超番外編~逢瀬
御存知、お友達の二次創作をアレンジしたものです。
ボルサリーノを頭に乗せているが、別にお忍びという訳ではない。ちょっとしたおしゃれというやつだ。
おしゃれというならば英国風ファッションで、新品のコートをわざと汚して着る、と耳にしたことがある。それを職場の女子職員に話したところ、「それは貧乏なクセに気位の高いイギリス人が、ボロなコートをおしゃれに見せるための見栄ですよ」と笑われたことがある。
私のファッションセンスは、あまりいただけないもののようだ。だから今日は、ボルサリーノに頑張ってもらおうと思ったのだ。
ちなみに、今日のマントは裏地が赤いものを着用している。私なりのおしゃれ、というやつだ。もちろんこのセンスに、自信などあるはずは無い。
おしゃれに気を使うのには、理由がある。
今日は女性に会うからだ。
数々のバトルで報酬として手に入れた、ゲーム内通貨であるコインをはたいて、可能な限り上等な生地のスーツを入手し、いつものマントをカスタマイズしたのだ。
気分だけは、イタリアの伊達男。少しだけ歩き方も、粋に見えるよう心掛けてしまう。
そんな欧米ファッションの私が訪れるのは、『茶房葵』。異世界ファンタジーな世界観にあって、断固として和風を貫く男前精神あふれる一軒だ。
「いらっしゃいませなのですよ~~♪」
語尾が独特な娘が、私を出迎えてくれる。
私が名乗ると、娘は奥座敷に案内してくれた。私の来店を告げて、娘は襖を開けた。
畳の間、奥座敷の床の間である。そこに正座をして、異世界ファンタジーの女性が待っていた。なかなかシュールな絵面であることは、言うまでもない。
女性といっても、まだ少女の域を出てはいない。その魔法少女・ちょっぴり大人に、頭をさげる。
「お招きいただき、ありがとうございます。迷走戦隊マヨウンジャー主、マミヤです」
あまり堅苦しい挨拶だっただろうか。少女は小さく口を開けて、私の顔を見ている。
「こ、こちらこそ、お時間を割いて応じていただき、まことにありがとうございました。魔道繚乱カラフルワンダー主、シャルローネです」
「さて、早急ではございますが、今日は一体どのような御用件で?」
マントを脱いで傍らへ。そしてボルサリーノもマントの上に置く。異世界コンロに異世界やかんをかけた蒸気をかけて、丁寧にツバの型を作ったボルサリーノだ。扱いもまた丁寧に、である。
シャルローネは神妙な面持ちで、打ち明けるように言う。
「はい、先日のマジックマッシュルームとの対戦。原因は私にあると思いまして、お詫び申し上げようと」
「お詫びですか? ………その必要を、私は感じませんが。もちろんウチのメンバーも、同じ意見だと思います」
「とは仰っても、事の発端は私ですから」
確かに。事の発端がお前にあると難癖をつければ、つけることもできよう。だがそれは、ただの難癖に過ぎない。つまり口にしたところで、誰も幸せにならない不幸の呪文だ。
それに………。
「お手をお上げください、シャルローネさん。あの一戦はアイとか言う娘が、我々を格下などと見下した時点で………」
いけない。
感情が込み上げてしまう。
冷静に、あくまでも冷静に振る舞うのだぞ、私。
「我々を格下などと見下した時点で、あの一戦は私たちのものになったのですから」
だから貴女には、一切の責が無い。そう言ってこの話を締めた。
「お気遣いありがとうございます。そうなると今回の会席はこれで御開きとなってしまいますが………それでは少し、寂しいとは思いませんか?」
なぬ! なんだその哀愁のこもった眼差しは! しかも上目遣い? 上目遣いだとっ! 高鳴る胸の鼓動を押さえつけ、極めて紳士的な姿勢をどうにかキープする。
「シャルローネさん、大人をからかうのは感心しませんね」
すると彼女は、「ほえ?」という顔で「あれ? 割りと効果有り? ………んな訳ないわよね」とか、心の声をダダ漏れにしていた。
私は大人。
私は紳士である。
その声は聞かなかったことにする。
すると彼女は、場を仕切り直すように咳払いゲフンゲフン。
「ではマミヤさん、ここからは同じ魔法使い職種同士。忌憚なく魔法談義などというのは、いかがでしょう?」
「よろしいのですか? 私にとってそちらの見識は、値千金の価値ある物。翻って申し上げるなら、私の見識は貴女方が、とうに過ぎ去った道程に過ぎませんよ?」
なんと、続きます!