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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

irony

作者: 中納 薗子

「このクソアマ!!ブチ殺すぞ!!」

怒鳴りながら手当たり次第の物を破壊していくショウに泣きながら怯えるふりをしつつ私は冷静に(一通り暴れてガス抜きしたら、どうせ泣いて謝ってくる。早く終わらないかな。)

なんて事を考えていた。

「てめーみたいな女は一生クソみたいに生きてくんだよ!」

(ここで言い返すと火に油注ぐなぁ…)

「ごめんってば、ごめん。」

「おまえ今鼻で笑ったろ?馬鹿にしやがって!!」

言い終わる前に私は腹部に前蹴りをくらった。

膝から崩れ落ちてうずくまる。

(今日はこれで終わりかな…)


そんな事を冷静に考えられるようになってる時点で私は狂っていたのだろう。

冷静なつもりでも、正常な判断力は多分とっくに失っていたというのに。


1.


深夜2時私は1人いてもたってもいられなくて部屋を歩き回っていた。

インターホンが鳴ると玄関に飛び出してショウを部屋に入れた。

手にはクシャクシャに、なったコンビニ袋が握れていた。

「…成功したの?」

「とりあえず、なんか飲みたい、タバコ…」

タバコに火をつけたショウはコンビニ袋をひっくり返して中に入っていた現金をばら撒いて数え始めた。

一万円札が10枚ほど、五千円札千円札が20枚ほどと、小銭が数万円分。

「20万ちょっとじゃん…。」

ある日、同棲してる男が言い出したのは「今日コンビニ強盗してくる。」そんなスリル味合わなくていい、金は働けばなんとかなる。

そんな、常識もない男だったんだ、ショウっていう男は。

「これあげる。」

と、私は一万円札を一枚渡された。

ショウの目的は口封じと私にも罪の意識を持たせるためだとわかっていたので躊躇したが、受け取った。

「これで、共犯だから。」

(やっぱりそれか。)

ため息すら出なかった。

じっとりと嫌な汗をかいて、バカで愛しい男の顔を見ていた。


2.


アルミホイルを丁寧にティッシュで擦る。

皺一つなくなったら円錐状に丸くして持ち手になる部分を細くして完成。

長細くて円錐のちり取形になったアルミホイルの上にパラパラと粉末を乗せて、ライターで気化してガラスのストローで吸う。

充分に吸い込んだら息を限界まで止めて吐き出す。

ショウはスピードをやると、涙もろくなり暴力的になり素直になる。

スピードさえ、与えていれば彼は私を殴らない。

スピードさえ、持っていれば彼は私に逆らわない。

普通の高校を卒業して堅苦しい家を飛び出した私は20歳にして立派な売人になっていた。


3.

私は、新宿の喫茶店で待ち合わせをしていた。

「あなた、ユイさん?」

片言の日本語で浅黒い肌のガタイのいい男性が話しかけてきた。

「はい。」

男は正面に座るとアメリカンを、注文して、「で、どいつやればいいの?」と単刀直入に聞いてきた。

焦って周りを見回すと、誰も私達に関心なんかもってなさそうで、ほっとした。

「この男なんですけど…。」

ショウの写真と携帯番号、勤務地、よくいる場所、生活パターンをまとめた物を男に手渡した。

一通り目を通した男は、顔をあげて「20万でやるよ、でもその後のことは知らないよ。あなたのとこ、警察くるよ。」とあっさり言った。

この生活から抜け出せるなら、ショウを殺してくれるなら、安いもんだ、20万なんて。

「…お願いします。」

「半分前払いね、あとは終わってからでいい、死体は確認する?」

「いいえ、結構です…あの、死体はどこに?」

「それは、大丈夫、見つからないよ。私不法入国ね、パスポートも全部偽名、この世に存在してないね、別のパスポートで国に帰るから心配いらないよ。」

私は今始末屋と話をしているんだ、始末屋って、言うのは結局殺し屋なんだな…まぁそのつもりだったからかまわないんだけど。

「今週中にはやるならね、あなた、どこか遠くへ行ってて。」

私が差し出した10万円を受け取ると男はアメリカンを飲み干して席をあとにした。


4.

「ユイ、帰らなくて大丈夫なの?」

友人のマオの家で、私は時間潰していた。

目には眼帯、眉上には3針縫ったばかりの傷跡。これの、おかげで仕事もクビ。アパレル販売員が男に殴られて仕事になるわけがない。

マオはショウから匿ってくれる唯一の友達。実家暮らしだから、マオの家族と食事してアリバイも証明される。

「暴力、ひどくて。しばらく、泊めてもらっちゃダメ?」

「ユイさ、別れなよ。本当もう見ていられない。」

(別れるなんて言ったら殺されるよ。だからその前にこっちが殺すんだ。)

「優しいところもあるから…。」

実際私はショウとの生活に2年耐えた、極度の恐怖と犯罪への加担、罵倒暴力。ショウにお金を取られているから逃げる金もない。

まともな判断力は少しも残っていなかった。

(ショウの強盗してきたお金でショウを、殺す。)

働かない脳みそが出した結論がこれだったのだ。


5.

ショウは友達に私の行方を聞いて回ってるようだが、マオのところまでは追手は来なかった。

家から徒歩5分の女友達の実家に隠れているなんて思ってもみなかったようだ、あの単細胞は。

別の男のところに居るんでは?と血眼になって、探しているようだが私に直接連絡してくることはなかった。

ショウはプライドが高い。ショウは自己愛しかない。ショウには私という暴力とストレスと性欲のはけ口の、弱者が側に必要なのだ。

ショウに殴られた傷はしっかりと跡になった、左目の視力は低下した。

ショウと共通の友人達は私の顔を見て何も言わなかったし何もしてくれなかった。

こいつらになんか最初から何も期待していないんだから。

ショウがコンビニから盗んできた20万、それでショウを殺すんだから。


6.

携帯電話が鳴った。知らない番号。

ショウかもしれない、と思ったが迷わず出た。

「ユイさん、終わったよ」

片言の日本語が私にそう、伝えた。

「ありがとう、残りのお金、こないだの喫茶店でいい?」

「いや、もう、顔お合わせるの危険ね、〇〇のマックに2時に席で拾ったと財布に入れて届けてね。私の友達が、あとで回収するからね。」

「わかりました、ありがとうございました。」

お礼を言うのは少し変かと思ったけど、わたしが消費者なわけだし。

でも気分は最高だった。

1週間ぶりにショウと暮らしていた部屋に帰ることにした。


7.

鍵は開いていた。

部屋は一見変わった様子がないが、玄関マットには足跡、その周辺には血痕が数滴落ちていた。

(あの値段じゃこのくらい、仕方ないか。)

玄関マットを、洗濯機に入れて血痕は何で拭いたらよいのかわからずマニキュアの除光液をコットンに含ませて拭った。

念のため念入りにチェックして掃除して、マクドナルドまで自転車で向かった。

気持ちは高揚していた。きっとショウもコンビニ強盗した後はこんな気分だったのだろう。

 

8.

300円均一で安い男性物の長財布を買ってマクドナルドに行き、コーラを2階席でのんびり飲んでから約束のお金を忘れ物として店員に届けた。

始末屋の男はきっと、数分前に店を出て私が来るのをどこかで見張っているだろう。

これで、やっと、終わったのか?

ショウが行方不明になっても疑う人間なんて誰もいない。

ショウが、私の部屋から出て行ったことに驚く人間もいない。

マクドナルドの帰り道ショウが強盗に入ったコンビニで缶ビールを買い込んだ。

今日はお葬式だ、ショウの誰も知らないお葬式。

私がしてあげないとね。

 

9.

家に残っていたスピードをすべてトイレに流した。

もうこんなものは必要ないし、携帯の番号も変えた。

ショウの写った写真を見ながら缶ビールを飲み干す。

(今頃死体はどうなったんだろう、一体どんな、殺され方をしたのか、どんな風に命乞いしたのか、見たい。知りたい。あの男の無様な最後が。)

笑いが止まらない、自分の盗んできたお金で自分の女に殺された惨めなショウを、思うと笑いがとまらない。

(ショウも、自分の子供殺してるんだからお互い様だよね。)

私はもういないはずの、そこに、手を当てた。少し、涙が出そうだったけどショウへの涙ではもちろんなかった。


10.

ショウと暮らした部屋から海の近くに引っ越した。

これで私とショウとその周辺とは、完全に縁が切れたのだ。

新しく仕事を見つけて、新しい綺麗な家具をゆっくり揃えて。

(気持ちがいい。私はもう自由なんだ。)

インターホンが鳴る、きっとさっき注文した酒屋がキンキンに冷えたビールを届けに来たんだ、浮かれてドアを開けると、ドアに足を挟み込んで男が押し入ってきた。

「あんた、なんで…?」

「国に帰る前にも少しお金必要。あなたの彼、倍払うって。」

あーあ、引越しで貯金使い果たしちゃった、ショウは次はどこからお金盗んできたんだろう。なんて考えて私はいつも冷静だ。

そして大バカだ。

「あなた、どーする?」

男が手に持ってるのはあの、有名なトカレフってやつかな。

お父さんお母さんお姉ちゃんごめん。私もうダメみたい。

死んだら週刊誌に美人OLって、書いてもらえるかな。卒アルとかテレビに出ちゃうのかな。

後頭部に衝撃があったと思った瞬間私は気を失った。

 

11.

目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。暗闇で周りの様子はよくわからないし、何かで体を縛られてるらしく身動きもとれない。

(今から殺されるのか。それとも、女はどっかに、売り飛ばされたりするのかなぁ。)

不思議と怖くなかった。

ショウとの暮らしで恐怖で麻痺した脳みそは死んだほうがマシ そんな事考える事にしか使っていなかったから。

暗闇に目が慣れると、もう1人誰かいるような気配がする。

「…誰かいるんですか?」

「ユイ?」

その声はショウだった。

「ユイ、助けに来てくれたのか?俺多分シャブの売り上げ持逃げしたのバレて変な奴にさらわれたみたいで、消費者金融何社も回らされて…おまえ探してくれてたんだろ?助けてくれ!一緒に逃げよう!」

涙声のショウ。女子供には強気だけどヘタレのショウ。

ああ、そういうことか、始末屋のほうが数段上手だ。さすがプロ。20歳そこそこの小娘じゃ、かなわないわ。

きっと、あの男は私たちから搾り取れるだけ搾り取ってから殺すのだろう。

お互いの縄をといて、自由になったところでショウは私を抱きしめてきた。

「ユイ、ごめんな…。」そういっておいおい、泣き出した。

(ごめん、私の蒔いた種。バレたらこいつに殺される。その前にあの男を殺さなくちゃ)

「ショウ、私いろいろ調べたの。あの男は偽装パスポートで日本に来てる中国マフィア、私達殺されると思う。」

「そんな!どーしたらいいんだよ!!」

「大声出さないで、一緒に逃げるよ。見張りはいない?」

「あの男しか、出入りはしてない。多分、他に人は見ていない。」

2週間近く監禁されてたショウが言うならあの男の単独行動だろう。

「いい?あの男が、帰ってきたらトイレに行きたいって言って、男がショウの縄を解きに来た瞬間押さえつけて?必ず、離さないで?あとは私がなんとか、逃げ道を作るから。」

「…ユイ、大丈夫なのかよ、俺殺されるよ。」

「ショウ、大丈夫、きっとうまくいく。一緒に逃げよう。逃げたらあとはなんとかなる。信じて。」

情けない男。かつて、好きだった男。嫌いになるのは一瞬だ、でも情がなくなるのは時間がかかる。そんなもんだ女は。

玄関の鍵が、開く音がした。

「ショウ、大好きだよ…必ず逃げよう、また、一緒に暮らそう。」

ショウは、目で合図すると男にトイレに行かせてくれと訴えた。

私はまだ気を失ってるふりをして、ショウが男に飛びかかった瞬間に跳ね起きた。

「ユイ!早く!」ショウが男を羽交い締めにしてる間に腹部を弄って、見つけた。トカレフ。

これって安全装置とかあるの?引き金打てばいいのか?なんて考えながら男の腹部に打ち込んだ。


12.

ピストルで相手を殺す時は必ず2発と何かの本で読んだからもう1発撃った。血が噴き出して男の体から力が抜けたのを確認してショウが泣きじゃくりながら抱きついてきた。

「ユイ、ユイ、本当にいろいろごめんな…ユイ、なぁユイ逃げよう早く。」

私はもう一度引き金を引いた。さすが、至近距離、外す事はなかった。

ショウの腹部から血が溢れた。

「…ユイ?」

「ショウ、お金はどこ?」


エピローグ


なにかの本で読んだように指紋を拭き取ってショウの利き手にトカレフを握らせた。

部屋に落ちているコンビニ袋に200万詰め込んで急いで部屋を後にした。


20歳そこそこの、小娘だから警察が、来たら一発で嘘ついてる事なんかバレちゃうだろうな。


早く部屋に帰ってシャワー浴びたい。

ショウの体臭が染み付いた自分自身が汚らわしくて仕方ない。

私は大バカだけど冷静なんだ。


部屋を出て表通りに、出てすぐにタクシーに乗り込んだ。黒いワンピースだから血の跡は全然わからない、よかった黒が好きで。

「どちらまで?」

運転手の問いに私はいつまでも答えられなかった。

一体どこにいけばいいの?

「とりあえず、お風呂に入れるところで。」

お風呂に入り終わった頃には、私はきっと全て忘れてる。

だって大バカだから。



初小説 短編です。

お見苦しい誤字脱字ばかりかもしれませんが暖かく成長を見守って頂けると幸いです。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

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