私たち、ジャックの訓話を聞く
本業がコンチキショウというくらい多忙につき、今日は短い更新となっております。
私たちはおそろしい速度で全員のレベルアップを果たし、マジックマッシュルームにそのことを知らせた。
公開試合の手続きをとり、日取りと時刻を決定。決戦前夜を迎えたのだ。
「それでは、本日の稽古はこれで終了します」
陸奥屋一乃組の拠点道場。神前には師範のジャック。脇には師範代のシャドウとユキ。門人筆頭のダイスケから順に並び、私たちは正座していた。
ジャックが私たちに背を向ける。
「神前に、礼」
全員で神棚に頭をさげ、「師範に、礼」でジャックに座礼。「お互いに、礼」は、道場というものを象徴している。すなわち、師範以外は師範代であろうと指導員であろうと、みな全て弟子という考え方だ。
日本武道、あるいは日本武術。その違いすら、私には分からない。だが、ゲーム世界での疑似体験とはいえ、その片鱗に触れている。
片鱗に触れている程度だからこそ、様々なことが新鮮だ。
例えば今日の稽古。
いつもの内容、いつもの質量。そう、マジックマッシュルームとの対戦を控えていながら、ジャックは対策も特訓もしなかったのだ。
まるで、「日頃の稽古こそ肝心なる物。それ以上の宝玉なし」と言っているようなものである。
特別ではない、常日頃当たり前な自分こそが至高。それで勝ちを納めるこそ、究極。
ジャックは無言の裡に、そう語っているのだ。
だがしかし、ジャックの要求がどれほど高く、品格あふれるものであるかは、『日本』というものに触れてみなければ分からないだろう。
「………そう言えば」
ジャックが口を開いた。
「明日はマヨウンジャーの、公開バトルの日だったね
いつもの笑顔である。
「なに、不安や戸惑いは当然さ。マヨウンジャーにとって明日の戦いは、初めての公開試合なんだ。緊張するのも無理は無いよ」
そんな顔をしていただろうか?
思わず隣に座るホロホロの顔をのぞき込む。
しかし、いつものホロホロだ。もちろん私の顔も同じだろう。
「いつもの顔だね? だから佳い。緊張すら忘れて稽古する。それが三昧の境地だよ」
それならば、なぜ緊張や不安を語ったのか?
「マジックマッシュルーム」
ジャックがもらす。それだけで、緊張が走った。
「ほらね、普段は意識することなく構えていても、奴らの名前を聞くだけで身を固くする」
それは忘れよと、ジャックは強調した。
ただ一途に、熱心にあれ。試合の勝ち負け、戦さの勝ち負けなど、時の運。いやもっというならば、勝ちも負けも神さまからの授かり物である。ありがたく受け取り、一期の夢まぼろしのごとく楽しむべし。
「いかなる事態、いかなる結果に至ろうとも、楽しいという境地。それを三昧というのさ」
勝ちたいという欲は不純物。なんとしてもという踏ん張りも、純粋をにごらせる。
だから………。
「ありとあらゆる事象を楽しむことこそが、何事に置いてもたまらないものなのさ」