私、ちょっとだけしんなりする
対魔法革防具をジャックに披露すると、今度はオーケイが出た。もちろん弱点も教え、どのようにそれをカバーするか。すべてを語った上での話である。
別に陸奥屋一乃組に話を通さなくとも、勝手に防具を実戦投入することはできる。しかしそこは挨拶を入れておく。我々………というか、私は大人なのだ。散々泣きついたあとで挨拶無し、という訳にはいかない。
そしていよいよ、闘技場である。
我々のアンチ・マジック装備がどれだけ威力を発揮するか? 私自身気持ちの高ぶりを抑え切れずにいた。
ブリーフィングルームで、対戦チームを確認する。
関西ドワーフ組となっていた。
「………………………………」
「………………………………」
「………ちょっと、マミヤ」
「デコ、みなまで言うな」
「マスター、この相手ってさぁ………」
「たのむ、アキラ。そっとしておいてくれ」
だがこんな時、決まって私の心をえぐる奴がいる。
「以前、関東ドワーフ組っていう肉体派集団がいましたよね?」
たぬきだ。
「御主人様、関西のドワーフ組もヒーラーや魔法使いがいませんよ?」
「たぬき、たのむからそれ以上語らないでくれ」
「革防具リニューアルのデビュー戦だというのに、なんという『引き』の悪さか」
ベルキラまで呆れていた。
「ベルキラ、誰の『引き』が悪いんだと思う?」
「マミヤ、アンタでしょ?」
デコが口を挟んだ。
「私もマスターの引きだと思うなぁ」
ホロホロ、君もそうなのか?
「でもマスター、これは神さまが『今までの戦法を忘れるなよ?』、って言ってるんですよ、きっと」
アキラ、その言葉は嬉しい限りだが、私の引きの悪さは否定してくれてないんだね?
「ですがぁ、みなさん? マスターのくじ運がどれだけわるくてもぉ、まずはこの一戦いただいたぁって、喜びませんかぁ?」
モモ、お前なんということを………。
「まあまあ、御主人様。このたぬきも奮闘しますから、ガッカリしないでください」
手前ぇ、気安く肩を叩くんじゃねぇ。つーかお前、目が笑ってんぞ。
「マスター、そろそろ開幕です。相手が腕力バカの集団でも、目にモノ見せてやりましょう!」
ベルキラが場をとりなしてくれた。アキラがグローブの拳で、掌をパンパンと叩く。デコも軽く槍をシゴいた。
「よし、がっかりムードはここまでだ! やっつけてやろうぜ!」
開幕の銅鑼。
私たちは闘技場を駆けた。ドワーフの集団が、みるみる近づいてくる。
モモが叫んだ。
「もーかりまっかーー?」
ドワーフたちの足が止まった。
「さっぱりワヤや!」
そこに私のファイヤーボール。
「やや子の行水や!」
ホロホロの矢も刺さった。
さすが関西を名乗る集団。ノリが大変によろしい。よろしいのだがしかし、それってどうよ?
「マスター、今のやりとりってどういうことなんですか?」
見ろ。アキラなどは今の常套句が理解できなかったみたいで、頭の上に『?』を浮かべているぞ。
「あとで教えてやる、まずは攻めだ!」
「あ、はい!」
関西ドワーフ組は、レベル4のチームだ。本来ならば受けきれない魔法を放ってくる、苦戦必至のレベルである。だが彼らは肉体派。魔法に頼らない戦法を選択していた。その分だけ、プレッシャーはキツい。次から次へと押し寄せてくる。
だが、それだけだ。魔法対策がまったくなっていないのだ。無防備で水弾魔法を浴びてくれて、そのままアキラの拳をもらってくれる。
デコが雷魔法から槍をしごき、大ダメージを与える。
「ベルキラを温存するわ! マスター、ステッキで仕留めて!」
ホロホロの指示で、先頭のドワーフを打ちのめす。モモのモーニングスターが、私を助けてくれた。
ここで1キル。
三人目以降の敵はアキラとデコ、それに短刀持ちのホロホロが引き受けてくれた。そこに私は指環を投げ込んで、たぬきを召喚。援軍とした。
アキラの特訓が実を結んでいる。三人と一匹はラン&ショット、ショット&ランで後続の足止めに成功していた。
その間に私たち三人、モモとベルキラで、二番目のドワーフを袋叩きにする。
繰り返すが、肉体派とは言え敵はレベル4。本来ならば苦戦必至の相手なのだ。
だがしかし、私たちは終始ラウンドを支配することができた。
「前衛! 後退して私たちの後ろに控えて! 敵を引きずり込むよ!」
敵の前衛は撤退させた。
残るは傷だらけの後衛だけだ。
これは敵陣………すなわち復活ポイントから離れた場所で仕留める作戦なのだ。そうすれば私たちは、時間的にも優位に立てる。
圧勝だった。
私たちの型にキッチリとはまり、敵を完封しての勝利だった。
魔法を使わない相手という部分は残念だが、それでも肉弾戦の稽古が身に付いたことを確認できただけで、充分な収穫である。
拠点への帰路、コリンは言った。
「いけるわね、陸奥屋一乃組での稽古」
「あぁ、間違いなくこの技は、上位に通じる」
上位、それはカラフルワンダーを意味していた。私の中だけでだが。
いやむしろ、魔法特化ギルドに通じてもらわなくては、まったく意味が無いのだ。
ただ、『基本的には通じるものが入っているが、今のままでは通じない』のだが。
坂の上の雲は、まだ遥かにあって遠い。
しかしそこへの足掛かりは、確実に手にしていた。
「さっぱりワヤや、ヤヤ子の行水や」に関しては、最寄りの関西人にお問い合わせください。