私、決着する。
人数の上では敵六に対しこちらは五。一応不利ではある。しかしあちらのアイという娘は戦闘に参加しない。ということで数は同数。しかしこちらには、いつでも召喚できるたぬきがいる。数と奇策の上で有利だ。
おそらくマジックマッシュルームも、警戒しているだろう。にらみ合いの膠着状態になるだろう。
と思ったが。
「魔法、来ますっ!」
アキラだ。確かに呪文の詠唱を始めている。それも長距離魔法の使い手がだ。
ちょっと呆れてしまう。君たちは敵が手も足も届かない場所から、魔法を大量にブッ放してこそモノになるのだろうが。それがこの至近距離。少し駆ければ打撃の届く距離。魔法ならばさらに、だ。
つまり彼らは………。
「魔法は三人からよ! マミヤ、やってやりなさいっ!」
つまり彼らは、魔法の使い方を理解していない。もっとストレートに言うならば、考え無しに魔法を使っているということだ。
私も新しい魔法の準備をする。あえて描写はしていなかったが、新しい魔法を使えるようになった者はすべて、魔法屋で呪文を購入してあった。
さあ、魔法が飛んで来たぞ! まずはよく見ろ。そして自分に届く順番を、きっちり見極めるんだ。
敵からの魔法を、ひとつひとつ丁寧にかわしてゆく。その上でジリジリと敵陣に近づいてゆく。
が、アキラが私の前に出た。水の鞭を振るう。
敵の範囲魔法使いが、二人足止めされた。
いつの間に近づいてきたのか。正直、肝の冷える思いだった。しかし冷静を装いなおも足を進めてゆく。
範囲魔法使いたちは、さらにホロホロの矢を受ける。そこへコリンとモモが突入した。槍技、双龍尾。さらにダブルのモーニングスターが乱れ撃ち。コリンの電撃魔法から、アキラの拳がうなる。
範囲魔法使いたちは、完全に足止めされていた。ここまで御膳立てされて、失敗しましたとは言えない。私も慎重に、かつ大胆に敵へと近づいた。
そして射程距離。
「我が声に応えすべてを焼き尽くす力を与えたまえ」
詠唱は、残りあと少し。
「出よ、炎の柱っ!」
ステッキの玉飾りから炎が吹き出る。左端の敵へと炎が伸びた。顔面からボディ、そして左脚を燃やす。
敵の全身が燃え上がった。体力が削られる。
私はステッキを真ん中の敵に向けた。こちらも燃え上がる。しかしこれで、炎の柱は焼失した。
「バカが! 調子に乗ったな!」
残った敵が、私をねらう。
しかし慌てることはない。私は八畳敷をかぶった。ステルス効果のある、隠れ蓑だ。突如姿を消した私に、敵も混乱している。その隙に背後へ回り込む。八畳敷を解いて、指環を外した。
「いくぞ、たぬき!」
「合点だーーっ!」
二人掛かりで殴りつけてやる。
いまだにポイント差は一点。終盤戦で私たちは、まだキルを獲得していない。が、アキラの拳で範囲魔法使いを一人退治。ここで同点。さらにモモとコリンで、もう一人。
ついに逆転だ。
私とたぬきは殴りつけた敵に大ダメージを与える。だが炎の柱で燃やした敵がカムバック。私を痛めつけてくれた。
最早これまでか………。たぬきを呼び戻し、八畳敷でダメージを軽減するが、私の体力は削られる一方だ。
「マスター! 受け取ってくださいっ!」
モモの声がした。
体力がよみがえる。
ヒーラーの回復魔法だ。
これで私は、まだ少し闘える!
しかしここでまた、意外な展開が。残る長距離魔法使いたちに、アキラたちが襲いかかったのだ。
キル、キル、そしてまたキル。ポイント差は広がるばかりだ。
ならば私がねらうのは、ただ一人である。
私はアイの前に立った。
「………残る試合時間は、あと少しだ」
アイに語りかける。もう、仲間の復活は見込めない。
「どうする?」
アイは少女らしくない形で、顔を醜く歪める。
「なによ! なによアンタたちっ! 格下のクセに私たちをボコるなんて、ありえないわよ! ひょっとしてアンタら、不正してんじゃないのっ!」
「他人を不正と疑うのは、自分が不正をはたらいているからだ。何故なら不正をしない人間には、不正をしようという発想が無い。不正をする者には、不正をするという発想があるからだ。ならば貴女は、どちらですか?」
「なに訳わからないこと言ってんのよ! もしかして勝者の余裕? すごく偉いわね、たかがゲームごときで! あぁ、偉い偉い!」
さまざまな感情が、私の胸を去来した。いや、私などどうでもいい。心の処理の方法は、すでに心得ている。むしろ娘たちだ。
コリン、アキラ、モモ。いずれも悲痛な面持ちである。ケアしてやらなければならないだろう。
だがしかし、私たちにはやるべき仕事がある。
「覚悟はできてるな?」
「勝手にしなさいよ! どうせ新しいゲームを落とせばいいだけの話なんだか………」
みなまで言わせない。
私たちは、持てる技のすべてを尽くして、アイを葬った。
終戦の銅鑼が鳴る。
闘技場は歓声に包まれた。
だが私の胸には、虚しさだけが吹き抜けていた。
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