私、シャルローネに出逢う
マジックマッシュルーム、少し観察させてもらうとするか。
「みんな、ちょっとこっちへ移動するか」
「どういうことよ、マミヤ! まさかあんなのに、道をゆずるっての?」
「そうじゃないさ、デコ。奴らがどんな連中か、ちょっと観察させていただくんだよ」
それならバラバラに散った方がいいねと、ホロホロが離れてゆく。ベルキラが続いて、アキラは反対方向へ。モモはマジックマッシュルームの向こう側。デコは私と一緒に残った。
しばらく拝見していると、すぐにわかることがあった。男性五人がまったく、お互いに会話していないのだ。
常に「姫」と呼びかけ、こちらでも呼びかけるのは「姫」。別な奴も語りかけるのは「姫」。とにかく女の子の気を引きたい。その一心が涙ぐましいほどであったのだ。
「………情けない男たちねぇ」
「というか、同性から見ても気持ち悪い集団だよ」
誰も彼もが自分の欲を満たすことしか考えていない。とは言え、それが動画での攻撃力につながっているとしたら? そう、「姫」の前でいいところを見せたい。活躍したいというのであれば………。
「案外これはこれで、正しいゲームの在り方なのかもしれんな」
「なに言ってんの、アンタ?」
「いや、これもゲームの楽しみ方のひとつなのかな、と」
「まあ、本人たちが楽しいっていうなら、それでいいんじゃない?」
意外に寛容なところをみせるデコだ。
「しかしこれで、弱点もハッキリしたな」
男たちは誰一人として、お互いを見ていないのだ。おそらく誰一人として、仲間の救助には向かわない。どこか一角が崩れると一気に全体が崩壊する。きっとそんなチームである。
「でもさすがに、胸焼けがしてくるわね」
男たちのベタつき加減に、デコがインターバルを申し出てきた。実を言うと私も、「姫」の連呼にウンザリしていたところだ。
「少し離れるか」
店の出入り口に視線を移した時だ。
入店してきた女性と、目が合ってしまった。
いや、大人びているが、まだ少女だろう。私にはそう映る。おそらくは同級生たちから大人っぽいと評判で、そこを意識した背伸びしたがりの女の子。ちょっと気取ったポーズも同世代からの受けはいいが、本物の大人からすれば可愛らしさが先に立ってしまう。そんな瑞々しさが、彼女にはあった。
魔道繚乱カラフルワンダーのギルド長、シャルローネであった。
まあ、シャルローネだからといって、どうということは無い。年末のイベントで私の方が一方的に見知っているだけの話だ。
と、高をくくっていたのだが。
「ゲッ!」
シャルローネは口元を歪めた。
なんだその反応は? もしかして、私のことを知っているのか?
一瞬疑問が湧いたが、私とてかつてはリンダの動画で、戦闘を実況された身である。面が割れていても不思議は無い。
というかシャルローネ。君は見た目、よいところのお嬢さんなんだから、ゲッは無いだろ、ゲッは。
私にとがめられずとも、そのことに気付いたのだろう。シャルローネは口元を手で押さえ、ニッコリと微笑んできた。
私も軽く会釈して、爽やかさを心がけて微笑む。
「失礼、魔道繚乱カラフルワンダーの、シャルローネさんですか?」
私が切り出すと、彼女は意外そうな顔をした。
「あら、私のことを御存知なんですか?」
「えぇ、年末のイベントで拝見しました」
「そちらは迷走戦隊マヨウンジャーの、マミヤさんですね?」
私も大袈裟に眉を吊り上げてみせた。
「おやおや、私などのことを、そちらこそ御存知でしたか」
「えぇ、実況動画の方で、御活躍を拝見しまして」
「かなり前のことですよ、私たちがレベル1の頃なんですから」
「とても印象的なファイトでしたから」
来るか? シャルローネの瞳に、鋭さが浮かんだぞ?
「とくに、あの爆発が………」
やはり来たな。
「あの爆発は、火の玉魔法で起こしたものなんですか?」
そんな質問に、まともな回答をする訳がない。それを知っていて、こんな質問をぶつけているのだろうな。………性格の悪い娘だ。
「一応、火の玉で起こした爆発です」
ここは正しい答えを先に切る。
「ですが火の玉では、あのような爆発は起こらないと思うんですが………」
食いついた。
今度はこちらが話をリードする番だ。
「同盟相手にも、散々同じことを言われましたよ。ですがね、そのおかげでひらめいたんです」
「ふむふむ」
この「振り」にシャルローネは、探りを入れるリーダーの顔を捨てて身を乗り出してきた。よほど興味を引いたのだろう。魔法の秘密に迫る、可愛らしい女の子の顔になっている。
「もしかしたらあの時、誰かが可燃性魔法の準備をしていたのではないかと………」
「可燃性魔法? そんなものがあったかしら?」
ブツブツと独り言をつぶやきながら、彼女は思考の海へと身を沈めてゆく。
そして、「あっ」と目を見開いた。
「毒ガス事件! 闘技場前でバタバタと人が倒れた! 運営でも問題になって御触書が出た、アレ!」
「そんなことがあったんですか?」
あったんですかも何も無い。私がその当事者なのだから。
だが私のすっとぼけも御構い無し。シャルローネは鼻息も荒く目を見開いた。
「そうよ、アレよ! あの中に毒ガス事件の犯人がいて、マミヤさんを窒息させようとしたのなら………」
「火の玉で引火した!」
「それだわ!」
………私は何も悪くない。
嘘はひとつも言ってない。
そのかわり、真実もまったく語ってはいない。
この解答は彼女自身が彼女の手によって、導きだしたものだ。
だから私は悪くない。