α Prelude
電話はすませた。
もう、やり残したことはない。
部屋を見回す。およそ二年の間、こもって魂を削ってきた場所。
雑多なジャンルの書籍が突っ込まれた本棚。
漫画、小説、新書、訳書、図鑑、雑誌。色々なものが詰まっている。
少し視線をずらせば、そこかしこに散らばった紙束。
整然と積まれた段ボール箱の中にも、また紙束。
段ボール箱の上面に、律儀にも自分の名前が書いてある。ひらがなで、三文字。
その傍には、ほとんど閉じたカーテンのせいで、うすぼんやりとした光しか反射しない机。
さらにその上に乗っかっている、酷使したノートパソコン。
……ごちゃごちゃの部屋だ。
反面、衣・食にかかわるスペースは、整然としている。
カオスとコスモスのコントラスト。
……よく、わかる。
自室の中央に立てば、椅子の上に立てば、よくわかる。よく見える。
そして、首のまわりにはロープ。
天井のフックを介して、床にある突起にしっかりと結びつけたロープ。
あとは椅子を蹴れば、おしまい。
あれを見てしまった以上、こうするしかない。
こうするしか、ないのだ。
……不思議と穏やかな気分に浸っている。これから自殺を図るというのに。
あれを見てしまってから、ぼくの中で感情の起伏は失われてしまったのかもしれない。
まあ、それでも、構わない。
どうせなら、この気分が変わらないうちにやってしまおう。
ぼくの居場所は、ここではないのだから。
ぼくはここに、いない、いない。
ぼくはここに、いない、いない、いない。
ぼくは椅子を、椅子を、椅子を、椅子を──