楓のお弁当
ある日の昼休みのこと。
楓、朱里、泉の3人はお弁当を食べていた。
「兄さんのお弁当は本当に美味しいです!」
「どういたしまして」
「本当に美味しそうですよね~楓先輩のお弁当」
「泉といえども兄さんのお弁当はあげませんから!」
3人は他愛のない会話をしていた。そんな時、ふと、泉の目に入った物があった。
「楓先輩?。その大きい鞄なんですか?」
泉はいつもは持ってきていない大きい鞄に対して不思議に思ってしまった。
「ああ、これ?弁当を入れてきた鞄だよ」
「お弁当?お弁当を入れるのにそんな大きい鞄なんて必要あるんですか?」
楓からの返答は泉からしてみればかなり不思議だった。楓と朱里2人分の弁当を入れるにしては大きすぎる鞄なのだ。
「それは・・・・」
「それは兄さんが他の人のお弁当を作ってあげてるからです。わたしとしては、兄さんのお弁当は独り占めしたいのでとても遺憾なのですが」
「まぁ、そういうこと。別に毎日ってわけではないけどね」
どうやら楓は他の人の弁当を作っているようだ。朱里にとっては、とても不満なことらしいが・・・。
大きい鞄については納得したが、楓が他の人の弁当をどうして作るのか泉は不思議でたまらなかった。
「それなら大きい鞄というのも納得できますが、でもどうして楓先輩が他人の弁当をつくって持ってきてるんですか?」
「ああ、それはな・・・」
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ある日の昼休みのこと。楓は男友達と昼食をとっていた。
楓は自分で作った弁当、そのほかは親に作ってもらった弁当、またはコンビニや購買で買ったパンや弁当を食べていた。
食べているとき皆が楓の弁当をみてなぜか羨ましがりはじめた。
「にしても楓の作る弁当ってさぁ、ほんとおいしそうだよな」
「確かになんか楓の作る弁当は本当うまそうに見えるよな。コンビニで買った弁当を食ってるから余計そう感じる」
そんな時、あまりにも羨ましがるのでこういってやった。
「じゃあ、今度おまえたちの分の弁当を作って来てやろうか」
「「「え?いいのか!」」」
「不味くても後悔するなよ」
「「「おう!」」」
そして次の日の昼休み。
楓は約束通り皆の分の弁当を作ってきて皆に渡した。
「「「う、うまい!」」」
弁当を食べた友達はうれしそうにみんな美味しい美味しいといってくれた。
で、食べ終った後に友達からこうお願いされた。
「「「お金払うから今度も作ってきてくれないか」」」
しかも土下座しながら。
「お、おう。まあ、そんなに手間もかからないし作ってきてやるよ」
楓は少し友達の態度に引きながらも快く引き受けた。
「「「うひょ~!やったぜ~!」」」
引き受けあとの友達の態度をみて少し友達関係を見直そうと思ったのはここだけの話だ・・・。
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「そんなことがあって、少しの間作ってやっていたんだ。まぁ別にそれくらいなんともなかったんだがその後に・・・・・・」
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それから数日、ある日のこと。同じクラスの人から楓は声をかけられた。
「ちょっといいか、楓?」
「いいけどどうした?」
楓は特に声をかけられるようなことが思いつかなかったので首をかしげていった。
「お金払えば美味しい弁当を作ってもらえるって聞いたんだがほんとか?」
「あいつらから聞いたのかな?まぁ、いいか・・・。別に作ってもいいが・・・美味しくなくても後悔するなよ」
「おう、大丈夫!よろしく頼む」
なんか弁当を作ってくれと言われたが楓はまぁいいかと思って安請け合いしたのだった。
この安請け合いをしてから数日たったある日のこと。
今度はクラスの別の数人から弁当を作ってくれないかと頼まれた。
そして次の日は別の人。そのまた次の日は別のクラスから。
日が立つにつれてなぜかどんどんと楓に弁当を作ってくれないかという人が増えていった。
さすがに楓も何でこんなに弁当を作ってくれないかと頼まれるのかと不思議に思った。そして楓は友達に何でこうなってるのか聞いてみることにした。
「最近知らないやつにまで弁当作ってくれって頼まれるようになったんだがなんでかしってるか?」
そうすると・・・
「ああそれかすごい噂になってるぞ。3組の楓に弁当作ってくれって頼むとすごい美味しい弁当が食べられるってな」
そんなことを笑顔で友達に言われた。さらに詳しく聞いてみると、どうやら楓の弁当を食べたやつが頼んだら美味しい弁当が食べられるという言っていたのを誰かが聞いていたらしくそこからなぜか広まったらしい。
いや、なんで・・と思ったがもう広がったものはどうすることもできず、諦めることしかできなかった。
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「で、その後さらに噂が広まってこうなったというわけだ」
楓は鞄を持ち上げながらそう言った。
「兄さんのお弁当は美味しいから当然ですね!でもやっぱり私は兄さんのお弁当が他人の手に渡るなんて。兄さんのお弁当は私だけのものなのに・・・・」
そして朱里はさも当然の楓の弁当褒めちぎっていた。
最後に何かすごいうつろな目をしながらなにか呟いていたが・・・。
「なるほど~確かに楓先輩のお弁当はお金出しても食べたい感じがしますもんね~」
うんうんとうなずきながら泉は答えた。さっきからうつろな目でぶつぶつ言っている朱里は視線に入れないようにして・・・。
「兄さんのお弁当は私の・・・兄さんのお弁当は私の・・・兄さんは私の・・・・ふふふふふふ・・・・」
それから昼休みが終わるまで朱里はずっとぶつぶつ呟き続けていたがだれも彼女に触れることはなかった・・・。