私、先行きを見失う
悪は滅びた。
そうなると私は、この場を納めてくれた娘に、礼を述べなくてはならない。
「失礼します、お嬢さん」
「あら、不正の疑いをかけられた方ですわね?」
「みなが不快な思いをしているところを、溜飲の下がる形に納めていただき、ありがとうございました」
頭をさげると、娘はフッと憂いをみせた。
「あまり出来のよろしい作ではありませんでしたわ」
そりゃそうだ、と私は思った。
「ですが、これで終わりではありませんことよ?」
まだ何かヤルつもりかよ?
「なんとも頼もしい方ですね」
私が持ち上げると、娘は「いえいえ」と言って、持ち上げた場所から自分でへりくだる。
うん、ツッコミ所満載な先ほどの理屈より、今の方がよほど凄味がある。
下り芸とでも言おうか。とにかくおだてや持ち上げには、乗らない娘だ。おそらくは、徹底的に。
「どうかなさいまして?」
「いやいや、可憐な姿に心奪われていただけです」
「まあ、わたくしはてっきり、人物評価の解剖台に載せられて、あれこれ分析されているものと思いましたわ」
鋭い。
やはりこの娘、あれこれと人生の様々な『味』を知っている。
只者ではない。
「あの………」
ホロホロが出てきた。
「不快な事態に対する処理のしかた、大変に参考になりました。よろしければ、フレンド登録を申請しても、よろしいでしょうか?」
ふむ、ホロホロの目からは、そう見えたか。
するとアキラやコリン、モモまでフレンド登録を申し出た。
「ベルキラは申請しないのか?」
「え? えぇ………どちらかと言えば、私は………」
サムライ娘の前に立つ。
なるほど、そちらの方か。
で、上品な娘の方はというと。
「お申し出は嬉しいのですが、みなさま。わたくしにとっては、やはりギルドの方々が一番のお友達になりますので。お友達に順位をつけるのはあまりにこころ苦しく、慎んでお断りさせていただきたく………って輝夜さん! 貴女なにをなさってますのっ?」
見れば輝夜と呼ばれたサムライ娘は、ベルキラとフレンドの交換をしているところだった。
「いや、鏡花殿。私はこちらのベルキラさんと、フレンドを登録しているのだが」
クッ………というように、鏡花と呼ばれた娘は額を押さえ、天を仰ぎ見た。
おそらくこの鏡花、どこの誰ともフレンドを結んでいないのだろう。理由はわからないが、とりあえずそのような主義なのだ、と思う。
そこへホロホロが、「よろしいでしょうか?」とにじり寄る。「お願いします」と、アキラが瞳を輝かせた。
「ウチの娘たちのワガママに、つき合ってもらえませんか?」
私も頭をさげた。
「本来でしたら、わたくしの主義ではありませんが………」
渋々という風に、フレンド登録してくれた。もちろん私の分もであり、輝夜も快く登録に応じてくれた。
「それでは、わたくし共はこれで」
頭をさげると、鏡花と輝夜は去って行った。
どこからともなく、声が聞こえる。
「すげぇな、アイツら。『まほろば』のメンバーとフレンド交わしたぜ」
まほろば?
そんなにすごいことなのか? いや確かに、あの鏡花の様子を見れば、簡単にフレンド登録などしてくれないのは、わかる。
だが、重要なのはそこではない。
「………マスター、これ見てくれる?」
拠点に戻ったあと、情報収集していたホロホロがウンザリ顔をしていた。
何事かと思って見てみると、あのクールというギルドが掲示板で晒されていたのだ。
「あ~~………こりゃなんとも、コメントし難いなぁ………」
なんともかんとも、クールがそれだけ嫌われていたのか、みんなの仕事が速いのか。
ウンザリしているホロホロには悪いが、私としては笑いをごまかすのに必死である。
「ちょっとマミヤ! こっち、こっち見てみなさいよっ!」
今度はデコだ。こちらもネットに接続している。
どれどれとみんなで覗いてみたら………。
「あの時の動画まで上がってんのかよ! しかも実況つきって、オイ!」
「っていうかマスター、この投稿者名………」
そう、当事者である鏡花が出雲鏡花の名前で投稿していたのだ。
「タイトルが、不出来な仕事でしたわ………って、あれでですかっ? ボクにはユナニマス・デシジョン、文句の無い判定でしたよっ?」
いやアキラ、アレはツッコんでやろうよ!
というか、出雲鏡花! お前クールの連中のこと、ものすごく嫌いだろっ? 絶対にそうだよな!
「ということがありまして………」
陸奥屋一乃組拠点。
出雲鏡花との一件を話すと、ジャックは痛快に笑った。
「マミヤさん、その『まほろば』ってチームはね、かなり上位にランクされたチームなんだよ」
なるほど、道理で拠点に帰って来たあと、出雲鏡花のプロフィールを見たホロホロが、身悶えしてた訳だ。
「その中でも出雲鏡花というのは難攻不落。誰ともフレンド登録していなかったんだ」
「おや、我々は大金星ですね」
それだけじゃないさと、ジャックは忍び笑いを漏らす。
「出雲鏡花は、陸奥屋のことが嫌いなのさ」
なんと?
「君たちマヨウンジャーが陸奥屋と同盟を結んでいると気付いたら、彼女どんな顔をするだろうね?」
「無視を決め込んで来るのでは?」
「それができるほど、出雲鏡花は楽じゃないんだなぁ」
「?」
「出雲鏡花というのは人当たりがよく、誰とでも気さくに会話をするのが信条なんだ。だがやはり機械じゃない、人間だからね。感情はあるのさ」
「そんな面倒くさい信条、必要なんですか?」
「彼女にとってはね。彼女が彼女でいられる、拠り所と言ったら言い過ぎかな? ウチの忍者が言うには、面倒くさい娘らしい」
え? なに故、忍者が出雲鏡花のことを?
「そりゃ調べるさ、彼女は陸奥屋を嫌ってるんだからね」
レベル1の頃には陸奥屋と交流を持ち、レベル2の今『まほろば』の一員と交流を持ってしまった。
我々は一体どこへ行こうというのか。
これから先、どのようなことになるのか。
それはまったくわからない。
御来場いただき、真にありがとうございました。
お気に召していただけましたら、ブックマーク登録、ポイント評価いただけましたら幸いです。