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番外編~逢い引き

続きです。


 彼女は上品に、そして大人のしぐさを意識しているかのように笑った。

「それほど大袈裟なものではありませんよ? お話の内容は、ごくごく基本的なことに過ぎませんから」

 何かを手渡そうとしてくれているのか? 表情から、そのように感じとれる。

 しかし逆に言えばこの魔法談義で、私の魔法に対する理解度や認識度を推し測ることができる。彼女にもメリットはあるということだ。

 こちらの力量を代金に、新たな知識を得る。

 それだけの価値はありそうだ。

 ならば、ここは私からも一手。

「何事においても基本基礎というのは、重要なものです。それが新たな知識ならば、なおさらですね」

「さすがマミヤさん」

 彼女の笑みに、邪気は無かった。

「ではマミヤさんは、疑問に思われたことはありませんか? 例えばそう、チームメイトの槍師さんがレベルを上げたら、陸奥屋一乃組のジャックさんと同じ槍を振るえるのか、と」

「いや、それは無いだろう。ジャックさんは達人だ。レベルを上げた数値を上げた程度で、追いつけるものでは無い」

「何を根拠にでしょう?」

「練度が違う」

「練度とは何でしょうか?」

 ん? 練度とは練度でしかないのだろうが、そんな簡単な答えを求めるシャルローネではないはずだ。

 では、どのような回答を期待しているのか?

 わからない。

 わからないなら質問するしか無い。

「答えに滞りが出ましたね。では質問を変えましょう。ジャックさんが達人となるために、どのような鍛練をされたのでしょうか?」

「想像もできませんね。私は達人ではありませんから」

「そこは想像で。なんでしたら、マミヤさんが達人となるために、どのような鍛練をするか? それを考察されても構いません」

 私が達人に?

 私がジャックさんと、肩を並べるような存在を目指す?

 ますます難しい質問だが、シャルローネの眼差しは真剣だ。逃げる訳にはいかない。

 ならば………。

 まずは稽古。それを外すことはできない。しかし稽古は誰でもする。百人いれば百人とも、同じように稽古する。その中から、ひとつ頭抜きん出なければならないのだ。少なくとも、シャルローネはそういう回答を求めている。

 だとすれば、人が寝ている間も稽古するか?

 昭和の野球選手に、人の三倍努力して一番になると決意して、背番号31を背負った者がいたと聞いたことがある。そのくらいの不退転の気持ちが必要なのか?

 いや、努力は当たり前。彼女が聞きたいのは、努力に実を結ばせるための工夫だ。きっとそうに違いない。

「………私なら、どのように工夫するか」

「そうです、工夫です!」

「工夫を聞きたいというのは、努力はみんながするというのが、前提なんですよね?」

「はい! 努力するのは当たり前ですから♪」

 やはりそうか。ならば回答は、ますます難しくなるぞ。普段の稽古に一手加える。努力する人々を出し抜く方法………。それを成し遂げて来たジャックは、何をして来たのか? どのような稽古を積み重ねて来たのか? いや、おそらく彼が稽古して来たであろう昭和という時代は、どのようなものであったのか? そこに思いを馳せる必要がある。

 ………昭和。

 私たちにとっては、遠い過去の時代だ。

 今ではまったく考えられないことだが、日本人が日本人であることを恥としなければならない時代だったらしい。

 日本人は猿まねが得意で、自分では何も発明出来ないクセに、他人の発明品をバラしては手先の器用さで、より良い物を作る恥ずかしい民族とされていたらしい。

 自分の意見を持たず他人の顔色をうかがい、責任回避と事なかれ主義を旨として、そのくせ島国根性は一人前とされていた時代だったらしい。

 それが事もあろうか、学校授業で堂々と教えられていたそうだ。

 それは何故か?

 先人が命を賭けて戦った戦争に、負けたからだ。

 皇国万歳を高らかに謳っていた、教育者と新聞社は手のひらを返したように、かつての英雄を罵倒した。猛き者、勇ましき者を愚弄した。

 その恥辱に耐えて生き延びた、戦場で実際に刀剣を振るって闘った者たちの生き残りが、ジャックを教え導き鍛え上げたのだ。

 だからジャックの稽古には、戦場が存在する。

 生々しく血を流し、肉と脂の臭いあふれる戦場がある。

 そして稽古の最中は、ジャック自身そこに立っているのだと思う。

 剣士という人種の、独特な体臭を放って、銃砲なにするものぞと血刀を提げているのだ。

 だからジャックには、迫力がある。

 とすれば、私が彼に追いつくには………。

「………イメージの力が、必要かな?」

 敵は自分を殺しに来る。

 だから私は地球上にたったひとつしかない、私の命を守るために剣を振るう。

 そういった稽古が、必要なのではないか?

「おぉう、そこまで飛んじゃいましたか」

 シャルローネは、あきれたように口を開いた。

「そうですね、実際に戦うイメージを持って鍛練した方が、良い結果が出ると思います。そしてここが肝心なんですけど、このゲームはイメージを持って振るう剣と持たずに振るう剣に、差が出るんです!」

 なんと?

「VRMMORPGの中でも、ドグラの国のマグラの森では、イメージの力がより如実に反映されるんですよ」

 彼女の言い分は、こうだ。

 プレイヤーがパンチを出すとイメージすれば、アバターがそれをなぞるのがこれまでのゲーム。しかしドグマグは、達人の動作と素人の動作に差をつけた。それがクリティカルという結果に現れている。というのだ。

「ではマミヤさん、達人のイメージと素人のイメージに差が生まれるこのゲーム。魔法に関しては、どうでしょう?」

「自分には魔法が使える、というイメージですか? それは少々難しいのでは。なにしろ魔法は現実で誰も体験していない」

「ですよね? だけど………」

「あっ!」

 思わず声をあげてしまった。

 火、水、砂、風、雷。

 すべて現実に存在するものばかりだ。

 そのことを口にする。

「でしたらマミヤさん、それらをどのようにイメージしますか?」

 例えばシャルローネのツララ攻撃。

「刺したいのなら、尖端をとがらせて。鈍器のように使いたいなら、鋭さを欠いて鈍器のように………」

 彼女は満足そうにうなずく。

「ですがマミヤさん。今日この場で私が語ったことなんて、みんなが知ってる初歩中の初歩。このイメージの力でごり押ししたら、ゲーム世界が変わるかもしれないんですよ?」

 まさか、と思ったが否定はできない。なにしろウチの大将の言葉が、理想郷を目指そう、なのだから。

あろうことか、まだ続きます。おそるべし、番外編………。

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