私たち、レベルを上げる
アドバンテージは私たちにある。
リンダのアップした動画のことだ。
奴らの動画は最新のもの。奴らが研究するであろう私たちの動画は、かなり過去のもの。いま現在の私たちの戦い方を、奴らは知らないのだ。
そしてこれから先、未来の私たちの戦い方も………。
「レフト、レフト、レフト!」
アキラの号令で、頭の高さを変えることなくサイド・ステップ。
「シャッフル、シャッフル、シャッフル!」
そして前後の足を入れ換える。
「右ロール!」
頭を右旋回。よどみなく、止まることなく。
「左ロール!」
ただ動くのではない。敵から魔法を撃たれている。そのように想定して動くのだ。その想定ひとつで、稽古の効果は格段に違ってくる。
そうだ、結果は違ってくるのだ。
「マスター! ライト! ライト!」
いつもの探索、いつものレベリング。そしていつものマグラの森。違うのは敵として立つモンスター。陸奥屋に率いられた探索に比べ、はるかに深度が進んでいる。
狂戦士が吠えた。
私は火の玉を放つ。順番に、ひとつふたつ。動きが鈍った二体に、モモとたぬきが襲いかかる。そしてもう一体。狂戦士が私にかかってきた。
「マスター! フォローするよ!」
ホロホロの弓矢が突き刺さる。モンスターの動きが鈍る。私はステッキを奮った。
倒せ! 倒せ! 倒せ!
目指すべきは、レベル3。ベルキラとアキラは、もうすぐ。コリンはそれに次ぐ。
そして達成。
ベルキラはすでに言っていたように、長柄の斧を手にした。
さらにアキラ。
こちらは握り棒付きのグローブ。
二人の攻撃力は、格段に増した。
ついでに言うと、アキラは魔法『水の鞭』を使えるようになる。これは二~三人相手にダメージを与えることのできる、ちょっとした範囲魔法になる。
そしてコリンとたぬき。槍の必殺技に双龍尾が加わった。二人同時に攻撃可能という、出し所によっては頼もしい技だ。
たぬきに至っては………。
「ふっふっふっ、御主人様。なんとこのたぬき、八畳敷のスキルが増えました」
「おお、なにが出来るようになったのだ?」
たぬきは毛皮のマントをバサリと翻し、姿を消した?
以前は『死んだふり』というスキルで、相手の意識の外に出たのだが、今回は完全に姿を消したのである。
「ふっふっふっ、御主人様。死んだふりと比較してますね?」
背後からの声!
つまりそれは………。
「御主人様、死んだふりは動くことができませんでしたが、スキル隠れ蓑は姿を消して移動ができるのです!」
もちろん短時間だけだ。しかし私のような雑魚プレイヤーにとっては、ものすごい力になってくれるはずだ。
これまでは敵の心の隙を突いて勝利を目指していたが、今は違う。明らかに技量力量が上がっているのだ。
コリンの槍は少し長くなり、たぬきの八角棒は両端に金具が装着され、武器も強化されている。もちろんベルキラによる改造だ。
改造というならば、ホロホロの弓矢にも手が加えられた。飛距離と正確性が上がったのだ。
「しかもね、マスター。魔法で風の矢居刃を付加すると、威力は二倍なんだよ」
だけではない。ホロホロの連射速度も上がっている。下手な長距離魔法など、もはや目ではない。大量の矢を背負って、次から次へと矢を放ってゆくのだ。しかもアキラ直伝のフットワークを活かしながら。
そしてモモ。どこかトロいところがあるような印象だったが、アキラのフットワークを一番熱心に稽古していたのは、実は彼女なのだ。
「憧れのアクションスターのような、華麗なステップを踏めるようになりましたぁ♪」
そのモーニングスターの技術は、今や二本同時に扱うことができるほどである。
さらに、私。
「みんなに、これを渡しておく」
護符の束である。
「魔法攻撃を一回だけ、無効にしてくれるお札だ」
もちろん効果は、今までの対魔法装備と同じ。故に………。
「一人六枚くらいは装備したいな。それで足さばきを加えて、二回くらいは敵の魔法をキャンセルできるはずだ」
図書館で調べ、試行錯誤の結果に誕生したアイテムである。
もちろん魔法も増えているが、それは実戦で披露することにしよう。
強さというものを数値化するのは、いささか興醒めというものだろう。だからあえてそのようなことはしないが、しかし私たちの強さは飛躍的な伸びを見せていた。
これはこれまでの基礎的なトレーニングが効果を表しているのだと、私は考えている。
御来場いただき、まことにありがとうございました。
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