~ドアはちゃんと閉めるんですよ~
久しぶりの。
目の前に右手の人差し指がある。顔を寄せてギューっと指を見て、それから裏から覗きこんでじっくり全体を見てみる。また正面に目を戻すと、奥の方に、眉毛をキュッと寄せた顔がこっちを見ている。コルドはそちらの方をチラと見て、そっ、と人差し指を奥に動かすと、人差し指が姿を消した。
「イテテテテテ!!!オオウ、イテテテ!」
コルドが前に垂れた顔を、再び首の上に持っていくと、隣でサンダーが、座ったまま右手を高く掲げている。足で地団太を踏み、頭を下にもたげ、机に伏している。左手は右手を下から包み込み、右の人差し指は、最近LEDに変えたばかりの天井照明を指さしている。
「信じる神の復活を目の当たりにでもしたのか、その祈りは。」
「そうだったらまだよかったんだがなー!お前曲げるの強すぎるんだよ!」と、サンダーはコルドの背中を左手でドカリと殴った。それも左肩に近い当たりの。
「イテテテテテ!!!アアウ、イテテテ!」
コルドは左肩を抱えながら机に体ごと倒れた。サンダーも、しばらく唸っていたが、やがてその掲げた右手ごと机に倒れた。
二人はしばらくそのまま机に体を預けていたが、「二人とも、そろそろ仕事しなさいよ。」との声と共に、ガッシリと頭を掴まれ、ぐいっと引っぱられて、二人はまっすぐな姿勢に戻された。いや、まっすぐではなかった。少し戻しすぎたのか、コルドの足がテーブルから離れた。今日二度目か。とコルドは思った。
コルドが気が付くと、目の前で、ダイナが両手を口の前で合わせながら、肩を寄せて座っていた。彼女は目を閉じながら、「ごめん!ごめんよ!大丈夫!?」と、繰り返している。
「君が・・・一番・・・強すぎるんだよな・・・っつ・・・って・・・」と、サンダーが頭を抱えてゴロゴロ、右に左に転がっている。コルドは足を左に投げ出して、のそっと立ち上がり、椅子を立たせた。転がっているサンダーを見ると、抱えている頭はともかく、右の足から血が出ていたことに気付いた。
「おいおい、血が出てるぞ。」と、コルドが言うと、サンダーとダイナは跳び上がるように驚いて、サンダーの頭を触りながら、耳に痛いくらい叫んでいる。彼らの勘違いにコルドが気付いて、足からであることを伝えると、しっかり出どこを言えと怒った。少々納得がいかないながらも、コルドは、指を傷口の上に構えて、水を数滴落とした。
「お、サンキュー、コルド。でも、その水大丈夫か?」
「大丈夫とは、何が。」
「いや、その、あれだ。お前の汗とか混じってねえのか?それ。」
「フン、いいかサンダー。私の能力は水を操ることで、別に体から水を出しているわけじゃない。詳しい現象は私には説明できんが、空気中から水を生み出しているんだ。それに、衛生面に関しては、おやっさんにもテストしてもらっているんだ。ですよね?」と、コルドはおやっさんの方を見たが、彼は別の方を見たままで、話を聞いていないようだった。
「まあ、それならいいや。」と、サンダーは一応納得した。傷口も綺麗になったので立とうとする彼をとめて、とりあえず消毒だけでもしておこうとしたコルドは、さっきまでそばで心配そうに見ていたダイナが、そこにいないのに気がついた。ハッ、として周りを見渡すと、店の中にもいないようである。その能力とは裏腹に、彼女が繊細なのは、この組織に誘った当初からであった。ツンツン、とおやっさんがコルドをつつき、入口のドアを指さした。見ると、ドアは開け放たれていて、外の暗いのが見えていた。どうやら出ていってしまったようである。
サンダーの消毒をおやっさんに任せて、あれから再び寝ていたらしい首領を連れて、コルドは店の外に出ていった。後ろから目をこすりこすり付いてきた首領が、ドアを閉めずに歩いていくので、コルドは戻ってドアをキチリと閉めた。
「ドアはちゃんと閉めるんですよ。」と、首領に注意しようと指を指しながらコルドが振り返ると、すでに首領は、右の角を曲がったのか左の方へ歩いて行ったか、見えなくなっていた。コルドは伸ばしかけた手で頭をカリカリと掻いた。ドアなど、どうでもよいことではないか。彼は頭を掻きながら、トコトコと右の角の方へ歩いていった。
はたして首領は左の角を曲がっていた。彼は目をこすりながらフラリフラリと歩いていた。街灯を一つ、一つ数えつつ歩いていく。ふとカレーの香りがして右の家をピキッと見た。そういえばおやっさんのご飯をまだ食べていない。首領はクルリと後ろを向いたが、ブルルと顔を振って再び前を向いて歩きだした。
このあたりの家は一階建てが多く、背が低いので、奥の景色が良く見える。左を見ると家の奥に地平線、ではなく、堤防がずーっと横に伸びている。首領は十字路でチョコリと止まり、堤防の方へ歩き出した。
まだ書けるでぇ。