私、先制点を許す
開幕まで秒読み段階。私たちは闘技場の砂の上にあった。
観客が多い。さすが公開バトルである。歓声が空から降ってくるのは、なかなか体験できないことだ。
銅鑼が鳴る! 歓声は怒涛のように闘技場を揺らした。
マヨウンジャーは駆け出す。同時に私は動作入力で火の玉を準備した。
が、マジックマッシュルームの長距離魔法が飛来する。さすが魔法特化ギルドを称するだけのことはある。
早い。そして弾数も多い。火の玉、礫、そして水弾。いや、スナイパーは三人しかいないのに、さらに雷撃に氷柱と種類も豊富だ。
「長距離魔法、頭上! ねらいは………モモちゃん!」
ホロホロが叫んだ。ヒーラーのモモから、先に潰して来るつもりらしい。
なんの、この程度の魔法。所詮は初級魔法に過ぎぬ。私たちのフットワークを甘く見るな。と思ったが、初級魔法だからこそ、次々と撃ち込んでくる。至近弾がモモを足止めし、ついに一発がモモをとらえる。
「キャッ!」
対魔法革防具に当たったので、ダメージは軽い。しかしわずかながら効力は浸透、モモの足を止める。そこへ二発目三発目。わずかなダメージだが、連続して浴びると動きは完全に止まる。
しかも………。
「あっ! あぁっ! あんっ!」
ついに偶然の一発が、モモの頭部を直撃! さらに顔面!
両脚を棒のように伸ばしたモモは、ゆっくりと後ろに倒れていった。
モモ、撤退。マジックマッシュルームに1ポイントが入る。
「足を止めないで! 次が来るよ!」
ホロホロが励ましてくれるが、そのホロホロが足を止めなくてはならない。弓を走りながら射ることは、できないからだ。ショット&ラン、ラン&ショットを心掛けてはいるが、残りの体力は少ない。先程から一定のリズムで、魔法を撃ち込まれているのだ。
私としてはもう一人の標的として、囮になってでもホロホロの負担を減らしたい。しかし開幕以来チョロチョロうるさい、範囲魔法の二人を近づけないように、火の玉を撃つので精一杯であった。
モモ、復活。
しかしタイミングを合わせるように、ホロホロが屈した。
これで2ポイント目。点差は広がる一方。しかも、モモが撤退した時と同じ人数差。いや、前衛には四人しかいなくなったから、状況は悪くなっている。
「おそらく確固撃破をねらっているのよ!」
コリンが判断した。
ならばどうするか?
近距離の範囲魔法しか使えない二人を、確実に仕止めることだ。
三発の火の玉を、片方の魔法使いに叩き込む。動きが止まった。
そこへコリンの槍! さらにアキラが飛び込む。水弾は温存して、まずはワンツーから返しの左! ふらついたところへ、コリンの槍がダブルで入る。さらにベルキラ、長柄斧の一撃!
どうにかキルをもぎ取る。
が。
「あんっ! あぁっ! あっあっあっ、あーーっ!」
モモの声だ。
せっかく復活したのに、またヤラレてしまった。このままではじり貧だ。得点差が詰まらない。今もまた、敵の範囲魔法術者を撤退寸前にまで追い込んでいるが、復活したホロホロがヤラレたら………。
そのホロホロが復活。
だがキル前とは動きが違う。今回は弓を使わない。ただひたすらに、逃げる逃げる逃げる。徹底的に足を使い、簡単には命中を許さない。私たちがふたつ目のキルを奪った時には、まだフルヘルスという健闘ぶりだった。
初キルを奪った相手も復活。しかしその魔法使いは動かない。仲間の復活を待っているのだ。ウム、こいつは集団での戦闘を心得ている。つまりとても邪魔な奴だ。なんとしても撤退させなければならない。なにしろ今は、敵の長距離魔法がホロホロに集中しているのだ。チャンスは今しか無い。
「ここは突撃だ! 攻めて攻めて攻め抜くぞっ!」
得点は、敵が3にこちらは2。全員で攻め込めば、確実に一人は倒せる。それまでホロホロ、持ちこたえてくれ。祈るような気持ちで、足を励ました。
が、簡単にはいかない。
「キャーーッ!」
長距離魔法の雨は、コリンに矛先を向けてきたのだ。
妖精族のモモ、同じくホロホロ。そして人間のコリン。確実にヘルスというか、耐久力の低そうなところをねらって来ている。
「コリン、私の後ろに隠れろっ!」
私の指示は、少しばかり遅かった。三発連続で顔面に攻撃を浴びたコリンは、朽ち木のように倒れてゆく。
これで4対2。
またポイント差が開く。しかも突撃要員は、私をふくめて三名になってしまっている。
が、キルを取らなければ勝てないのも事実。
「もうひと押し、行くぞっ!」
とはいえ、魔法攻撃が雨アラレである。敵の本陣に、何人たどり着くことができるだろうか………。
御来場いただき、まことにありがとうございました。
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