アンドロイドの矛盾、その果て
結局自分は彼女を救えたのだろうか。
ディスに撃たれる刹那、『ディス』は考えた。
自分は未来の存在で、アルヒェが死ななければ今の自分はいない。
アルヒェが死ぬことが回避されれば、どちらにせよ『アルヒェを救えなかったディス』という存在は消えてしまう。
なら、自分のこの意識はどこに消えてしまうのだろうか。
どこまでが撃たれる一瞬の間だったのか『ディス』にはわからない。
何もかもが手のひらから零れ落ちていく。
記憶、自我、アルヒェ、ベル、カナル。思考も何もかもが『ディス』から消えてしまう。
果ては『ディス』の存在そのものが――。
――DIS001、起動――
D1は目を開ける。
固定された手足を若干不快に思ったが、D1は何も言わない。
『スケイルクレスト社DISシリーズ001号』
それがD1を表す記号だった。
彼にインストールされた記録によると、D1と同時期に同仕様のD2が造られているはずだった。
自分とD2の実戦配備によるデータで、より良い後継機が造られる。
D1の起動に成功したことで、作業着を着た人間が、タブレットを手に近寄って来た。
これから正常に起動したかどうかのチェックが入るのだろう。
身構えるD1の電子脳に揺らぎが生じる。
まだ見たことのある人間といえば、この部屋の中の人間だけだというのに、ぼんやりとした少女の輪郭。
バグにしてはおかしなものだ。
起動したての戦闘型アンドロイドに、何故そんなデータが混入する?
不思議に思いながら、D1に様々な質問を投げかける人間には何も報告はしなかった。