私、検証する
「そのような回答で、わたくしを満足させられると、思っていまして?」
「満足もなにも、貴女は覚悟を示せと言っただけ。だから私も、覚悟を示したのみです」
出雲鏡花は、またもお茶を一口。
ただ面白くも可笑しくもなさそうに言う。
「彼の者どもの秘策とは、不正行為に過ぎませんわ。つまりませんわね、火力の無い方々は………」
それはつまり、攻撃魔法の強化ということだろう。
おおむねの想像はつく。
拠点『下宿館』に戻った私たちは、早速アキラコーチによる足さばきのレッスンに入った。もちろん私たちには、対魔法革防具がある。装備しようと思えば、対魔法楯もある。
しかし敵は魔法特化ギルド。しかも魔法攻撃を強化という不正をはたらいている。アンチ・マジック・ウェポンが、どれだけ役に立つか未知数である。というかレベルの差だけで対魔法楯などの効果があやしいのだ。不正などされたら話にならなくなる。
そうなれば私たちには、足で魔法をかわすしかなくなるのだ。
「だけとマスター、範囲魔法を撃たれたら、ボクでもかわせませんよ?」
そう。
そこが大きな大問題だ。
おそらく彼らは魔法特化ギルドということもあり、全員が範囲魔法を使えるだろう。そして忘れてはならない。私も使える『障壁』をも、全員が使えるに違いない。しかもその効果は、私たちの攻撃を消し去るだけのものと想像できる。
「その辺りはどうにかならないかな、ホロホロ?」
「可能なかぎり、マジックマッシュルームの過去を洗ってみるね」
「ちょっと待ちなさい、ホロホロ」
コリンだ。
「ねぇ、マミヤ。戦略や作戦はホロホロにお願いするとしても、情報収集はみんなでやった方が、効率がいいんじゃない?」
「そうですねぇ~~。その方がいろいろな角度から、マジックマッシュルームを分析することが、できるかも知れませんねぇ~~♪」
意外と言えば意外。
コリンとモモから、積極的な意見が見られた。
「ベルキラはどう思う?」
私が問うと、彼女はうなずく。
「正直プライベートなことになりますが、ホロホロの負担が減ると嬉しく思います」
「ホロホロも、異存無いな?」
あまり大人っぽさの無い、カエルのように平べったい顔の娘は、少し口元をゆがめていた。
が、頭をさげる。
「みんな………ありがとうね………」
私としても、ホロホロにかなりの負担を強いているのは、懸念のタネだった。しかしその解消を、仲間たちから提言されるとは………。
「それじゃあ、みんな。足さばきの稽古が終わったら、マジックマッシュルームに関する情報を、徹底的に収集するか!」
「あ、待ってもらえるかな、マスター?」
ホロホロがストップをかける。
「今から情報収集しても、多分私がチェックした情報ばかりだと思うんだ。だから収集した情報をみんなで検証した方が、突破口を見つけやすいと思うんだ」
「なるほど、ホロホロが斬り込めなかった角度から、マジックマッシュルームを解剖するのだな」
それは良い試みだ。
「ならば以前ホロホロが持ってきた、あの動画を検証してみませんか? 新しい発見があるかもしれません」
ということで。
ベルキラは、動画の再生準備に取り掛かっていた。メンバー全員でモニターの前に陣取る。
そして動画は始まった。
「みんな、この動画はミュートで再生して、かまわないか?」
ベルキラが言い出した。
「リンダさんの実況が邪魔とは言わないけど、やはり先入観が混じりやすくなると思うからな」
私はうなずいた。
無音の戦闘が始まる。
「まず開幕から、長距離魔法だったわね?」
コリンの言葉に、ホロホロがストップをかける。
「どうした、ホロホロ?」
「いま気がついたんだけど、この長距離………三人しか撃ってないよね?」
ふむ、確かにその通りだ。
「あのアイって娘はヒーラー、だから攻撃して来ないとして………残りの二人は?」
「確かぁ、囮になって相手を引き付けてぇ、囲まれたところで………」
範囲魔法だ。相手チームに大ダメージを与えている。
ということは?
「前衛が二人、っていうか長距離魔法を撃った三人、全然前に出て来てないですよ?」
正しくは、有効射程ギリギリまでは出て来ている。しかしそこからは、一歩たりとも前には出て来ないのだ。これはファイト終了まで変わることなく、まさしく不動の立ち位置であった。
「もしかしてコイツら、範囲魔法が出来ないとか………?」
コリンがもらす。
「いや、それは早計じゃないか? いくらなんでも、魔法特化ギルドを名乗ってるんだぞ?」
「でも不正に手を染めるような連中よ? おまけに『姫』とやらの前で、いい格好したいだけの連中じゃない」
そう言われれば、そのようにも見えてくる。マジックマッシュルームというチーム、役割分担とか連携プレイとかではなく、自分が目立つことしかやらないチームにしか見えなくなってきた。
「そうなると、この範囲魔法を使う二人。………これもただ、突っ込んで来てるだけなのかも」
そう、私は初見で囮のように前へ出て来たと、そう見たのだが。
「ただ単に、相手チームが釣られただけなのか?」
「そうなると二人目の範囲魔法。これがキル泥棒にも見えてきます」
序盤でポイントをリードした、マジックマッシュルーム。なるほど、中盤以降のファイトを、私は私刑と呼んだが………。
「ただの低俗な、魔法ブッパ競争にしか見えないな」
思案の突破口など、ほんのささやかなものでしかなかった。
しかしチーム全員で取り組めば、穴はどんどん広がってゆく。
「………思った以上にぃ、ヘッポコギルドかも知れませんねぇ~~♪」
そうなると後は、どのように攻めるかであった。