私たち、出陣する
そして、いよいよ当日。
拠点『下宿館』に、迷走戦隊マヨウンジャーのメンバーは、誰一人欠けることなく集まった。
刻限にはまだ、ずいぶんあるというのにだ。
「みなさん好きですねぇ」
そう言うアキラは、ウォーミングアップのシャドウボクシングに余念が無い。いやそれどころか、すでに汗を散らしていた。
「とか言って、アキラが一番乗りだったじゃない」
「ジンクスみたいなものさ、コリン」
「ジンクス?」
「そう、会場一番乗りのときは、大抵良い成績だったんだ」
ふぅんと言って、コリンも槍をシゴく。アップ無しだが、新技の双龍尾を虚空に繰り出した。私の見立てでは、実に冴えたものだった。
「どうかしら、アキラ。キレてる?」
「キレてはいるけど、アップしたらもっとイケそうだね」
ホロホロはホロホロで、道場に正座。一心に的を見詰めていた。まばたきすらしない。しかし頭の中では、さまざまなシュチュエーションを想定しているのだろう。気配がものすごく鋭い。
ベルキラも汗をたっぷりかいていた。こちらは長柄の斧に変わっているが、しかし………。薪を割っている。実に頼もしく、猛々しい。
モモはテーブルで、一人祈りを捧げていた。こちらも集中している。
私もステッキを一振り。手の感触を確かめた。
モモのモーニングスターも、ホロホロの弓矢も、ベルキラが手を加えている。しかし私のステッキは、磨きこそ入れているものの純正そのまま。一切のカスタムをしていない。
「いまさら新しいものを付加しても、おじさんには使いこなせないからね」
私はそう言って笑った。
本音である。みるみる成長してゆく若者たちを見ていると、自分の年齢や各種機能の衰えを感じずにはいられない。新しいこと、新しいものを自分のモノにすることが、なかなかできなくなるのだ。
しかしそこに寂しさは無い。
脂を染み込ませ、磨きに磨いた愛用のステッキは、渋い艶を放っている。正直、レベル3のプレイヤーでこれだけ手を入れた得物は、見たことが無いほどだ。
私は、これでいい。
そして、これがいい。
改造を申し出たベルキラに、そう言った。彼女は理解を示してくれたし、「私の改造も手が届かなくなるかもしれませんね」と言ってくれた。
「御主人様?」
「ん?」
指環の中のたぬきだ。二人だけにしかわからない、念話で語りかけてくる。
「緊張しますね」
「お前でも緊張するのか?」
「もちろんですとも、いまや私の横顔は凛々しく引き締まってますよ?」
「いや、そうじゃない。お前はNPCだろ? もしくはAIのはずだ。それが緊張するのか?」
「万物には魂が宿るものなんですよ、マスター?」
「よもやAIに、森羅万象を語られるとは思わなんだ」
「御主人様、そろそろ刻限です」
「うむ」
すでに羽織っている八畳敷を、バサリとひるがえす。
「さて、おのおの方」
ホロホロが立ち上がる。
ベルキラは汗を拭った。
コリンは槍を納め、アキラがタオルを頭からかぶる。
そしてモモが、決意の表情を見せた。
「………我々は、今日」
視線が集まる。
「………マジックマッシュルームを、葬る!」
「はいっ!」
「では、出撃だ!」
拠点を出た。
今日は闘技場まで徒歩でゆく。魔法の移動手段は使わない。
だが玄関先には、陸奥屋一乃組が並んでいた。二乃組、三乃組も並んでいる。本店も陣を張り、その他大勢が左右に並び、人の垣根をこしらえていた。
「頑張れよ、マヨウンジャー!」
「マジックマッシュルームなんかやっつけちまえ!」
「お前たちが希望の星なんだからな!」
「ブッかまして目にモノ見せてやれ!」
群衆から声がかかる。
娘たちはその声に、いちいち手を振って応えていた。
だが私は違う。
マヨウンジャー筆頭として、へっぽこながらもギルド長として胸を張り、奴を見た。
鬼将軍である。
いつもの通りに厳しい眼差しだ。唇は固く引き締まっていた。そして腕を組み、泰然としている。
私は黙礼した。
鬼将軍はうなずく。
マントをなびかせて、奴は背を向けた。やはり絵になる男だ。
そして会場となる闘技場前では、カラフルワンダー頭目シャルローネが出迎えてくれた。ちょっと遠巻きである。私たちに意識させまいという気遣いなのだろう。しかし、装飾品をぶら下げた魔法の杖が目立ちすぎだった。私たちの様子をながめて、満足そうにウンウンとうなずいている。端から見ても、私たちの調整が上々だとわかるのだろう。
場内、受付をおとずれる。するとリンダが、ポカンと口を開けた。
「………マミヤさん、よね?」
「もちろん。マミヤと迷走戦隊マヨウンジャーの仲間たちだよ?」
「いや、ずいぶんと雰囲気が変わったな、って?」
「雰囲気?」
「えぇ、ツワモノの空気っていうか、猛者のオーラっていうか。たのもしくなったわよ?」
そりゃどうも、と答えて受付を済ませた。
「今日は予約していた、公開バトルね? 相手は評判悪いから、気をつけて」
「あぁ、君の動画を見て研究したからね。対策は充分に練ってるよ」
「じゃ、いってらっしゃい」
マヨウンジャーメンバーとともに控え室へ入る。
みんなの眼差しが、ホロホロに集まった。
「………それじゃあみんな。いつも通り、練習通りに」
細かい指示などいらない。迷走戦隊マヨウンジャーは、そんなチームに育っていた。
御来場いただき、まことにありがとうございました。
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