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β Interlude

 ぼくは、嘘が好きではなかった。

 そういうところも、自殺を選んだ理由かもしれない。

 二十歳での死。夭折と言っていいのだろうか。あれはどうも、才能ある人にしか使えない気がする。

 実際ぼくに才能など、まったくない、なかったのだから。

 若いのにねえ。まだ将来があるというのに。

 そういう声もあることだろう。

 けれど、自分で決めたのだ。あれを見てしまったら、もういいと。

 生きていたくないと思ってしまった。

 あるいは、思わされた?

 よくわからない。

 とにかく、その結果が、これだ。

 この世からの、さよなら。

 ──まあ、まさか幽霊になってこの世に留まるだなんて、予想だにしていなかったけど。

 嘘が苦手なぼくに起こった、嘘みたいな出来事。

 受け入れるしか、ない。

 というわけで、とりあえずぼくは、今日もぼくが見える彼女のもとへゆく。


          ○


 あたしは眠っている。比喩ではなくて、お布団の上で、枕に頭を乗せて。

 一馬が死んでしまったことは本当にショックだった。世界の終わりを、あの衝撃で定義してもいいとさえ思った。

 けれど、一馬は幽霊になってあたしのもとに来てくれた。

 もう何も怖くない。あたしは全ての悲しみを乗り越えた。

 けれども、寝ているあたしはたまに泣いている。

 どんな夢を見ているのだろう。起きたときには大体忘れているから分からない。

 でも、大きな目から、ツウと涙を流している。

 一馬、とか、お兄ちゃん、とか、悲しげな声の寝言が漏れる。

 どんな夢を見ているのだろう。分からないけれど、問いかけたくなる。

 そもそも、夜中にあたしが泣くことがあることを、あたし自身は気づいていないけれど。


          ○


 私は電話を終えた。

 どうしよう、と心の中で呟く。選択肢は一つしかないのに、どうしようと呟いてしまう。 逃避ができないのに逃避の余地を探してしまう心。

 しかし、覚悟を決めざるを得ない。

 ──私は、もう逃げていてはいけないのだから。

 決意を胸に、私は自分の携帯電話を取った。


          ○


 わたしは考える。

 本当に、これでよかったのだろうか。

 本当は、彼にかけたい魔法は三つあった。それを、二つにした。

 一つ減らしたのではない。全く違う二つを選んだのだ。

 実は、三つの魔法なんてものは、既に彼に話している。

 フリーペーパーの怪談の謎。空飛ぶ人影の謎。途切れた足跡の謎。

 これらを解決した(といっても、くだらないもの揃いだったけれど)ときに、諭すように言った。

 ──人間、やると決めたらどんな手を使ってもやる。

 ──人間、どうしても思い込んでしまうものである。

 ──そして、謎なんてものは、答えが分かってから正当化される。

 二つ目の「思い込み」は、魔法の二つ目で解いてやったとは思う。一つ目の「手段」も、彼ならば気付いてくれるだろう。しかし、三番目。こちらはむしろ、隠蔽してしまった。

 ──どうやらわたしも、我が身が可愛いらしい。

 わたしは人知れず溜息をついた。困ったことに、これでいいのだと達観している自分もいるのだから始末に負えない。嘘をつくことは良くないが、嘘をつかないからといって曲解されないとは限らない。そう思ってしまっている。

 おそらく明日、彼は大きな転機を迎えることだろう。そのあとの彼に、わたしは会う資格があるだろうか。

 ──ゆっくりと考えればいいか。わたしは自答した。こうして先送りにするのがわたしである。伊達に、長年大学生をやっていないのだから。


          ○


 これは自分で蒔いた種だ。明日は行かざるを得まい。

 夜が更けなければいいのに、あるいはもう更けてしまえ。

 ──今の感情はどちらだろうか。


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