表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第12話 策

第11話と時間軸が続いてます。

第12話 ほんとう


 この涙がほんとうなのだ。

 こぼれ落ちる涙が。

 止まってしまえばいいと小さなあたしは願うのに、いつの間にか大きくなった何かがそれをはばむ。その何かもあたしなのだ。

 この熱くて、冷たい、矛盾した涙がほんとうの気持ちなら、あたしはどうすればいいの?

 嫌いだったのに、なんでこんなにも――。

 息がつまる。

 これが「好き」なのか。

 だったら「好き」は、なんて苦しい。

 なくなってしまえばいいと思うぐらい。でも、なくならない。

 そんな簡単じゃない。

 涙といっしょにこの気持ちも流れ落ちて、空気に晒されて渇いてしまえばいいのに。

「ねえ、キリア。あたし、どうすればいいのかわからない」

 胸がどくどくと打つ。

 泣いてると、生きてるって実感できる。

 心臓が激しく波打って、それが強く聞こえるから。


「ユア。わたしとキリュがあなたたちにきっかけをあげる。その後あなたたちがどうなるかは、ふたりで決めて」

 キリアはユアにむかって微笑む。

 ユアは水の膜のかかった向こう側に自信のある力強い笑みが見た。

「何をするの……?」

 キリアは自分の部屋だったが、用心深く周りを見回した。誰も聞き耳を立てていないのを確認すると、それでもだいぶ小さな声でユアに囁いた。

「それは、――――――――」

 ユアの目が見開く。

「そんなの駄目だよ! キリアとキリュに迷惑がかかっちゃう!」

 不思議な色の虹彩は涙に濡れていて官能的だ。そこに見えるのは、自分とキリュを心配するものと、かすかなおびえ。

 予想通りの反応だ。予想と同じすぎて、思わず笑ってしまう。

「だいじょうぶ。あのね、ユア。わたしたちも欲しいものがあるの」

 失敗したら大変なことになる。

 今までよりも、より悪く。

 それに対する不安を自分だって、おそらくキリュだって持っている。

 でも、もしうまくいったら――


 わたしたちは幸せになれるのだ。



  ◆ ◆ ◆


 キリアと話をして数日経った朝。

 城左賀家は朝から騒ぎ立っていた。

 ユアは朝早くに侍女に起こされ、共同区画にある父親の書斎に呼び出されていた。

「なんでしょうか、父さま」

 ユアは騒ぎの根源が何かわかっていたが、不安そうな顔をつくり、父親であるハクマに訊ねる。ハクマの表情には焦燥が感じられる。

「面倒なことになった」

「何がでしょう?」

「図戯が、今日お前にかよいにくると言ってきた」

 イライラした様子でハクマがそう言う。

「え……」

「まったく何を考えているのだか……」

 威圧感のある目が厳しく細められる。

 ハクマは仕方なさそうにいちどため息をつき、やがて決心したようにまっすぐユアを見て言い渡した。

「とりあえず、今日は女学校にはいかなくてよい。身を清めておけ。かよいならば必要だ。

 あと、このことは広めないようにする。使用人たちにも細心の注意を払わせる。だが、富凪には伝える。私は、お前の相手はもう決めているのだ」

「わかりました」

 ユアは返事をすると深々と頭を下げた。父さまに気づかれないように、そう祈りながら。自分がそれほど演技が得意でないと知っていたから。



 ユアの部屋の窓からは森と空しか見えない。だからユアには日が地平線に沈んだかどうかわからない。

 日が沈むのが合図なのだ。

 だがユアは、鮮やかな緑色だった森が深緑になっていきだんだん黒ずみはじめ、木々の天辺に日が沈むのしか確認できない。あとは空の色が頼りだ。

 彼女は不安で、もやもやとしながら待っていた。

 そして、空が高いほうから侵食されるように闇色になったとき。


 部屋にキリュが入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ