表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

Ⅳ レイの代替 前編

「楓、さん、ですか……」

 僕の声は、目の前の女性──いや、もう楓とするしかあるまい──に尋ねているというよりは、自分自身にその事実を信じ込ませようとしているかのようだった。

 なにせ、掲示板の編入を示す貼り紙がある。この玲によく似た楓という大学生は、今年から法学部に転部してきたのだ。毎年数人は絶対にやると言われている、経済から法への転向(逆も然りだけど)。通例では三年生のときにすることになっていて、経済学部において取得した単位がそれなりに法学部でも通用することから、文学部などに行くよりは楽な選択肢であった。

「……そう、ですよ?」

 楓も目の前の男の態度に不審さを露わにしたままだが、ポケットからカードケースを取り出して、おそらく転部に伴って最近更新されたのであろう学生証を僕に見せた。服部楓、法学部。

「去年までのは、さっき学生課に返却しちゃいましたけど」

「いや、そこまでしていただかなくても」

 していただかなくても、という自分の言い回しに内心苦笑する。堅苦しいことこの上ない。

「それもそうですね。あの……あなたは?」

 尋ねられ、僕はまだ名乗っていなかったことを思い出した。そりゃそうだ、こちとら楓を玲だと思って接したんだから。

「雪見──雪見正直です」

 非常に違和感がある。初めてなのであろうが、今更の分かり切った感というのだろうか、中学英語で「This is an apple.」と発音したときの、なぜそれをあえて言葉にする、と不思議がるような。

「雪見さん、ですね。法学部の方ですか?」

「え? ああ、はい。三年なので、同級生かと」

「あ、そうなんだ」

 楓は一つ頷いて、ポニーテールを上下に揺らした。そのどちらかと言えば積極的な仕草に、玲とは異なるものを覚えて、僕は少しだけ肩の力が抜けた気分になった。

「だったら、堅苦しい敬語はなしにしましょう。雪見君、でいい?」

「うん、もちろん……服部、さん」

 その呼び方は、去年もそうだったはずなんだけど。

 しかし、こうして言葉を交わしていると、この楓という人物は、本当に玲ではないのかもしれないと思わせるものがある。

 ──なんというか、()()()()のだ。

 それが嫌だとか、一歩ひいてしまうとか、ネガティブな意味ではない。正確を期すなら、玲と比べて馴れ馴れしい、だ。親しかろうとも他人とは一線を引いていた玲とは、かなりの違いがある。

「そう、それ!」

 と、楓が声を上げて指を銃型にする。これも玲ならまずやらない仕草だ。

「なん、ですか?」

 いきなりの行動に、なしにしましょうと決めたばかりの丁寧語が口をついてしまう。それ、とはなんだ。

「どうして私のことを、知っているの? 私は申し訳ないけど、雪見君を見るのはたぶん初めてだよ」

「え? ……ああ」

 玲と同じ顔をして何を言い出すのだと感じたのは一瞬のこと。僕の心中は、逆の方向に傾き始めていた。

 玲と、楓。これは、正真正銘の別人か?

 服部玲が服部楓という別人の振りをしているだけではないとでも?

「その……去年まで、服部さんと同じ顔の服部さんと過ごしていたもので」

 それでも僅かな揶揄を込めて、正直に言ってやる。楓の言動を嘘だと思う心の部分が、言葉尻に棘を含ませた。

 すると、楓の顔色がさっと急変する。

「同じ顔の、服部……?」

 玲の、いや楓の沈黙。

「それって……のこと?」

「知ってるんですか」

 そうか、知っているのか──となったところで、分かった。次の瞬間、僕は完全に合点がいった。

「なんだ、そうか! 二人はなんだな!」

 考えてみればそうだ。幽霊化した玲とイメチェンをした楓を同一人物と決めつけるよりも、こっちのほうがよっぽど合理的だ。同じ三年生だし、これだけ似ているし、それでも性格には差が出ているようだし、これはもう一卵性の双子以外に考えられない。

 非常にすっきりした気分に浸っていると、楓は眉をひそめて言った。

「や、確かに玲は私の姉だけど……年は()()()

 笑いかけていた僕の顔の筋肉が、硬直した。

「というか、雪見君も知ってるかもしれないけど……七年近く前に、()()()

 今度は息も止まった。


 ──服部玲は、幽霊だ。


 一馬の言葉が、脳内でリフレインした。それとともに、頭が情報の整理を始める。

 玲は七年前に死んだ。

 教養棟の教室で、不可解な謎を残して。

 そして、幽霊と化した。

 七年──いや、六年か──の後、それを視認できる僕が現れて。

 つい先日、僕の前から消えた。

 同じ日に、一馬も自殺をして。

 また幽霊となって、桃香の前に現れた、らしい。

 一連の流れに因果関係がどれくらいあるのかは分からない。一馬の自殺は、玲と関連があるのか、逆に玲の失踪は一馬の自殺と関係があるのか、そもそも一馬は本当に自殺したと言い切れるのか。

 何より、ここまで頻発している幽霊という現象を、どこまで信じればいいのだろうか。

 謎が深まる。僕一人では解けそうにもない。ついつい理穂さんの姿が頭に浮かんだが、すぐ頼るのは安易と打ち消した。

「……ん? んん?」

 唐突に、楓が首をかしげた。

「雪見君が姉さんを知っているのは、別にいいんだよね。この大学にいれば、あの変死騒ぎは多少知られているし、死んだ人間の名前が服部玲ってことまで知ってる人はそういないけど、調べれば分かることだし。ただ……一緒にいた?」

 そして、サッと顔色を変えて、

「ちょっと! それ、どういうこと? だって姉さんは七年前にここで死んでるんだよ? まさか……幽霊?」

 僕の服を掴むようにして、激しく問い詰めてきた。

 僕はそれに、驚きを覚える。

 玲が幽霊とかいう話ではない。そちらは未だに混乱の極みにある案件なので、純粋に驚くことはできそうにない。そっちではなくて、楓の行動だ。

 僕の服を、つかんでいる。

 潔癖症の気があり、自分からは他人に触れようとしなかった玲が、こんなことを──おっといけない、玲と楓を混同しすぎているぞ。目の前にいるのは楓で、玲()()()()()()人物だ。さっきから玲=楓を否定するようなことばかり起きているし、断定はしないほうがいい。というか、とりあえず二人は別人だと考えておこう。ただし、玲が幽霊だとはまだ信じない。楓と玲は同一人物か、双子で楓が嘘をついているかだ。その場合、服部玲は確かにいるが、同姓同名なだけで七年前に死んだ玲とは関係がない、みたいな。服部という苗字も玲という名前も、探せば大勢いるだろう。同姓同名を主張できないような珍しさではないと思う。

 そうすると現在の判断では、楓が嘘をついている可能性が高くなる。それが真実だと決まったわけではないのだが、心の奥が少しざわめいた。

 嘘かよ、という落胆は、この僕には特に影を落とす。

「ねえ! どうしたの! ビックリしたような顔して」

 ぐいぐい、と僕の手を引く楓に、やはり意外なものを感じた。嘘はつかず、そのことを告げる。玲と名乗る女と一年ほど付き合いがあったこと。彼女が他人に触れたがらない上、楓と姿は瓜二つであるゆえに、このように触られて驚いたこと。

「確かに私と姉さんの今頃はすごくよく似ているけど、別人だよ」

 やや不機嫌をにじませた声で楓は言った。それを受けて、いいやすごくよく似ているというか、瓜二つと断言できるだろうね、なんて考えていると、

 突如僕の胴体が、柔らかい感触に包まれた。

 え、と思考が止まったのはほんの一瞬で、すぐに状況を理解する。

 ──服部楓に、抱きつかれている。

 正面からのハグ。下手すると二十センチはある身長差のために、俯き加減の顔は見えず、頭頂部までしっかり茶色い髪を見下ろすばかり。

 こんなに冷静に分析できてはいても、僕の脳はショートしてしまったようで。

 なにをしているんだ、と突き放すこともできずに、そのまま僕からも抱きしめることはもっとできずに(する必要がないが)、現実時間で数秒、体感時間で数分が経過した。

 女の子の身体って、柔らかいのな。

 思考がついに純粋な感想レベルまで堕落したとき、視界の端に知らない学生を見つけた。こちらを眺め、ニヤリとしてくる。

 それで急速に我に返った。

「ちょ、ちょっと服部さん」

 ぐい、と強引に押し返すと、えらく紅潮した顔が見えた。

「……ごめん。つい。潔癖症なんかじゃないもん、って示したくて」

 照れたまま弁解されると余計に気まずい。かといって嫌だったかと言われればそうではなかったので、僕は沈黙を貫くことにした。嘘はよくないが、黙っている分には仕方ない。

『大学構内にて急に抱き合うバカップル確認(・_・;)』

 みたいなことを、あの学生がSNSに書き込まないことを祈りつつ、僕は楓に問う。

「それよりも、僕だって確認したいんだよ。僕は去年、服部玲っていう君にすごくよく似た女の子と知り合いだったわけなんだけど、最近会えていないんだ。となると、君こそが玲であるって考えるのが自然だろ。違うの?」

 本当は双子なのでは、と考えているのだが、ここも確認しておきたかった。

「違うよ。玲は死んだ姉さん。死体がいきなり出現する、なんてちっちゃな都市伝説を残して死んだ、私の姉さんだもん」

 その噂は知っている。そうだ、ネットで調べたときに見たんだった。

「でも、それって……」

「この世に未練があって、幽霊になってたってこと、かな? それで何らかの理由で姿を消したんだよ。ねえ、心当たり、ない?」

「……分からない」

 ない、と断言するには罪悪感がある。幽霊かそうでないかはともかく、玲が姿を消したのは確かだ。心当たりというほどではないが、最後の別れ際に大きな声で名前を呼ばれたのは今でも気になっている。しかしそれが何を指すのかは全く分からないので、正直にそう答えた。

「とりあえず、雪見君とはちゃんと話したいな。姉さんのことは……思うところもあるし。そうだなあ、今日授業終わるの、いつ?」

 僕と楓はスケジュールを確認し、四時間目の終了後、四時半ごろにもう一度落ち合うことにした。授業は被っていなかったので、そのまま別れて別々のほうへと向かう。

 去り際にもう一度掲示板を確認したが、やはり楓の転部を示すそれは、大学公式のものだった。やはり、疑うことはできない。


          ○


 昨日桃香から色々と知らされた時は授業どころではなかったが、今日は比較的落ち着いていられた。後に楓と会うことを確約していたし、妙に急いでも仕方がないことを学習したからかもしれない。

 ただ、心をかき乱すこともしっかりとあった。

 四時間目の講義に、その桃香と鉢合わせた。それは構わない。むしろちゃんと大学に来てもらった方がいい。また、昨日の出会い頭のアレは鳴りをひそめていて、いつもの桃香に近い様子だった。僕としては、もう少し鬱屈としていてもいいくらいだなあと感じたものだが。

 それで、困ったことである。

 極力一馬の話題をするのはやめようと思っていたため、他愛のない会話に終始していたのだが、あるタイミングで、桃香が窓の外を見て言ったのだ。

「あー。()

 ……なんだって?

 指差す方を見やるが、ここは高さが三階相当で窓の外から見える人の判別は厳しいものがある。そもそも一馬は死んでいるんだから、これは桃香の幻想だと分かってはいるが、つい「ウォーリーをさがせ!」に気合いを入れるかのように見てしまう。

 ──と。

 ちらっと、視界に入った気がしたのだ。

 もちろん、一馬が。

 一瞬だけそれっぽいのを発見しただけで、すぐに見失ったから確証はない。他人の空似だろう。けれど、桃香につられてそれらしきものを認知するあたり、僕も参っているのだろうか。

 あるいは、本当に一馬は幽霊となっていて、玲の幽霊を見ることのできた僕や桃香に感知されているのだ……なんてね。理穂さんが僕に言ったことを思い出せ。思い込みは心身に悪い影響が出てしまうぞ。

 さすがに僕は、桃香の精神の安定具合が今どの程度なのかが気になって、

「そういえば、お兄さんは元気?」

 と、無難な質問から入って行った。

「あたしのこと心配してくれてるみたいだけど、一馬が死んじゃってからは会ってないなあ。お仕事もあるだろうし」

 これは中々冷めた言い草だ。僕は桃香のことをブラコンであると思っている。確か知り合って三日目くらいだったか、自分の兄貴の小説の良さを小一時間も語られた記憶がある。イケメンだと言っていたこともあった(だから僕の中で、花村孝介はイケメンになっている)。

「そっか。あとさ。一馬の幽霊って……どんな格好してるの?」

 いけると思い、ぐっと話題を切り替える。嫌な顔はされなかった。

「んー、普段通りかな。たまーにあたしの前に現れて、喋ってくれたりするよー。今日は見てなかったけど、大学内をうろついているんだね」

 ショートボブをふんわりと揺らして言う桃香に、そんなのはお前の妄想だ、とは言えなかった。玲の存在が僕をためらわせる。そういえば理穂さんの推測に、幽霊は自分の外見を自由に変えることができてもおかしくはない、とあったが、やはり一馬もそうなのだろうか。縊死だというし、そのまま幽霊になって出てこられるとグロテスクだ。

 ……おいおい。また、幽霊の存在を前提として考えてしまっている。

 僕は自分に嘆息して、桃香が変にならないうちに始まった講義に感謝しつつ、幽霊ってなんだろうなと考えながらノートをとったものだった。


 そして、今に至る。


 法学部の演習室や自習室などがある棟の、談話室の一角である。座り心地のよい椅子に向かい合わせに掛けて、僕は楓と対峙していた。

「……とりあえず」

 先に口を開いたのは、僕だった。

「君のお姉さん()()()()服部玲について、ちょっと聞かせて欲しい」

 未だ残った矜持が、姉妹関係を認めきらない。楓はそれを気にするふうでもなく、

「うん、分かった。でも、あんまり意味はないかも。私が小学生のときに、もう一人暮らしをはじめちゃったから」

 七つ離れていればそうなるか。楓が告げた地元を聞いて、そういえば玲も同じことを言っていたなと思い出す。桃香や一馬ほどではないが、ここから遠い。

「まあ、潔癖なところは……あったなあ。あんまり人付き合いしない感じだったよ」

「それはわかるな」

「やっぱり、雪見君……だけじゃないから、雪見君たち、が見ていた姉さんも、そんなの?」

「……まあ」

 ここらはやはり、対応に困るものがある。こちらとしては、玲が幽霊だという了解を設定したくないわけで、

「はっきりさせておくけど、僕は服部玲が幽霊だってこと、信じきってはないからね」

「ええ? だって、記事にもなってることだよ?」

「それはそうなんだけども」

 もちろん楓の言う通り解釈するのが非常にすっきりする。しかし服部玲という名前が極端に珍しいわけでもなし、同姓同名の可能性を全く無視してオカルトに走るのだけは避けたい。思い込みの危険性を意識しなければ。

「ところで」

 話題が詰まり気味だったので、少し転換してやる。

「服部さんは、どうして転部したの?」

「ええと、私、本当は法学部に入りたかったんだよね」

「そうなの?」

「うん。でも、高校の時の成績がちょっと微妙で、法学部はきついところがあって。でも親は浪人してほしくなさそうだったし」

 この大学は、法学部と経済学部では前者のほうが難関とされている。一般的にそうだと言われるが、うちの場合はそれが顕著だ。ゆえに、とりあえず経済学部に入っておいて、あとから転部するという試みをする学生はいるし、その気持ちはよく分かった。

「悪いこと訊いちゃったね」

「ううん、いいの。それに、姉さんと同じところに行こうって気持ちもあったんだ。法学部にこだわるなら、ランク下げてもよかったんだし」

 一息ついて、

「だから、雪見君が姉さんを見たって聞いて、本当に驚いたの。そうでしょ? だってもう死んでるんだよ?」

「そう。もう死んでるんだよ。だから、それが幽霊と考えるよりは、なにかの間違いだという線を追ったほうがいくらか現実的だと思う」

「だって、あんな死に方したんだから、幽霊になってもおかしくはないもん」

 ──ああ、やっぱり()()か。

 僕は理解した。玲=幽霊という発想に簡単に行き着くのは、それが根底に蠢いているからなのか。玲とは打って変わって表情豊かに言葉を紡ぐ楓の姿は、ポップチューンとバラードを歌い分ける歌手のような二重性を僕に与えるが、そのブレのようなものがふっと消え、楓そのものが見えたような気がした。

 いわくありげな死を迎えると幽霊になる。昔の説話から未来を描いたフィクションまで、幾度となく繰り返されたイメージだ。それらがこびりついているせいか、僕たちはそれを非常に「ありえる」と感じてしまう。

「その、服部玲の死んだときの状況なんだけど……詳しいことは知ってるのかな? 僕は単に死体がいきなり現れたっていうくらいの知識なんだけど」

「私も、自分で調べただけの知識しか持ってないんだ。自殺で処理されたから」

「服毒死らしいけど、毒物の入手経路、とかは?」

「ネットでちょっと頑張れば買えるやつみたいだったから、何とも」

「まあ、そうか」

 きょうび、というよりもここ何年、毒物なんて手に入れようと思ったら容易であるはずだ。一人暮らしをしていれば尚更である。

「じゃあ、死体が急に現れたっていうのは、どういうことなんだろう? ネットで見た情報だと──」

 僕は事件が起きたとされている教室名を告げた。

「うん、そこで合ってる。それは、週刊誌に載ってたよ」

 なるほど、週刊誌か。新聞よりも詳しいことがあってもおかしくはない。惜しむらくは、今から手に入れようとするには相当の努力を要するというところかな。七年前の週刊誌ってどこに行けば見られるのだろう。我らが大学図書館も手におえないところではないだろうか。

 ちなみに人死にのあった教室は教養棟と俗称される、主に一年生のときに受ける一般教養の科目が多く開講されているところの一室だった。法学部棟からも少し近い。僕も一昨年は、足繁くここに通っていたし、オカルト好きな学生はこの時期に噂を耳にするのだろう。ひょっとすると、うちのオカルト研究会なんかはこれを真剣に調べているかもしれない。

「やっぱりかー。そういえば英語の講義、リーディングのほうあそこだったな」

 僕は溜息をついた。どうして今まで、この話を耳にしなかったのだろうか。

「でも、死体がいきなり現れるって、いったい?」

 普通の教室である。三人掛けの机が四列七行くらいあるような広さだったはずだ。

「えっと。これも情報の出所が週刊誌ベースなんだけど」

 そう断って、楓は話し始めた。

「目撃者は、授業時間の終わりごろにその教室に来たんだって。とんでもない遅刻じゃなくって、逆にその次のコマのためにね。それで、どうやら中は授業をしていないらしいと判断して、ドアを開けたの」

 僕はその情景をイメージする。教室内部の様子は外部から見ることができないつくりだけれど、近づいたら授業が行われているかどうかは音で分かる(それで空き教室だと思って入ったら試験中だった、なんて笑い話があるけどね)。

 ドアはL字型のノブが付いたオーソドックスなものだ。内側に押すようにして開く。

「それで中に入っても、案の定誰もいないよね。だけど、目撃者がドアを閉めて、ふっと振り返ったら……()()んだって。姉さんが、机に突っ伏すようにして」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ