私、新たな敵を発見する
ベルキラとアキラのレベル3が見えてきた、ある日のことである。
「みんな、これ見てくれるかな?」
そう言ってホロホロが拠点『下宿館』で、一本の動画を提示してくれた。
「なんですか、これ?」
「………魔法特化ギルド、マジックマッシュルーム?」
「そう、比較的私たちのレベルに近い、魔法特化ギルド。長距離魔法や範囲魔法を使いまくって、相手に手も足も出させずに潰す、あまり心地よくないギルド」
ホロホロはこれを、リンダの実況動画から拾ってきたという。実際リンダの代行キャラも、あまり良い評価はしていない。
やり口はホロホロが言った通り、まずは長距離魔法で一人を袋叩き。撤退に追い込む。
それから一人が………これは囮なのだろう、単独行動に出て敵を引き付ける。この囮は囲まれた時点で、足元に範囲魔法。群がる敵にダメージを負わせる。
その動けなくなった敵に、別の魔法使いが割り込んで来て、再び範囲魔法。さらなるダメージを負わせ、撤退をも獲得する。生き残った敵などは、長距離魔法組から狙われ、やはり撤退の憂き目に逢う。
ここでまだ生き残りがいたならば、あまり良い表現ではないが私刑が始まる。ほとんどなぶり殺しだ。
だがしかし、最大の問題は魔法特化ギルドを名乗っておきながら、得物を振り回して撲殺斬殺に来ることだった。
「………………………………」
年末のイベントで、同じ魔法特化ギルド『カラフルワンダー』には、ファンがついていることを知った。まだ対戦すらしたことも無いが、おそらく勝っても負けても、気持ちの良い戦いなのだろうと想像できる。
だがこのギルド、マジックマッシュルームは違う。違うと私の中の何かが叫んでいる。
マジックマッシュルームの戦いは、見ていて楽しくないのだ。どちらが勝つのか? というトキメキが無い。逆転のチャンスというものも、見当たらない。何故ここで魔法なのかという、理念や思考も感じられない。
なぜなら『ただただ魔法をブッ放す』だけだからだ。
「………どうかな、マスター?」
「うん、面白くも可笑しくもない『仕事』だったな」
「ねぇ、ホロホロ。………これっていいの?」
コリンの眼差しには、不安の色が浮かんでいた。人間というものは未知の存在に出くわしたとき、不安を感じるものなのだ。
「良くないよね。彼らがやっているのは、言葉は悪いけどリンチや袋叩き。戦法としては正しいだろうけど、誰も納得してくれないだろうね」
「私もそう思う。例えばカラフルワンダーの魔法なら理想とか考え、方向性というものが感じられるが、この集団は子供が危ない武器を振り回しているようにしか見えないな」
「詰まるところ、『自分たちだけが楽しい』ですか?」
ベルキラの問いに、私はうなずいた。
ホロホロは腕を組んで厳しい表情をしている。
「私にとってカラフルワンダーは悪の集団だけど、彼らは悪でも悪の華があると思うの。だけどこの子たちには、それを感じられない。………あまり関わりたくない人たちかなぁ」
しかし、そうも言っていられなくなった。
あろうことか、直接出くわしてしまったのである。
それは武器屋でのことだった。
ベルキラとアキラのレベルアップが近いということで、新しい武器などどうだろうかと考え、メンバー全員品定めに出ていた。
なんでもレベル3というのは、これまでよりも良い武器を装備できるらしいのだ。
とは言え。
「マスター、私はこれまでの斧を改造して使いたいのだけど」
「せっかく新しい武器を使えるのにかい?」
これまでの武器を改造とは、なんとなく私たちらしいと思ってしまう。やはり使いなれた斧が、一番しっくり来るのだろう。
「ああマスター、誤解のないように。今までの斧だけど、柄を長くして大兵器にしたいと思ってるんです」
「それはいいね。コリン以外は短刀にステッキ、モーニングスターとふたつの拳と、小兵器ばかりだったからなぁ」
「それに新しい武器と言っても、子供のようなもの。少し育ててやらないと、使い物になりません」
そう、私たちの武器はいずれも手入れをして育ててある。レベル1の頃の武器とは、まったく違うのだ。手入れをしていない武器を『ただの武器』とするならば、私たちの武器は『ただの武器+1』もしくは『+2』である。もしかしたらベルキラなどは、『+3』に近いのではないかと思う。
「ということでマスター、長柄を選ぼうと思います」
「アキラ、アンタはどうすんのよ?」
デコのコリンだ。
「ボクのグローブも、ベルキラさんに改造してもらおうかな、って。なんでも掌の部分に、握り棒を仕込むことができるらしいんだ」
私はまた、ナックルの部分にトゲトゲ………スパイクでも仕込むと思ったのだが。
「あれ? マスター、聞いたことありません? 昔の不良はケンカの時に、百円ライターを握って相手を殴ったって」
いや、聞いたことは無い。
「鍛えることが嫌いな不良が、パンチ力を上げる工夫なんですよ。………拳で相手を殴ると、反作用で拳がグニャリと潰れてクッションになっちゃって、威力が伝わらないんです。だけど百円ライターを握って、拳が潰れないように補強してやると………」
「威力がすべて伝わる?」
「そう! それにボクたちボクサーはスピードを重視するから、拳はあまり握らないんです。だからバンテージで拳をカチカチに補強するんですけど、握り棒を仕込むとその必要がなくなるんです!」
だからそのための握り棒を見立てるというのだ。
新しい武器となると、人は誰しも心ときめくものだろう。しかし我々のときめきは、金額に直すととても地味なものだった。
「ほらほら、新しい剣が出てますよぉ♪」
店内に、餅のようにベタつく声がした。モモではない。モモのしゃべり方は天然だ。不快を感じることはない。
だがこの声は、生理的に受け付けない響きがあった。
「リョウくんにピッタリな剣ですねぇ。これで対戦相手を、バタバタやっつけちゃってくださいぃ♪」
目を向けると、五人の若者と一人の娘。………どうやら若者たちは、娘のことを「姫」と呼んでいるようだった。
私もインターネット時代の申し子である。この手のケースは、web上で拝見している。
一目見ただけで、これはアカンパターンや、と分かった。
「マスター、あれ………」
ホロホロが耳打ちしてくる。
「あれ、マジックマッシュルームのメンバーだよ」
なるほど、どうりで不快なわけだ。
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