別視点・斬岩ダイン
このシリーズにも、お友達の二次創作がちりばめられております。
いつの時代もどこの世界でも、情報を制する者が世界を制する。そのことに変わりは無い。例えそれが、ゲーム世界であってもだ。
番外編を読み終えた皆さま、ご機嫌いかがでしょうか? カラフルワンダーの良心、斬岩ことダインです。マミヤさんの登場かと思いましたか? 残念でした。
本日は拠点を離れて、独自に活動。あれこれと情報収集するために、『茶房葵』を訪ねようと思っております。
なにしろ諜報活動をシャルローネさんにまかせておいたら、怪しいアイテムの製作方法を引っ張って来たり余所のギルドと逢い引きしたりと、ロクなことしやがらねぇ………もとい、おかしなことをしてくれたりするからです。
まったく、いつの世でも真面目で誠実で正直な人間が、先頭になって働かなければならないものなんですよね。
もっともウチのシャルローネさん。不真面目な訳でも不誠実な訳でもありません。ヘンテコなものを『引く』能力に、長けているだけでして。いわゆる『持ってる』人間とでも申しましょうか? とにかく彼女を「使役しよう」などと考えてはいけないと、カラフルワンダーに所属してから実感するようになりました。
そう、ある意味彼女は超人なんです。僕たち凡人の想像の、はるか斜め下をゆく超人なんです。だから損得勘定でカラフルワンダーに参加してはいけません。ロクなことにならないでしょう。
さてさて、お目当ての店に到着です。
茶房葵は憩いの場のみならず、紳士淑女の社交場。様々な情報交換の場となっていたりします。
さて今日は、どのような話が聞けるのでしょうか?
戸を開けてみましょう。
「いらっしゃいませなのですよ~~♪」
いつものようにウェイトレス役の小さな女の子、歩ちゃんが僕を出迎えてくれます。
「どうぞ、お客様。お席に御案内しますなのですよ」
頼まずとも、相席了承の席を勧めてくれる。僕が何を目的にこの店を訪れているか? それを理解した上での案内です。
そう、相席了承の席というのは相席希望の客同士を、ランダムに組み合わせてくれるサービス。ギルド、レベル、職種、種族の垣根を越えて様々なプレイヤーと情報交換できる。茶房葵ならではのアイデアなのですよ~~♪
………………………………。
げふんげふん、失礼しました。僕としたことが………。
とりあえず席に着き、店主である葵ちゃんが煎れてくれたお茶を一服。
このお店のお茶、もちろん飲んでる感は無いのだけど、香りが素晴らしい。コンピューター言語で組み上げた、嘘の香り情報とはとても思えません。
極上の香りを楽しんでいると、隣の席から聞こえてくる会話。
「観ましたか、マジックマッシュルームとマヨウンジャーの一戦」
「観ましたとも。格下を相手に、マジックマッシュルームもまったくだらしがなかったですなぁ」
ほう、シャルローネさん注目のギルド、迷走戦隊マヨウンジャーに関する噂ですか? というか、話題の中心はマジックマッシュルームのようですが。
もちろん僕もカラフルワンダーの一員として、一戦拝見しました。言いたいこと、訊きたいことは山ほどある一戦でしたが、それを語ればキリがありません。ここは不問に伏すことにしましょう。隣の卓に聞き耳を立ててみます。
「まぁ、なんと申しましょうか、一言で片付けるならば………ざまぁ! でしたな」
「あのゲス女、ようやくヤラれましたわ」
………ふむ、どうやらアンチ・マジックマッシュルームの方々のようで。というか、アンチ・アイと言った方がよろしいでしょうか?
「取り巻きの男連中も、やたらとウザかったですし」
「なにが『姫』なものやら」
「そうそう、マジックマッシュルームは解散したようですよ?」
「あぁ、やっぱり」
「なんでも『姫w』がインしていないらしいですわ」
おや? 姫がインしていないだけで解散とは、ちょっと早計すぎやしませんか?
「それからの話は崩壊が早すぎて、まさに草生えるという状態とか」
「まさしく、ざまぁ! ですな」
ちょっと確認してみましょう。ギルドの解散にはギルドマスターの承認が必要なはずです。あのアイとかいう娘、とてもではありませんがその手の後始末を、キッチリできるタイプには見えません。
ギルド検索をかけてと………あぁ、やはりまだありましたね、マジックマッシュルーム。もっとも、ここ三日ばかり誰もインしてませんが。アイという娘に関しては、四日インしてません。解散してはいませんが、事実上の崩壊と見ても良いでしょう。
それからしばし、隣の卓はマジックマッシュルームの悪口………というかアイの悪口に終始。
………う~~ん、興味ないんでしょうか、あの一戦で魔族の魔法使いが使った、あの謎スキル。というか毛皮のマント。姿を消したり謎の少女が現れたり、ツッコミ所が満載だったじゃないですか?
僕が対戦相手なら、きっと叫んでますよ?
ふざけるなっ! て。
事実、あの一戦以降あれこれと調べてみましたが、魔族の魔法使い………たしかマミヤさん………の謎に関して、何も得られていません。
っていうか本当に、みなさんマジックマッシュルームのことが嫌いだったんですねぇ。
ですが、それで話を終わらせる訳にはいきません。
なにしろあのマミヤ氏。彼の私用していた毛皮のマント。あのマントこそ………。
ある日のことでした。
拠点でドグマグ動画のチェックに励んでいたところ、我らがマスターであるシャルローネさんが、「収穫あり!」って顔で帰って来ました。
「ねぇ、斬岩。これ、作ってみない?」
そう言って差し出してきたのは、一枚の走り書き。僕はドワーフでクラフトスキルを所持しているから、物造りで僕に声をかけるのは正しいことなんだけど。
「シャルローネさん。言っちゃ悪いですけど、コレは使い物になりませんよ?」
走り書きには、対魔法革防具の作製方法が書かれていた。正直に言うとこの防具、初心者のペーペーには有難がられるけど、僕らレベルでは話にならない代物。何故にこんなものを今さら作れ、というものやら。僕には理解できない物でした。
ただ、こんなものが存在するとは僕も知らなかった、というだけのこと。
「そう来ると思ったわ♪ そこでシャルローネさんの一手! じゃじゃ~~ん♪」
もう一枚、走り書き。
そこに書かれていたのは、対魔法マントと対魔法リング………つまり、指環の作り方。
「ねねね、これなら斬岩の食指も動くんじゃない?」
胴体しか守ってくれない防具より、全身を包むマント。魔力を秘めている指環もまた、全身を守ってくれる。
「これは………面白そうですね」
「でしょでしょでしょ?」
対魔法マントと対魔法リング。このふたつのアイテムを作製するには、対魔法革防具作製のスキルが必要なのだとか。
ついでに言うとこの革防具。作製方法は図書館で調べるしか無いそうです。ですが図書館は十八禁サービスのおかげで、叡智の殿堂ならぬエッチの殿堂状態。その影響で対魔法革防具の作製方法は知られておらず、当然リングやマントを作製できる者もいないらしいです。
ということで、あのマミヤ氏のマントに、僕は強く惹かれている。作製方法、あるいは入手方法。その効果と手入れをした場合の成長過程。
なんとかして、あのマントの秘密を探れないか? それが目下の課題なんです。
ちなみに試作品のマント。蒼帝さんがいたく気に入ってくれたのですが、攻撃魔法ばかりでなく回復魔法まで弾いてしまう失敗作。高値をふっかけて魔法道具商の『出雲商会』に売りつけてやりました。
続きますよ。