プロローグ ~普通にストーブをつけてください~
とりあえず思いついたら書く。
すでにガタがきている横開きのドアを開くと、ベルが鈍い音でカリンカリンと鳴った。コルドは、ドアを丁寧に閉めて、黙々とカップを洗うマスターを横目に過ぎ、カウンター横の階段をのぼった。急な階段を勢いをつけてのぼると、キシキシと音がする。
階段をのぼった先は、まるごと大きな部屋になっていた。部屋の一番奥、赤いカーペットがまっすぐひかれた上に、巨大な椅子が立っている。背もたれの頂点にはドクロがポツンとはまっており、ちょうど目が合う・・・という物々しいのは全く奥だけの話であって、赤いカーペットが早々に途切れた先は、ただのフローリングの床が広がっており、中央で巨大な存在感を示すちゃぶだいの上に積まれたゲーム、ゲーム、ゲーム、トランプ、ゲーム、ゲーム・・・が視界の大部分を占める。ちゃぶだいの横にも、クマやネコ、イヌのぬいぐるみが重なり合って小さな山を形成している。コルドは、その前に立ち、足を肩幅に開き、腕を大きく振りかぶって、そのぬいぐるみ山に手を突っ込んだ。
ぬいぐるみの中からは、真っ黒くて大きな、ラグビーボール状のものが出てきた。コルドはそれをちゃぶだいの前にそっと置いたてから、ボールの向い側に座って、ちゃぶだいに片肘をつき、向かいのラグビーボールをぼうっと見つめた。
ラグビーボールが、のそのそのそのそと動き、ブルリと横に揺れたかと思うと、むくり、と中から人の顔が出てきた。向いに座ったまま、肘にあごを乗せたまま、その顔をざっと見渡した。たった今ぬいぐるみから発掘されたばかりの男の子の髪はワシャワシャとして、茶色い毛糸がたくさんからまっている。
「おはようございます。」とコルドが居住まいを正しつつ言うと、彼はどうにかやっと「んん・・・おはよう・・・。」とだけ言うと、頭をがくりと倒し、フラフラと揺れ始めた。気が付いたら寝ているのは、いつものことではあったが、コルドはやはり言わねばと思い、少し乗り出して喋りだした。
「またなんでぬいぐるみの中で寝ていたんですか。うるさいようですが、あなたは我ら悪の秘密結社の首領なのです。せめて形だけでも首領らしく、威厳をもって、強そうにふるまってください。折角椅子も用意したのに、どうせなら使ってくださいよ。」
「うん・・・うん・・・。」と、首領は首をコクコクさせた。
やれやれ、これは聞いていないな、と、コルドはため息をついて立ちあがり、胸ポケットからクシを取り出して、彼の髪を整え始めた。クシがよくひっかかるのを、少々強引に走らせて、バサバサと毛糸を落とすと、先ほどのモシャモシャが嘘のようにサラリとまっすぐした髪になった。
頭をシャカシャカとやられたために彼の目も覚めた。改めてみてみると、まだまだ垢ぬけなくて、パッチリと大きな目をしている。
「いやーぬいぐるみを集めたら、あったかくなっていいかなと思って。」
「普通にストーブをつけてください。」
どのくらいの長さで分けたらいいのか正直わからない。