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私、白星を得る


 視界が戻ると、復活までのカウントダウンが目に入った。どうやら十五秒のロスタイムを与えられるようだ。

 その間、鼻水をたらして待っているしかないのか?

 答えは「否」である。

 実を言うと目の前には、得点表があるのだ。これがリアルタイムで状況を伝えてくれているらしく、得点の項目で数字が細かく動いている。

 例えばアキラの得点が、連続しているがチビチビと増えている。これは誰かを足止めしている最中、ということになる。

 ベルキラの得点は、一回ずつしか上昇しないが、その数字は大きい。

 あ、ホロホロの数字、ゼロだった項目が「1」カウントされた。

 撤退の項目である。

 どうやらこの「撤退部屋」で、仲良く間抜けな顔をつき合わせることになりそうだ。

 ………………。

 来ない。

 ホロホロは姿を現さない。

 となると、撤退部屋で他プレイヤーと顔を合わせることは無いということになる。

 それもそうだ、ここは撤退の後に待機する場所であって、ブリーフィングルームではないのだ。

 となると、まず確認しておかなければならないのは、撤退の数である。

 我々はコリン、私、ホロホロが撤退。敵は三点を獲得している。

 敵はアタッカーの二人、ドワーフが二人。さらに今、スナイパーの魔法使いが撤退。合計で五点を獲得という状況。

 となると、アキラとベルキラの二人がどれだけ持ちこたえるか?

 あるいは二人とも撤退させられること前提で考えて、それまでの間にどれだけ得点できるか?

 そのあたりが勝敗の行方をにぎるカギとなるだろう。

 とりあえず、インターバルは終了。現場復帰だ。


 現場に戻ってみると、意外なほど近くで戦闘が繰り広げられていた。

 私の撤退直前、ホロホロが後退を指示していたが、なるほどと思う。

 あまり前線を押し上げてしまうと、撤退者が復帰、戦場まで到着するのに時間をロスしてしまう。

 しかもそのロスタイムの間、味方は少ない人数で闘わなければならない。場合によっては、各個撃破されてしまう。

 それを防止するために、前線を引き下げているのだ。

 これは考えたものだ。

 実際、状況を眺めてみると、敵はヒーラーが単独。こちらはそれを四人掛かりで痛めつけている。

 そして敵のアタッカー………槍使い二人が、救助のためえっちらおっちらと、走ってきているところだ。

 ならば私の仕事は?

 走ってくる槍使い二人のうち、片方を足止めすることだ。

 一挙大量な敵の増援を許してはならない。

 ということで、私は迂回しながら槍使いたちに近づいてゆく。

 お? 敵のヒーラーが撤退したようだ。

 同時にベルキラたち四人も、戦線を退かせる。

 状況を把握している。

 思わず感心してしまった。

 声が届いた。

「御武運を」

 ベルキラの声だ。

 通常ならば声の届く距離ではない。さすがゲームである。

「しっかり仕事して来なさいよ!」

 デコリンの言葉は厳しい。

「もうすぐホロホロさんも復帰しますから、無理しないでくださいね!」

 アキラの声に手を振る。

「ちょっとアンタ! 通信の仕方、知らないのっ?」

 ほう、通信を使えば声が届くのか? しかしそんなものを使っている暇は無い。

 すでに槍使い二人は私のことを発見したか、こちらに進路を変えていた。

 魔法準備。これもやつらに見えているだろう。先に立った槍使いが、微妙な反応をみせた。

 ならば後者、こちらは迷いなく走ってきている。

 しかし私も進路変更だ。

 ベルキラたちの方へ逃走する。後ろを振り向くと、槍使いたちも蛇行しながら追いかけてくる。

 ベルキラが回復魔法を施されているのが見えた。

 ホロホロも復帰した。

 そろそろ頃合いのようだ。

 クルリと振り返って、火の玉を放つ。不意討ちになったようだ。後者の槍使いに直撃。足止め効果に加え、体力を大きく削り落とした。

「ナイスショット!」

 ホロホロの声、そして火の玉に青く焼かれる槍使いに、魔法の矢が突き立った。

 が、私も先に立つ槍使いに、ブスブスと突かれてしまう。魔法の後は無防備になるのだ。

 味方が駆け寄ってくる。ベルキラが先頭だ。

 が、私の救援ではない。魔法で焼かれ矢に射られた槍使いに、とどめを刺すためだった。

 撤退ポイントの優勢を確保するためなのだろう。

 うむ、よく理解できる。

 理解できるのだがしかし、私のことも救い出してはもらえないだろうか? さきほどからいいように「言わされて」、私のピンチも大概なのだが。

 と、私を救ってくれたのは、アキラだった。

 私を痛めつけるのに夢中だった槍使い、これの背後からワン・ツー・スリーと、連打を浴びせてくれた。

「さ、ファイン・プレーのマミヤさん。モモさんに回復魔法を施してもらって」

 ホロホロの言葉が身にしみる。その言葉に甘えさせてもらうか。

「ですがマミヤさん?」

 甘ったるい、ベタベタした声。我らが桃色メイド、ヒーラーのモモだ。

「私はさきほど、ベルキラさんに回復魔法を使ってしまいましたから、しばらく回復させられませ~~ん♪」

 使えねぇな、ウチのヒーラーはよ! いや、これは私の確認が甘かったのであって、彼女が悪い訳ではない。悪い訳ではないのだが、おそらく相性は極悪なのだろうと思う。

「さてさて! 足止めならびに各個撃破の甲斐あって、敵軍は縦長隊列! これに疑問もなく突っ込んで来てくれます!」

 ホロホロが場を仕切る。

 というか、私の回復がままならない事実を誤魔化しているようにしか見えないが………。

「残り時間が少ないからここは撤退の数を少なくして、チームの勝ち星をねらいたいけど。MVPをとりたい人、いるかな?」

 私は一人も撤退させていない。いわばキルをとっていない状態だが、今から奮戦したところでMVPは無理というもの。出来ぬことに労力を費やすよりも、チームの勝ち星の方が断然オイシイ。

 そして他の者たちも、ホロホロの提案に異存は無いようだった。

 誰しも目の前の勝ち星を危機にさらしてまで、MVPは欲しくないようだ。なにしろ私をふくめて、全員このゲームの初心者。まだまだ先は長いのだ。

「それじゃあ配置を組み直して、残り時間は軽く流しましょ♪」

 前衛はベルキラをセンターに、左右をアキラとデコ。

 中堅にホロホロ。

 最後尾は回復役のモモと、傷だらけの私。

 私が最後尾に回っているのは、これ以上傷つかないため。

 別の言い方をすれば、回復魔法は前衛の三人のために、温存するということ。

 さらに言うならば、私の回復はしてくれない、という血も涙もない采配である。

 しかし納得だ。

 さきほど申し上げた通り、ここから私が踏ん張ったところで、効果は薄い。

 ならばポイントゲッターに頑張ってもらって、勝ちを不動のものにするのが良策。

 それにしても………。

 全員が初心者のはずなのだが、ホロホロの采配が的確なのは、どういうことか?

 疑問が解けることなく、私は初戦白星という栄誉を授かることになった。

ブックマークありがとうございました。

毎朝八時更新を目指しております。

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