私、ようやく対魔法革防具の完成を見る
カラフルワンダーが、対魔法兵器の研究をしている。私としては、かなり深刻な事実であった。
しかしマヨウンジャーのメンバーにとっては、あまり関心のない事だったらしい。
「そりゃまあ、そうでしょ? なんだか魔法にこだわってるみたいだし」
「今日明日、ボクたちが対戦する敵じゃありませんからねぇ」
「むしろ、カラフルワンダーがどのような魔法対策をしているのか、そちらが気になります」
「カラフルワンダーだってぇ、大変なんですよぉ」
まったく薄い反応であった。
………ただの一人をのぞいて。
「マスター、それは一大事ね」
ホロホロだ。
「外道繚乱カラフルワンダー………魔法特化ギルドと呼ばれていながら、対魔法兵器の研究までされたら………」
いまシレッと、外道とか言わなかったか? 魔道な、魔道。魔道繚乱カラフルワンダー、わかってるよね?
「まったく死角がなくなるわっ!」
あ、聞いてないな、これ。
つーかホロホロ、カラフルワンダーって案外ユルいとこあるぞ。ユキさんのおふざけにノセられてたし。
「防具や楯に工夫をこらしても、それがあの悪の秘密結社に見抜かれていたら、私たちはどうすればっ!」
いや、別に秘密にはしてないだろ。悪党でもないし、一般ギルドだからな、アレ。一般ギルド、オーケイ?
「………でもみんな、心配しないで。私たちには正義の心と、陸奥屋一乃組から授かった技がある!」
………正義の心か。
汚れっちまった大人には、真っ白な雪は似合いません。っていうか………。
「ベルキラ、どうしたんだホロホロは?」
「私にもわからないのだが、文系人間に闘う相手ができると、あのようになると解釈している」
怖くなんかないぞっ、やっつけてやるーーっ! と拳を掲げたホロホロは、アキラとモモから喝采の拍手を浴びていた。
「そうですよ、ホロホロさん! ボクたちは肉弾戦も練習してんですから、為せば成るの精神です!」
お、アキラまで釣られた。まあアキラにとっては美味しい餌だろうから、仕方が無いと言えば仕方が無い。
しかし思い出してくれ、みんな。
私たちはまだ、新しい対魔法革防具のテストをしなければならないんだ。
私の憂いをよそに、働く人々の決起集会にも似た叫びは、今しばらく続きそうだった。
「………マミヤ?」
私の袖を引く者がいた。見るまでもない、私をプレイヤーネームで呼ぶのは、ただ一人だ。
「どうした、デコ」
「アタシたちだけで始めようか、革防具の実験」
シュプレヒコールの波に、ベルキラまで飲み込まれていった。ホロホロとともに、打倒カラフルワンダーを叫んでいる。
「………そうするか」
私たち迷走戦隊マヨウンジャーと、魔道繚乱カラフルワンダの対決など、まだまだ先の話だというのに………。
そんなこんなで、革防具を身に付けたコリン。道場に立って胸をポンと叩く。
「さ、まずは胸よね」
「きっちり当ててやるからな」
「当たり前じゃない」
この頃にはシュプレヒコールも止み、メンバー全員が事の成り行きを食い入るように見詰めていた。
呪文詠唱、生まれる火の玉。………まずは一発。
ボン! と柔らかい音がして、火の玉はコリンの胸の前で砕け散る。おぉ、という感嘆の声が、外野から漏れてきた。
もちろんコリンは無傷だ。一見、散った炎が顔面を覆ったように見えたのだが、ハニーブロンドの髪ひとつ焦げてはいなかった。
「へぇ、これが魔法を弾く感覚なんだ」
火の玉を怖がることもなく、デコは胸当てを撫でている。
「じゃあ次ね。今度はファイヤーボールを足元に撃ってみてよ」
「また黒コゲになるぞ」
「怪我する訳じゃないから、大丈夫よ。それに、対魔法革防具がどれだけの範囲をカバーしてくれるか。それを調べなきゃ意味ないじゃない」
それもそうか。
「では遠慮なく」
「あ、ちょっとは遠慮しなさいよ!」
もう遅い。
ボンという音とともに、今度は足元を中心にして、広い範囲が燃え上がる。炎の勢いでコリンの姿が、一瞬見えなくなるほどだ。
結果。
「防具の部分は無傷か」
「さすがに顔面は守られてないわね」
またもやデコアフロの出来上がりだったが、今回は誰も笑わない。むしろ真剣に被害状況をチェックしていた。
「でもマスター、胸部腹部にダメージが通らないのは、大きいですよ」
アキラが言った。
まったくその通りである。
私の場合は特にそうなのだが、魔法攻撃は基本的に遠距離でおこなう。そうなると狙いは大きな部位、つまり胸部腹部となるのだ。そこに魔法が通らないとなると、なかなかに厄介である。
「それにマミヤ、アタシたちは常に動き回っているのよ。手足や頭なんかには、そう簡単にはもらわないわ」
「………そうなると、弱点は範囲魔法になるね。マスター、今度はファイヤーボールをコリンの防具に当ててみて」
ホロホロの提案も、なかなか容赦が無い。
コリンに目を向けると、「かまわないわよ」という顔をしている。
ということで、コリンの防具にファイヤーボール。胴体を中心に、コリンは炎につつまれる。
先ほどの実験にくらべて、コリンの頭部へのダメージはより深くなっていた。
「う~~ん………この弱点は、あまり知られたくないかなぁ」
ホロホロは呟いた。
対魔法革防具の弱点。それは範囲魔法相手だと、かなりの魔法を通してしまうことにあった。
「だがホロホロ、考え方だぞ。いま現在レベル2では、範囲魔法は頻繁に使えない。そしてレベル3を相手にしたら、どの道うまく使わないと防具は威力を発揮しない。レベル4と闘うなら、あまり宛にはできないんだ。魔法をとおさなければラッキー、くらいな感じで良いのではないか?」
「私もマスターの意見に賛成だな」
と、ベルキラ。
「防具に頼っては、今まで積み重ねてきたマヨウンジャーの戦法が、崩れてしまうだろう。私たちの戦い方は基本であり基礎であり、これから上位クラスと当たることがあっても必要なものだ。それを崩してはいけない」
それ以降私たちは、革防具のことを「宝くじ」と呼ぶようになった。
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