夜中の弁当屋
「美樹~おはよー。」
いつもの様に、可奈子がバス停で私の背を叩きながら
、声をかけてきた。
「…可奈子おはよ…」
「どうしたの美樹?凄く寝むたそうだょ?」
「昨日なかなか寝付けなくて…ふぁ~」
「悩み事かな?この可奈子姉さんが聞いてあげよう♪」
寝むたい時に、この底抜けに明るい可奈子のテンションはキツい物がある…
「大丈夫…悩み事ではないから~」
親友の可奈子なら、昨日の田辺先輩とのやり取りを言っても大丈夫かな?と一瞬思ったが、やはり止めとこうと思った。万が一でも、可奈子から話が回りでもしたら、今度こそ「私の命日」になりかねないと思ったからである。
その日一日の学校生活は、眠気との戦いでもあった。
窓際の美樹の席は、天気が良ければ心地良い風や陽射しが眠気を誘う。
ましてや、今日は寝不足気味ときたものだ。ダブル…いや、トリプルパンチを繰り出してきているのだ。
ノックアウト寸前の攻防を、なんとか制してようやく放課後。
「ダメだ、今日は部活を休もう…」
そう思い担任兼部活顧問の上原先生に許可を貰う。
「体調が悪いの?なら仕方がないね、早く帰ってゆっくり休んでね、幸い明日から土・日だし、ゆっくりね」
少し罪悪感はあったものの…
「ありがとうございます。」と言って、そくささと荷物を取って学校から出る。
親友の可奈子には、上原先生の所に行く前に話をしておいた。
「今日ずーと寝むたそうだったもんね(笑)この可奈子姉さんが許す、帰りなさい(笑)」
そう笑って、放送部に消えていった。
家に着いたのは、午後5時…こんな時間に家に帰るのは久々だった。
「ただいま~」
玄関のカギを開けて家に入るけれど、いつもの「美樹ちゃんお帰り~」の声が聞こえてこない。
買い物かな?今日は料理教室の日ではないと、知っていたのでそう思っていると、リビングの置き手紙に気づいた。
「美樹ちゃんへ 以前から言ってた様に、今日はママは友達と温泉旅行に行ってきます~日曜日の朝には帰るからね。大好きな美樹ちゃんへママより。」
そうか…先週そんな事言ってたっけ…
眠気に思考能力が下がっていた美樹は、リビングのソファーに横になると、いつの間にか眠っていた。
「ふぁ~」
美樹が目を覚ましたのは、午後10時を少し回った頃だった。
「お腹減ったな…」
晩御飯を食べようと、冷蔵庫を除くが何も無い…
そっか…買い物して自分で作って食べてねって、言ってたっけ…
美樹ママは、余りにも美樹が料理下手なので、料理に慣れてもらうべく、食事の仕度をせずに旅行に出掛けたのだった。
「買い物代にお金貰ってたな…」
「よし、コンビニにお弁当買いに行こう♪」
この時点で、美樹ママの目論みは崩れおちた…
家から自転車で5分の距離に、コンビニが2件程ある。しかし、時間が時間なのか、弁当類やオニギリ類は良いのが残っていなかった。
「そう言えば、駅の近くの商店街に、お弁当屋さんがあったな…何時迄だったかな?」
普段は美樹ママが家で作るので、弁当類は買う事が無いが、休みの日に美樹ママと一緒に、商店街に買い物に行く時前を通っていた。
駅近くの商店街は家から10分の距離だ、このコンビニからは公園を抜ければ、すぐの距離なのでダメ元で行ってみる事にした。
程なくして、商店街に着いた。時間が時間なのでシャッターは殆ど閉まっている。
だだ、駅近くの為小さな居酒屋やスナック等があり、まばらではあるが、人通りもある。
お目当ての弁当屋を見つけた。外の看板に営業時間は、午前10時~午後10時30分と書いてある。
「良かった~今午後10時20分!ギリセーフだ」
「ガラッ」
弁当の暖簾をくぐり、中に入る。
「いらっしゃいませ!」
奥から威勢良く、店員が出て来た。 そして、固まる美樹。
「た…田辺先輩?」
「?…あぁ~昨日の…たしか美樹ちゃんだったかな?」
すでに美樹の頭はパニックをおこしていた。
「え!!な!!え~」
そんな美樹を見て笑いながら、声をかける新。
「お客さん、弁当何にしますか?(笑)」
その声に我に返る美樹。
「は!!え~と…え~と…」
「オススメ弁当は、ハンバーグ弁当だよ。ここのハンバーグマジ旨いから♪」
「あ、じゃあ~それ下さい。」
「はいよ!!みやびさん~ハンバーグ一丁~」
「了解~♪」
店の奥の調理場から、不思議な高くて野太い声が聞こえた。
「少し待っててな(笑)」
そう言って田辺先輩は奥に消えていった。
時間にして、10分程だろうか?奥から弁当を持ってきた人は、田辺先輩ではなかった。
「お待たせしましたぁ~ハンバーグ弁当ですぅ~♪」
出てきたのは、何て形容すれば良いのか?わからない風体の人。
たぶん先程田辺先輩が言った、みやびさんって人何だろうけど…
「ハンバーグ弁当650円ですぅ~」
美樹は財布から千円を渡す。
「ガラッ~」
外から田辺先輩が入って来た。
「みやびさん、看板の電気切りましたよ」
「了解~恵介君、ありがとう~♪」
美樹はお釣りと弁当を受け取った。
「マジ、ハンバーグ旨いからな(笑)」
笑いながら、美樹に恵介が声をかけた。
「あら?お知り合い?」
「高校の後輩なんすよ~(笑)」
「そうなの?じゃあ~恵介君もう上がって良いから、その子を家迄送ってあげて♪」
「え?でも片付け残ってるし?」
「それは私がするから、こんな時間に女の子一人で危ないでしょ?酔っ払いも多いし…」
美樹を見ながら、みやびさんとやらは、そう言って恵介に帰る様に促す。
「わかりました、じゃあ~又明日すね?お疲れっした~お先です」
「ちゃんと送ってあげてね~後これ、恵介君用の今日のまかない弁当~」
「みやびさん、いつもあざ~す!!じゃあ~美樹ちゃん帰ろうか?」
「え?は!はぃ…」
いまいち状況が飲み込めない美樹であったが、とりあえず田辺先輩の言う通りに店を出た。
「美樹ちゃん家近く?」
「は、はぃ!!」
「こんな遅くに、どうしたの?」
「あ、え~と…」
落ち着きを取り戻した美樹は、恵介に一通りの説明をした。
「そっか~温泉旅行良いなぁ~俺も行きて~(笑)」
美樹が聞いていた、「怖い」噂は全部違うのだろうか?と思わせる恵介の笑顔だった。
「ひとつ美樹ちゃんに、提案有るんだけど?」
「なんですか?」
「美樹ちゃん帰っても一人だろ?俺とそこの公園で、弁当食わない?」
こんな時間に、お弁当屋に行くのも初めてなら、夜に外で弁当を食べるのも初めて。初めてだらけに、美樹は心が、少しワクワクしていた。
「はい、お願いします。」
「お願いしますって(笑)やっぱ美樹ちゃんって、面白れ~(笑)」
自分の言葉使いが、ヘタな事を実感して、顔を真っ赤にさせる美樹。
「はずかし過ぎて…死ぬ!!」
そう思いながら、自転車を押して歩く美樹だった。