~時間だ~
展開が遅い!遅い!まあいいや!
サンダーと首領が転がり疲れて眠ったので、ようやく部屋の掃除を開始することができた。私は、床に散らばった毛糸を、ガムテープでペタペタして取った。床が薄赤く照らされ、毛糸を見にくくする。二人の寝息と、ガムテープのバチバチという音が、こだまのように交互に鳴っている。まあ、私のさじ加減なんだが。
ちゃぶ台の周りが綺麗になったくらいのころに、突然サンダーがガバッと起き上がり、「時間だ。」と呟いて立ちあがった。彼はおもむろに右手を、ぎゅっと握って顔の前に出し、カッと開いた。薄暗かった部屋が一瞬明るくなったかと思うと、彼の掌の上で、青白い光がヂババッと音を出している。よく見ると、彼の指先から電流が走っていて、手の中央に向かって集まっているのがわかる。彼が再び手を握ると、その光も消えた。
私がガムテープでペタペタしていた間、ずっとバーベルを上げ下げしていたダイナも、「そう、時間ね。」と言って立ちあがった。彼女が肩を回すと、バキバキと音がする。その肩にいくらほどの筋肉がうごめいているのかわからない。
そう、彼らはただの遊び人ではない。私が見つけ出した、悪の秘密結社の優秀なメンバーである。その特別な力は、何にしろ、我が秘密結社に必要不可欠なものなのだ。もちろん、私もその力を生まれ持った者の一人である。さあご覧いただこう。私はゆっくりと立ちあがり、「さあ、行くぞ。」と言いながら、手をまっすぐ前に突き出して・・・
「コ、コルド?ガムテープを突き出して何をする気なんだ?」
まだ寝ている首領と、ちゃぶ台にベタリと頭をくっつけて足をバタバタしている私を置いて、サンダーとダイナは階段をゆっくりと、胸を張りながら降りていった。下の階では、白いシャツの上にチョッキを着たマスターが、ワイングラスを、中を覗き見ながら洗っている。チラリと見える首元に、キラリと光沢付きの蝶ネクタイをしている。
「おやっさ~ん。やろうか~。」と、サンダーが声をかけると、おやっさんと呼ばれたそのマスターは、洗っているままの姿勢でグルリと振りかえり、ワイングラス越しに二人を見ると、コクリと首を縦に振った。おやっさんは、ワイングラスを置き、着ていたチョッキを脱ぎ捨て、タンスから割烹着を取り出し、クルリと頭上を回して羽織るようにした・・・と思ったらもう着ていた。そして、かがみこんで棚を開け、フライパンとボウルにまな板、お玉に菜箸を取り出し、キッチンの上に、一つずつ並べて置いた。
おやっさんは、首を横にひねり、階段下で立っている二人をキッと見た。二人はコクリとうなずいて、厨房に入り、タンスから二つエプロンを取り出し、またクルリと羽織って着た。
「にひゃくごじゅうにぃぃぃーー・・・。にひゃくごじゅうさぁぁぁーーーん・・・。」
「ムニャムニャ・・・あれ・・・。コルド。何やってるの・・・?」
「ちゃぶ台の木目を数えてるんです・・・。
正直割烹着は正月にしか見た事がないです。