「例え今は失敗だとしても、歩みを止めないことです。歩みを止めなければ、きっと君は天にも届くから」


「それではこの辺りで、お互いにフレンド登録されてはいかがでしょうか?」

 出雲鏡花の割には、爽やかな提案をしてくれた。

「じゃあ、男の僕からフレンド申請しますね」

「あ、いえいえ。私の方から申請します」

「そうですわね、世間ではレディファーストと申しますわ。もちろんダインさん、断ることはありませんわよね?」

「もちろん!」

 ということで、ホロホロさんからフレンド申請。迷走戦隊マヨウンジャーのホロホロから、フレンド申請がありましたと、メールが届く。それに応じる形で返信。これでフレンド登録は終了。

 ホロホロさんは、新しい繋がりにほくほく顔で帰路についた。

 嵐が過ぎ去ったような気分で、葵さんのお茶を、もう一服。

「………で、お嬢さま。なんでこんなことになったのよ?」

 出雲鏡花も、茶を一服。

「ホロホロさんがお見えになったのは、アクシデントですわ」

「そうじゃない、最後のフレンド登録だ」

「あら、わかりませんの?」

 出雲鏡花は言う。

 ホロホロさんは斬岩を忌み嫌っている。その斬岩とは、ダインである自分。斬岩の悪口を散々たれ流しておいて、当の本人とフレンド登録をしたとなれば………。

「はいぃい~~っ? えっ? ちょ、ちょっと~~っ!」

 茶房葵の出口、表通りからホロホロさんの悲鳴が聞こえてくる。目をやると、扉の向こうで頭を抱えているホロホロさんが、シルエットで浮かんでいた。

 僕に送られた申請はすぐにメールを開くから、ギルド名とプレイヤーネームを確認できる。だけど了承を受けた側は、メールを後で開くことになる。もちろんその場ですぐにメールを開くような、不躾な真似をホロホロさんはしなかった。

 出雲鏡花は微笑む。

「楽しい座談会になりましたわね」

「それはお前だけだろ」

「思いの外、有意義なインになりましたわ」


 今いまし、昔いまし。

 やがて来るべき全能なる者曰く。

 勇者よ挑め、商人に。

 賢者よ避けよ、商人を。

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