私、シャルローネと語らう
「ときにシャルローネさん、カラフルワンダーは魔法特化ギルドとうかがってましたが、それでも武器屋に御用で?」
「へ? 武器?」
間抜けな声だった。
今は魔法の話でしょ? と言いたげな顔である。もしかするとこの娘、魔法が好きでたまらないのではないのか? と思う。
「あぁ、武器ですね、武器。私たちカラフルワンダーは、魔法の奥底を求めるために集った仲間たちですけど、探索のときなんかには武器を使ったりもするんですよ?」
血みどろ尻バットをか?
危うく言いかけたが、どうにか思いとどまることができた。すぐにあの二つ名が浮かんでしまうほど、私には印象深いフレーズだったのだ。
「私などはステッキが打撃武器なのだけれども、シャルローネさんの得物は………」
「メイスです」
「めいす?」
「えぇ、長杖の先に打撃用の重り………かな? それが付いた武器なんです」
「なるほど、私のステッキも握りの飾り玉で叩くので、短いメイスになるのかな?」
「そこです!」
また食いついた? 綺麗なお嬢さんの顔は、どこやったよ? しかも鼻息荒くしてんじゃないよ!
「動画を拝見したとき、あぁこの人の打撃。私のメイスと同じ使い方だ………って思ったんですよ!」
まあ、それ以降のステッキ術は陸奥屋一乃組仕込みである。その事実を知ったら、彼女はどんな顔をするものやら………。
そして魔法同様に、今度は愛用のメイスについても熱く語る。そしてメイスの話が、またもや魔法の話へ。
本来ならばドン引きになるような勢いなのだが、どうしても話の腰を折ろうという気にならないのだ。「魔法や愛用の道具が、本当に好きなんだな」と単純に考えていたが、それはどうも違うような気がしてきた。
彼女は好きなことに対して、とことん無邪気になれるのだ。それは漠然として根拠の無い感覚的な導きなのだが、おそらく無償の愛を注がれて育った娘だからなのだと確信してしまう。
きっと彼女は現実でも、品行方正成績優秀。眉目秀麗人格温厚なのだろうと、勝手に想像してしまうのだ。
そしてこの無邪気さのおかげで、彼氏が出来ないんだろうな………とも。
「ふぅ、今日はすごく為になりました」
額ににじんだ汗を拭いながら、シャルローネは満足のため息をついた。
「いえ、こちらこそ。浅学の身には、値千金な知識の数々。たいへんに勉強になりました」
本当に熱弁を聞かされたばかりで、ロクな発言はしていないのだが………。だがしかし、坂の上の雲である魔法特化ギルド、カラフルワンダーの長であるシャルローネの人柄を知ることができたのは、大変な収穫である。
「ですけどマミヤさん、馴れ合いはこれまでです!」
スポーツマンのように爽やかな敵意を、私に向けてきた。
「いつか私たち、カラフルワンダーの前に立ちはだかることがあったら、迷走戦隊マヨウンジャーを容赦なく叩きのめしますからね!」
私はマントを翻した。陸奥屋の総大将を真似て。
「望むところだ、シャルローネさん! 我々に狩り取られるその美しい首筋を、これでもかと磨いて待っていろ!」
ぶつかり合う、真剣な眼差しと眼差し。存分に睨みを効かせたところで、お互いにプッと吹き出す。
「あはは………負けませんよ! ですからマミヤさん、勝ち上がってきてくださいね!」
「約束する。私は必ず、君の前に立とう」
とても爽やかな風が流れたところで、忘れていた邪魔者が飛び込んで来た。
「お姉さまーーっ! お話はお済みですかーーっ!」
弾丸のように、何かが飛び込んで来た。その何かに、シャルローネがさらわれる。
「お久しぶりですーーっ、お姉さまーーっ! マジックマッシュルームのアイですーーっ!」
おう、そうそう。元々私たちは、この得体の知れない娘を監視していたのだ。その問題の娘がシャルローネを押し倒し、彼女の胸に頬をグリグリとすりつけている。
世の中には様々な趣味の方々がいらっしゃる。故に私はその愛情表現の方法や、コミュニケーションの取り方に、あれこれ言うつもりは無い。
ただ、「シャルローネ、君はそちら側の人間だったのか」と生暖かい眼差しを向けるのみだ。
もっともシャルローネ本人は、息も絶え絶えな金魚のように、虚ろな瞳で口をパクパクするのみであった。
「お姉さま! 最近のアイの活躍、見てくれました? え? さすがよね、私のアイ。さすが妹分だわ、ですって? やだやだ、アイってば照れちゃいます!」
シャルローネは、ンなこたぁ一言も言っちゃいねぇ。そして「姫」の蛮行をとがめるはずの、例の男どもは、ハァハァと息を荒げるばかりであった。
「あぁっ、お姉さまお姉さまお姉さまぁっ!」
ドスッという鈍い音が響いた。アイという娘の口から、「ゲフッ!」という音が漏れる。そしてシャルローネの体の上から、だらしなく崩れ落ちた。
むっくりと起き上がるシャルローネ。
「ふぅ、ちょっと効いたわね」
「大丈夫かね? シャルローネさん」
「えぇ、なんとか………」
「しかし、何者なんですか、彼女?」
シャルローネは渋柿を口にふくんだような顔をした。
「マジックマッシュルームという『魔法特化ギルド』を作り上げた娘。アイという名前よ。なんでも私たち、カラフルワンダーを目指しているらしいわ」
「へぇ………魔法が好きなんですねぇ」
「さあ、それはどうかしらね」
シャルローネの眼差しは、あくまでも厳しい。
「だけど君になついてるじゃないか」
「それも、どうかしらね?」
モゾリと動いたアイが立ち上がった。どうやら復活したようだ。
御来場いただきまことにありがとうございました。
お気に召していただけましたら、ブックマーク登録とポイント評価をお願いいたします。