私、奴の足跡を見る
ということで、対魔法革防具を作ってみた。防具作りはすでにお手の物となっていた、ベルキラがまず革防具をひとつ分解する。
その間に私はお札を六枚作製。革防具の中へ忍び込ませて、とりあえず完成。
「アタシが試してみたいわね」
実験にはコリンが名乗りをあげた。本当はマッコイさんにお願いしようと思っていたのだが、本人が「アタシも魔法を弾く感覚って、経験してみたいのよ」と、ずいぶん乗り気だったからだ。
「それでは私の火の玉を弾いてもらおうか」
「ドンと来いよ!」
見た目にもわかりやすいように、効果をオンにしておく。その上で火の玉をぶつけてみる。
で、その結果だが?
アフロヘアで、お姫さまドレスもコゲコゲのデコが完成した。
「………なによ、コレ?」
黒い煙と一緒に、不満の言葉を吐き出す。
「うむ、どうやら失敗のようだな」
「そうじゃなくて! アタシがコゲるのは仕方ないとしても、革防具が無傷ってどーゆーことよっ!」
「………コリン」
細い肩を、ベルキラがそっと叩く。
「すまなかった、失敗も失敗。大失敗のようだ」
「そ、それは仕方ないって分かってるわよ」
「そしてこの効果に関しては、運営の悪ふざけだと思う」
ベルキラの肩が震えていた。
「………いいわよ、ベルキラ。笑いなさい」
「いや………笑っては失礼………失礼………」
だが、防波堤はもたず、決壊してしまった。
「と、とりあえずマスター………」
ホロホロも笑いをこらえている。
「対魔法革防具が作れるかどうか、調べてくれるかな?」
「うむ、早急に対処しなくては、みんなの腹筋がもたないだろうからな」
ということで、速やかに図書館へ。
図書館の来客数は、あまり伸びていなかった。おそらく利用者たちは年末のうちに、サービスを受ける資金を使い果たしたのだろう。
まあ、そんなことはどうでもよろしい。私が利用するのは蔵書の方であって、大人向けサービスではないのだ。
いつものように司書にリクエストを出して、いつものように書物を受け取る。そしてこれまたいつものように、無人の室内で知識を得るのである。
「なるほどね、これは失敗するわけだ………」
答えは簡単に出た。
革防具に挟むお札は、三枚必要なのだ。私たちは一枚しか挟んでいない。
それがどのような理屈で三枚に増やされているのか、そこまでは書かれていない。もしかしたら、腕を二本自由にするために、お札が二枚余計に必要なのかもしれない。ただ今回の場合は、そういうものなのか、と納得するのが一番なのだろう。
そしてこれまたいつものように、貸出履歴に目を通し、陸奥屋本店の御剣かなめの名前を………。
………他にも名前がある。
魔道繚乱カラフルワンダー、シャルローネ。
「………………………………」
奴か。
奴もまた対魔法革防具の知識を得たのか。
よもやと思い、対魔法楯の書物………魔法屋のオヤジに薦められて目を通した一冊も、チェックしてみる。そちらの貸出履歴にも、シャルローネの名前はあった。
「………確か奴らは、魔法特化ギルド」
ならば対魔法研究に余念が無いのも、理解できる。もちろん今すぐに我々が、カラフルワンダーに挑むものではない。いや、その日が訪れるかどうか、それすら怪しい。
しかし、奴らが対魔法兵器に対する知識を持っているか否か。その違いは天と地ほどに差が出てくるだろう。
いや、むしろ鬼に金棒。その存在は脅威と呼べるほどである。
「………だがしかし、それならもっと上にランクされてても、いいようなものなのだが」
何故私たちのような、底辺ギルドの目に届くような場所にいるのか?
「………まさか魔法の研究にかまけて、レベルアップを忘れてるんじゃないだろうな?」
ゲームというものは、楽しみ方など人それぞれ。しかし私は、ランクが上がったり達成感のあるという、わかりやすい目的は理解できるのだが、先にあげた通好みな楽しみ方は理解できない。
マジック・マニア。
ついついそんな言葉を造ってしまう。
「まさかね………」
独り言で自分の思いつきを否定してはみたが、どうにも心の中から捨て難い。この思いつき、捨ててしまうには何かが尾を引いた。
ともあれ、革防具の改造方法は手に入れたのだ。早速帰って仲間たちを、腹筋地獄から救い出さなくてはならない。
………………………………。
「ということで、対魔法革防具が六体完成しました!」
ベルキラ会心の作である。
もちろん試験結果も上々。その出来栄えには、みんな満足していた。
が。私は奴らのことを知らせてやらなければならない。
カラフルワンダー。
あの連中もまた、対魔法兵器の研究をしていると………。
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