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アンドロイドの方舟  作者: 流堂志良
外伝~お兄ちゃんとアルヒェの話~
10/15

【外伝】アンドロイドの家族2

 D1が初めてアルヒェと出会ったのは、とある研究者夫婦に引き取られた後だった。

 初任務後、銃撃訓練のたびにオーバーヒートを起こし、製造した工場に戻されたのだ。

 そこで、彼は自分が何のために実戦へ配備されたのかを知る。

 DIS001は実質プロトタイプとして製作された。

 全てはDIS002以降の機体ため。

 彼自身、自分の感情の起伏は理解していて、それが実戦で足を引っ張るだろうと予感はしていた。

 わかっていても、人間に逆らう事などできず、結果として壊れかけたまま研究者の夫妻に引き合わされた。

 夫婦はD1の開発に携わった人間たちと何か難しい話をしていたようだ。

 D1は彼らの話をただぼーっと聞いていた。他にできることは何もなかった。

 その後、D1は一度休止させられ、再起動する。

 再び目覚めた時には、所有者登録が書き変わっていた。目覚めた場所も。

 D1が体内の時計を確認すると、いつの間にか数日が経過をしていた。

「貴方にお願いしたいことがあるの」

 会話チェックなど、様々な動作チェックの後、D1は夫婦の妻に声を掛けられた。

 命令ではなく、お願い。これはいったいどういう事なのだろうか。

「命令……ではないのか」

「ええ、断ってくれても全然かまわないわ。ただ、聞いてほしいの」

 そして、D1に告げられたのは夫妻の娘の存在だった。

「今の貴方には酷かもしれないけれど、私たちの娘の護衛をしてほしいの」

 詳しくは説明されなかったが、夫妻の娘には何か特殊な能力があるらしい。

 もしかしたら狙われるかもしれない。それを守ってほしいのだそうだ。

 拒絶してもいい、と言われたがD1は拒否しなかった。

 彼らに連れられて、訪れた夫妻の自宅には何重もの警備が仕掛けられていた。

「私たちは研究で家に帰らないことが多いから、全てアンドロイドや他の機械に任せてしまっているのよ」

 そんな事を言って彼女が鍵を解除し、扉を開ける。

「あ、おかえり。ママ」

 そこには少女がいて、ワンピースをひらひら翻し母親に駆け寄っていった。

「あのね、ママ! ルードの調子が悪いの!」

「あらあら。調子を見ないといけないわね」

 少女は母親に抱きついて何やら報告している。母娘のやりとりがひと段落すると、少女はD1に視線を移した。

「……っ!」

 正面から真っ直ぐに向けられた視線にD1は思わず後ずさった。ただの視線のはずなのに、無垢な瞳がD1を射抜いたように思えて彼は視線を逸らす。

 見抜かれたように思ったのは、少女があの時殺してしまった少女と同じ年頃だからだ。そう彼は思った。

「アルヒェ、今日からアルヒェのそばにいてくれるアンドロイドよ」

 護衛だとは言わずに母親はアルヒェに告げる。D1は母親が名前を紹介もしないので、ただ黙って立っていた。

「お名前は?」

 少女が笑いかけてくる。

「私はね、アルヒェっていうの」

 あの時殺した少女の姿が目の前に浮かぶ。違う。違うのはよくわかっているのに。

「ねえ、お兄ちゃん?」

 ぐるぐると記憶の再生が始まろうとした時、アルヒェの声がD1の意識を引き戻した。

「お兄ちゃんのお名前、教えて」

 不思議な声だと思った。ただの少女の声なのに、どうしても応えてあげないといけない気になる。

「DIS001。通称ディスだ」

 名前を型番と通称と二つ名乗ったせいか、彼女は混乱したみたいだった。これにさらに兄弟機がいる時の呼び名が『D1』であることを告げればアルヒェはもっと混乱しただろうとD1は思った。

「うーん……じゃあ、お兄ちゃんだ!」

 少し悩んだ後、少女はパッと輝かせる。

「よろしくね、お兄ちゃん」

 アルヒェがD1の手に自然と手を伸ばす。手を繋ごうと思ったのだろうが、D1は反射的に振り払おうとしてしまった。

 人の命を奪ってしまう。それだけの為に造られた手に、無垢な少女を触れさせてはいけないと思った。

「あ……」

 所有者に護衛を頼まれてる対象に、なんてことを。普通なら命令と反射的な反応がせめぎあってその信号が痛みを生むのに、今回は何も起きない。

 反射的に動いた手も、中途半端なところで止まってしまっている。何が起きたのかD1にはわからなかった。

「ごめんね、お兄ちゃん。触ったりしないから」

 アルヒェは笑う。D1は説明を求めようと、母親の方に視線を向けた。

「……今のは……」

「アルヒェは、ありとあらゆる機械の『声』を聞くことができるみたいなのよ。アンドロイドも例外じゃないわ」

 簡単に彼女はそう言ったが、D1の感じたところでは恐らくそれだけではない。アルヒェはアンドロイドや他の自動機械に対して何か干渉が行えるのではないか。

 D1はアルヒェと過ごすうちに、自分の感じたことが間違いではないと知った。

 彼女と暮らすアンドロイドは家政型のかなり初期のタイプが一体、そしてD1だけだ。

 家政型アンドロイド、エーファは淡々と家の業務をこなしているが、その他は全て自動機械だ。

 人間が細かく設定しないと動かないところがあるはずの機械は、アルヒェが声を掛けただけで動き出す。

「みんな、お友達なの」

 アルヒェはD1が自動機械に声を掛けていることに疑問を浮かべると、そう答えた。



 ******




 流れ込んでくる記憶に、ディスは顔をしかめた。

 腕の中でアルヒェは眠ったままだ。

 そのアルヒェの首から下げたペンダントにはD1の記憶回路が特殊な加工を施してくっついている。

 どうやらデータ転送の中継のようなことまでできるらしく、無意識下で彼女はD1の記憶をディスに転送しているようだ。

 彼女がD1の記憶回路を読んでも、元が軍用なだけに特殊な暗号化が施されていて、読めない。

 だがディスは同型機であるために、読み込みができるのだ。

 ディスにとって、それは映画を見ているような気分の代物。

 時々断片的に、静止画として再生されることはあったが、映像として展開されるのは初めてだった。

 今日、D1の事を話したせいなのだろうかと、ディスは苦笑した。

 この記憶の再生はいつまで続くのだろう、とディスは視覚を一旦遮断して考える。

 再生される映像と、実際に見える風景と、同時には処理が難しい。

 アルヒェから離れれば、記憶の再生は止まるだろう。

 しかし、ディスはアルヒェのそばを離れるつもりなど、欠片もなかった。



 やがて再生される記憶は『流星群の日』へと至る。

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